ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

文字の大きさ
11 / 74

第10話

しおりを挟む
『星空の世界を見てみましょう』
そんなアナウンスからはじまった天体ショーは、言葉では表せないくらい素敵だった。
「あんまり詳しく知らない星もある…。桜雪ちゃん、楽しんでる?」
指をとんと1回ノックすると、隣から小さい声でよかったと言っているのが聞こえた。
本当に星の世界に住んでいるような表現にずっと驚かされ続けている。
家庭用サイズのものしか見たことがなかったから、ずっとどきどきが止まらない。
『ご清聴ありがとうございました』
わいわいと人が出ていくのを座ってぼんやり見つめていると、つんつんと肩をつつかれた。
「……?」
「もう少し人が減ってから出ようか」
夏霧さんの手のひらを1回つついて一旦手を離す。
かばんにメモ帳が入っているのを確認してから、夏霧さんをじっと見つめた。
「どうかした?何か気になることとかある?」
まだ明るくなったとは言い切れない場所でどうやって伝えようか迷っていると、夏霧さんはふっと笑って右手を動かしはじめた。
「【大丈夫?】」
「……!」
手話だ。分かりやすい手の動きで伝えてくれようとしている。
「…【お時間大丈夫ですか?】」
「時間…ああ、俺今日は夜まで予定ないから、もしよければ買い物とかご飯とか、一緒に行ってもいい?」
ゆっくり頷いて、【ありがとう】と手話で伝える。
「ちゃんと伝わってよかった。俺、あんまり詳しく知らないから…」
夏霧さんは自信なさげに話しているけれど、真っ直ぐ言葉を伝えてくれるのは嬉しい。
「何か食べられそうなら、さっきの書店喫茶行かない?」
その場で頷いて立ちあがると、さり気なく手を引いてくれる。
外に出て目的地まであと少しというところで、足に何かがぶつかった。
「あ…ごめんなさい」
頭を下げる小さな女の子と視線を合わせて、そっと頭を撫でる。
怪我がなさそうでほっとしていたら、夏霧さんがいなくなっていた。
もう夜とはいえ今夜は人通りが多い。
それから、女の子が食べていたであろうアイスクリームがズボンから地面に落ちた。
「さっきのやつ、すごく綺麗だったよね!」
「見応えあったな…」
「ママ、お腹すいた!」
「もうちょっとで家だからね」
わいわい賑やかになっていく町とは逆に、どんどん不安になっていく。
こんな状況になっても誰にも声をかけられない。
どんどん心に恐怖が溜まっていくなか、後ろから手を掴まれた。
「見つけた」
夏霧さんの声に安心して、腰が抜けてしまった。
「桜雪ちゃん、大丈夫!?歩ける?」
支えてもらいながら街灯の下まで歩いて、なんとかお互いの顔が確認できるくらいの明るさの場所に立った。
「足、ひねっちゃってるかな…。ちょっとごめんね」
いきなりおぶられて頭が混乱する。
夏霧さんは軽い足取りでどこかへ向かっていく。
「…ごめん、ここしか思いつかなかった」
そこは防音室があると話題になっていたマンションで、恐らく夏霧さんの家だろうと理解した。
ゆっくりソファーにおろされて、優しく頭を撫でられる。
「取り敢えず着替えになりそうなもの探してくるから、ここに座って待ってて」
アイスがべっとりついた部分が当たらないように気をつけながら、言われたとおり待つことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...