夜紅譚

黒蝶

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第21章『夜の学校』

番外篇『想いがこめられたもの』

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「う、うう……」
「どうした?」
巨大な邪気を感じとった瞬間、瞬の力が暴発した。
《イ、痛イよ……》
頭を抱えて暴れまわる。
過去の傷が瞬の心から完全に消えることはない。
そこにこんな毒気が強い力が流れこめば、心身に不調をきたすのは当然だろう。
…俺にできるのはこんなことしかない。
「大丈夫だ」
糸を上手く広げ、できるだけ外部からの力が注ぎこまれないようにする。
瞬が完全に暴走すれば助けられないかもしれない。
「……もう、こわいこと、ない?」
「ないよ」
今にも倒れそうな体を抱きしめ、落ち着くまで頭を撫でる。
心が壊れてしまわないように。…もう二度と離さないと誓ったんだ。
そうこうしているうちに、泣き疲れたのか眠ってしまった。
今はこれでいい。後で散らばったものを片づけておけば問題ないだろう。
……それから折原たちが来たりと色々あったものの、特に深くつっこむことなくすませてくれた。
「……あまり無理をするな」
「先生はちょっと過保護だと思う」
あれからなんとなく元気がない姿を目の当たりにすると、少し胸が締めつけられる。
こいつはきっと自分を責めているのだろう。
…俺がもう少し器用なら、何かできただろうか。
「ほら、食え」
「……!」
いつもの和風朝食に添えたはちみつレモンの存在に気づいたらしい。
「これ、先生が作ったの?」
「実験ついでにな」
「本当かな…あ、飲みやすい」
一緒に食事を摂って、一旦教師としての仕事を片づけに保健室へ向かう。
様々な情報を集め、人が少ない職員室で書類仕事を終えた。
「先生、あのね…」
「どうした?どこか痛むのか?」
「そうじゃなくて…これ」
綺麗にラッピングされた包みを渡され首を傾げる。
「本当は6月に渡すつもりだったんだけど、タイミングが分からなくなっちゃって…。開けてみて」
中から出てきたのはネクタイピンとボールペンだった。
「ひな君と詩乃ちゃんにビデオ通話でつないでもらって選んだんだ。…先生には迷惑かけっぱなしだから、何かしたかった」
「俺がやりたくてやっていることだ。けどまあ、その…ありがとう」
嬉しくないわけじゃない。寧ろ、この気持ちをどうすればいいか分からないくらいは胸が熱くなっている。
「本当はネクタイを用意したかったんだけど、懐事情が、その……」
「贈り物というのは、相手への想いがどれだけこめられているかで決まる。おまえが選んでくれたものならそれだけで充分だ」
「…そっか」
心底安堵したように息を吐く瞬の頭を軽く撫でる。
やはりこいつがいない未来なんて考えられない。
滅多に使わないネクタイを身につけ、夜にそなえる。
「怖すぎるのは嫌だよ?」
「…善処する」
こうして今夜も、噂相手に淡々と対処する。
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