夜紅譚

黒蝶

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第22章『死者の案内人』

第201話

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「混ざりもの、か」
「間違ってはいないから否定できなかった」
先生と打ち合わせをするために、瞬と陽向に一緒にいてもらうことにして作戦会議をする。
「格技場あたりにいるみたいだけど、私も気配と足音しか察知できなかった」
「…そうか」
瞬を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
今1番に考えなければならないのはそれだろう。
「今回の相手は厄介そうだな」
「ああ。けど、無関係の死霊が喰われるのだけは阻止しないと。勿論、私たちの仲間も含めて」
「岡副も何度も死んでいるからな…」
正直言って、死者ではないものの何度も死んでは生き返りを繰り返している陽向も死者と見間違えられる可能性がないわけじゃない。
「…あのふたりにしておくの、まずくないか?」
「急ぐぞ」
もう日が沈み、捕食者も多少活発に動ける時間にさしかかっている。
まだ本調子ではない瞬や生き死にという概念から一時的に外れている陽向が狙われればひとたまりもない。
「ごめん、思ったより時間がかかって──」
扉を開けた瞬間飛びこんできたのは、絶望の一言では表しきれないものだった。
「先、輩…ちび、連れ、逃げて……」
《キャハハ!》
愉しそうに嗤いながら陽向の首を絞めるタコのような何かと、どうすることもできずに震えている瞬。
「立てるか?」
「でも、ひな君が…どうしよう、どうしよう……」
相手の話を聞いて何か解決策があればなんて考え、今回は甘すぎた。
《ギャア!》
「詩乃、ちゃん…?」
「分身ごときで私と戦えると思うな」
陽向の首に巻きついていたものを燃やし、嗤っていた体を燃やし、かすかに残った気配を燃やし…。
相手に関して何も感じなくなるほど全てを消し去った。
「……っ、げほげほ!」
「大丈夫か?」
「すみません、助かりました。…やっぱ先輩だけは怒らせたくないです」
「…?何の話だ」
気配をいまひとつ読みきれなかったのは、ここにいるのが本体ではなかったからだ。
どうしてそんな単純なことに気づかなかったんだろう。
「詩乃ちゃん、今の……」
「ごめん。怖がらせたな」
怒りのあまり加減というものを忘れていた。
誰かを怖がらせたいわけではないのに、時々こうなってしまうことがある。
避けられると思ったが、瞬はほっとしたように微笑む。
「助けてくれてありがとう」
「…間に合ってよかった」
今夜中に町にいるであろう本体を捕まえて、瞬が安心して過ごせるようにしたい。
「さっき話したとおり、先生は学園で見張りを頼む。何か現れたらすぐ連絡してくれ」
「分かった」
「陽向、いけそうか?」
「勿論です」
瞬は首を傾げていたが、これで作戦は決まった。
町内をぶらついてすぐ出てきてくれればいいが、そう都合よく現れてはくれないだろう。
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