夜紅譚

黒蝶

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第27章『裏取引』

第245話

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私たちが手伝うことになったのは、地下に格納されている材料の運び出しだ。
茜には決して離れないよう話し、一つ目の妖が見ていない間に先生たちにメッセージを送った。
《おてちゅだい?》
「うん。絶対に離れないようにしてくれ」
《あい!》
うっかり穂乃や茜の名前を呼ばないよう気をつけつつ、どうにかはぐれないうちに作業を終わらせることができた。
《助かった》
「お役に立ててなによりです」
《…そんなにかしこまる必要はない。手当てまでしてもらって、寧ろ敬語を使わないといけないのは俺の方だ》
……今なら訊いてもいいだろうか。
「…青い薔薇のエキスってご存知ありませんか?」
「お姉ちゃん、欲しいものがあったの?」
「まあな。珍しいものだから見つからなくて…」
穂乃にも黒露の症状については話していない。
それを察してなのか、一つ目は後で話そうと言ってくれた。
《主様、おかえりなさいませ》
「ただいま、ふたりとも」
《すまないがもう少し店番を頼みたい》
《…了解した》
寝そうになっている茜をおぶり、一旦その場を離れる。
《誰から聞いた?》
「…わたあめ屋の店主に、知っているかもしれないって教えてもらったんだ」
《目的はなんだ》
「ある人の治療薬を作りたいんだ。痣花を治したい」
《痣花…成程、たしかに必要になるな。ただ、俺が持っている分では発作を抑えるのが限界だろう》
一つ目は申し訳なさそうに言う。
《実は今年、青薔薇が不作だったのだ》
「元々数が少ないと聞いているけど、更に少なかったってことか?」
《ひとつは人間に踏み荒らされたため。もうひとつは、あの妖が現れて滅茶苦茶にしたからだ》
「人間が原因ってどういうことだ?」
《珍しいものだからだろうな。乱暴に手折られたと聞いている》
知らなかった可能性があるとはいえ、折った人間は無事ではすまなかっただろう。
「少しでもいい。譲ってもらえないだろうか?」
《容易に渡せる品ではないことは分かっているだろう》
「そのうえで…お願いします」
頭を下げるくらい苦でもない。
一つ目は顎に手をあてていたが、覚悟を決めた様子ではっきり言った。
《もしお嬢さんがあのでかぶつを倒せたら全て譲ろう》
「…いいのか?」
《俺たちではどうしようもないし、お嬢さんは欲しいものが手に入る。一石二鳥だろ?》
希少なものを譲ってもらうのだから、その程度の覚悟はしなければならない。
「分かった。その条件、受けるよ」
《こっちは冗談半分で言ったのに、本当にいいのか?》
「うん。この街が素敵な場所だってことを知ってるから」
一旦その場から離れて先生たちに連絡する。
「申し訳ないんだけど、これから言う場所に来てほしい」
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