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第26章『新たな露』
番外篇『枯れかけの露』
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《ご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした》
頭を下げる彼女に顔を上げるよう言う。
「暴走したら誰だってああなる。…これからよろしく、黒露」
手を差し出すと、弱々しい力で握られた。
そのとき、着物の袖からちらっと腕が見える。
「ちょっとごめん」
《え?》
そこをまくってみると、花弁のような痣が肩のあたりまで広がっていた。
「その痣、いつからある?」
《ある妖を祓った後からだと思いますが…》
「熱が出たり息苦しくなったり、体から花弁が出たことはあるか?」
《あります。大きく移動したときに、真っ黒な花弁がひらひらしていました》
…ほぼ確定だ。
「教えてくれてありがとう」
《いえ。あの…もしかして、これは人間に害を与えるものなのでしょうか?》
「それはないから安心してくれ。そういえば、妖力はいらないのか?
刀を使うために妖力を使うこともあるって白露から聞いたけど…」
彼女……黒露は微笑み答える。
《彼女の霊力がとてつもなく強いので、それを陰の力として転用すれば戦えます》
「そうか」
黒露はもじもじしながら問いかけてきた。
《それでですね、その…》
何を言われるのか身構えていたが、発せられたのは拍子抜けする内容だった。
《白が着ている洋服が、その、いいなあ…と思いまして…》
黒露も欲しいものが言えない、言わないタイプのようだ。
「今度一緒に選びに行こう。今日はここを抜け出したら怒られるから、もう少し動けるようになってからお店を見てくる」
《ありがとうございます》
きらきらした瞳にもう闇は宿っていない。
早く怪我を治して黒露が気に入ってくれそうなものを探したいと思った。
「ありがとう瞬。もう終わった」
「誰も来なかったよ。新しい洋服の話してたの?」
「今度瞬にも何か買ってくる」
「え、いいの?」
「先生と出かける時の服、あった方がいいだろ?
ビデオ通話でつなぐなり、実際見に行くなりしよう」
「ありがとう!」
瞬の笑顔の後ろで先生がものすごい殺気を向けてくる。
「詩乃ちゃんは抜け出そうとしたわけじゃないよ。…診察終わったら呼んで」
「ああ」
先生は寝ている茜を手渡して、私にベッドへ戻るよう促す。
「…先生、ひとつ聞いていいか?」
「なんだ」
「痣花って知ってるか?」
「痣花だと?」
「…多分黒露が患ってる。今のところ本人に自覚はないけど、これから先どうなるか分からない」
痣花…簡潔に言うと難病だ。
花弁が散る度弱っていき、やがて消滅する。
治療法はいくつがあるが、とにかく入手困難な薬草が多い。
そのうえ、原因不明なため完治が難しい病である。
「これ、黒露から散った花弁」
「…調べてみるか」
先生が検査している間、黙って様子を見る。
その表情が事態の深刻さを物語っていた。
頭を下げる彼女に顔を上げるよう言う。
「暴走したら誰だってああなる。…これからよろしく、黒露」
手を差し出すと、弱々しい力で握られた。
そのとき、着物の袖からちらっと腕が見える。
「ちょっとごめん」
《え?》
そこをまくってみると、花弁のような痣が肩のあたりまで広がっていた。
「その痣、いつからある?」
《ある妖を祓った後からだと思いますが…》
「熱が出たり息苦しくなったり、体から花弁が出たことはあるか?」
《あります。大きく移動したときに、真っ黒な花弁がひらひらしていました》
…ほぼ確定だ。
「教えてくれてありがとう」
《いえ。あの…もしかして、これは人間に害を与えるものなのでしょうか?》
「それはないから安心してくれ。そういえば、妖力はいらないのか?
刀を使うために妖力を使うこともあるって白露から聞いたけど…」
彼女……黒露は微笑み答える。
《彼女の霊力がとてつもなく強いので、それを陰の力として転用すれば戦えます》
「そうか」
黒露はもじもじしながら問いかけてきた。
《それでですね、その…》
何を言われるのか身構えていたが、発せられたのは拍子抜けする内容だった。
《白が着ている洋服が、その、いいなあ…と思いまして…》
黒露も欲しいものが言えない、言わないタイプのようだ。
「今度一緒に選びに行こう。今日はここを抜け出したら怒られるから、もう少し動けるようになってからお店を見てくる」
《ありがとうございます》
きらきらした瞳にもう闇は宿っていない。
早く怪我を治して黒露が気に入ってくれそうなものを探したいと思った。
「ありがとう瞬。もう終わった」
「誰も来なかったよ。新しい洋服の話してたの?」
「今度瞬にも何か買ってくる」
「え、いいの?」
「先生と出かける時の服、あった方がいいだろ?
ビデオ通話でつなぐなり、実際見に行くなりしよう」
「ありがとう!」
瞬の笑顔の後ろで先生がものすごい殺気を向けてくる。
「詩乃ちゃんは抜け出そうとしたわけじゃないよ。…診察終わったら呼んで」
「ああ」
先生は寝ている茜を手渡して、私にベッドへ戻るよう促す。
「…先生、ひとつ聞いていいか?」
「なんだ」
「痣花って知ってるか?」
「痣花だと?」
「…多分黒露が患ってる。今のところ本人に自覚はないけど、これから先どうなるか分からない」
痣花…簡潔に言うと難病だ。
花弁が散る度弱っていき、やがて消滅する。
治療法はいくつがあるが、とにかく入手困難な薬草が多い。
そのうえ、原因不明なため完治が難しい病である。
「これ、黒露から散った花弁」
「…調べてみるか」
先生が検査している間、黙って様子を見る。
その表情が事態の深刻さを物語っていた。
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