夜紅譚

黒蝶

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第27章『裏取引』

第243話

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「…ここか」
噂で聞いたことがある。
情報を売ってくれる綿あめの露店があると。
「すみません」
《いらっしゃい。可愛らしい子どもだね》
《おいちい?》
《美味しいよ。お嬢さんもひとつどうだい?》
「それなら…お代はこれで足りてるか?」
《これほど上等な糸があるとは…まいどあり》
わたあめを受け取り、茜と片手を繋いだまましばらく食べていてもらうことにする。
「…伝書鳩の伝言を伝えに来た」
これが合言葉になっていると先生が教えてくれた。
相手は怪訝な表情を見せることなく息を吐く。
《何について知りたいんだ?》
「青い薔薇のエキスを探している。あとは、時計草の蔓」
《…病気なのかい?》
「助けたい人がいるんだ」
店主は真剣な表情で茜を見つめる。
《その子以外にも家族がいるのかい?》
「家族というか、仲間というか…。とにかく、不思議な縁の巡り合わせで出会った」
《そうか。分からなくはないが、交換できるものは持っているかな?》
私は、霊力を限界までこめておいたお守りを取り出す。
先生の監視の目をかいくぐり、どうにか今日までに完成させたのだ。
《これは上等な品だ。全ての情報は渡せないが、持っていそうな奴なら知っている。
本部周辺で焼きそばとかいうものの店をやっている、片目の妖がいるはずだ。そいつに聞いてみるといい》
「ありがとう」
茜の手を握ってその場を離れようとすると、店主に呼び止められた。
《あいつは気性が荒いから、不機嫌なら避けた方がいい。
狙われないようにね。…その子も、お嬢さんも》
「心配してくれてありがとう。…これ、よかったら何か買うのに使って」
集めておいた貝殻を渡すと、相手は嬉しそうに受け取ってくれた。
《感謝するよ。海に行ったことがないから、俺にとっては最高の品だ》
「喜んでもらえてよかった」
先生と連絡をとって、わたあめをくるくる回しながら食べている茜の手を引く。
《…くも?》
「雲みたいだけど、お空に浮かんでいるものとはちょっと違うんだ」
《…?》
不思議そうにしている茜と、先程教えてもらった出店へ向かう。
そこでは異様な光景が広がっていた。
《いらっしゃいませ》
《…焼きそばとおむそば、完成だ》
白露と黒露が店番をしている。
どういう状況なのか、はじめは理解できなかった。
「ふたりともどうしたんだ?」
《夜紅…?》
《色々あった》
《白、それでは伝わりませんよ。…実は主の財布が盗まれてしまったようなのです。
それを探せそうな相手のところへ連れて行くとここの店主が申し出てくださって、私たちは店番を任されています》
「そうか。…ふたりはどっちへ行った?」
《南へ進め。おそらく地下のような場所にいる》
「分かった」
ふたりは…というより穂乃が善意だと受け取ったのだろうが、このままではまずい。
茜をおぶり、左足に体重をかけた。
「茜、申し訳ないけどそのまま掴まっててくれ」
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