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追憶のシグナル
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「詩乃、先輩…」
焦った様子の先輩は、再び相手に矢を放つ。
「…悪いが見逃してやれない」
相手は悲鳴をあげ、その場で暴れまわっている。
轟々と音をたてているものの、その炎が灼きつくしているのは男の体だけだ。
「まだ話せば、分かりあえたかもしれないのに…」
「ごめん。残念ながらもう手遅れなんだ。あの男の姿をよく見てみろ」
言われたとおり見てみると、男の背後には無数の腕が絡みついていた。
「あの男に騙された人間たちの怨念が、男が死んでもなお追いかけてきている。
…生きている間にそれだけの悪行を重ねたってことだ」
何をしたのかはっきり分かるわけではない。
それでも、蹴散らされてきた人たちがいて地獄に堕とそうとしている。
《ガネエエエエ!》
抑えこめていたと思っていた男は、いきなり暴れだした。
じたばたする男に詩乃先輩が少し押されている。
先輩めがけて何かが飛んでいくのが見えて、咄嗟に庇うように立った。
もう動けないと思っていたのに、体がしっかり動いてくれたおかげでなんとか先輩には当たらなかったようだ。
「陽向!」
「先、ぱ…だいじょ、ぶ、」
「全然大丈夫なんかじゃないだろ!もしこのまま死んだら…」
不安そうな表情がぼんやり見えて、この人もこんな顔をするんだと思った。
完璧すぎてすきなんて一切なかったのに、ただの優しい人なんだと分かって思わず手を伸ばした。
「俺は、死ねない。…知ってる、でしょ?」
「どういうことだ?」
「大丈……いつも、みた、いに」
だんだん口が動かなくなっていく。
今回の死に方は結構痛かったな…なんて呑気に考えながら目を閉じた。
「陽向、陽向!」
「…ああ、すみません先輩」
目を開けると、男が灰になって飛んでいっているところだった。
「どういうことなんだ?さっきまでの傷は…」
「俺、死ねなくなっちゃったんです。いつからかはっきり分からないけど…。
どんなに酷い怪我でも3分あれば治っちゃうんですよ。あの男、倒しちゃったんですね」
「ごめん。やっぱり手遅れだった」
一歩間違えれば、俺だってああなっていたかもしれない。
祖父のお金があって、桜良が隣にいてくれるからまともでいられるだけだ。
「あ、死ねないことは先輩以外にもうひとりしか知らないから秘密ですよ」
「分かった。助けてくれてありがとう。けど、無理はするな。それで助かっても嬉しくないから」
やっぱりこの人はいい人だ。
いつか桜良に会って話をしてほしい。
ふたりならきっと仲良くなれる。
「先輩。もし先輩が相手を成仏なり落ち着かせるなりしたいって考えてるなら、俺と一緒に夜まわりませんか?…夜仕事、俺たちだけじゃ限界があるので」
「俺たち?」
「もうひとりは照れ屋なんです。いつか紹介します」
「分かった。…いつもは学園内を見回っているんだ。それでよければよろしく」
これでしばらく桜良を危険な目に遭わせないですむ。
詩乃先輩を死なせず、俺はいつものやり方でいく。
この人の側で学べることも多いはずだ。
満月に近づく月が浮かぶなか、俺たちは固い握手を交わしたのだった。
──そして、この日から夜仕事がはじまったのだ。
焦った様子の先輩は、再び相手に矢を放つ。
「…悪いが見逃してやれない」
相手は悲鳴をあげ、その場で暴れまわっている。
轟々と音をたてているものの、その炎が灼きつくしているのは男の体だけだ。
「まだ話せば、分かりあえたかもしれないのに…」
「ごめん。残念ながらもう手遅れなんだ。あの男の姿をよく見てみろ」
言われたとおり見てみると、男の背後には無数の腕が絡みついていた。
「あの男に騙された人間たちの怨念が、男が死んでもなお追いかけてきている。
…生きている間にそれだけの悪行を重ねたってことだ」
何をしたのかはっきり分かるわけではない。
それでも、蹴散らされてきた人たちがいて地獄に堕とそうとしている。
《ガネエエエエ!》
抑えこめていたと思っていた男は、いきなり暴れだした。
じたばたする男に詩乃先輩が少し押されている。
先輩めがけて何かが飛んでいくのが見えて、咄嗟に庇うように立った。
もう動けないと思っていたのに、体がしっかり動いてくれたおかげでなんとか先輩には当たらなかったようだ。
「陽向!」
「先、ぱ…だいじょ、ぶ、」
「全然大丈夫なんかじゃないだろ!もしこのまま死んだら…」
不安そうな表情がぼんやり見えて、この人もこんな顔をするんだと思った。
完璧すぎてすきなんて一切なかったのに、ただの優しい人なんだと分かって思わず手を伸ばした。
「俺は、死ねない。…知ってる、でしょ?」
「どういうことだ?」
「大丈……いつも、みた、いに」
だんだん口が動かなくなっていく。
今回の死に方は結構痛かったな…なんて呑気に考えながら目を閉じた。
「陽向、陽向!」
「…ああ、すみません先輩」
目を開けると、男が灰になって飛んでいっているところだった。
「どういうことなんだ?さっきまでの傷は…」
「俺、死ねなくなっちゃったんです。いつからかはっきり分からないけど…。
どんなに酷い怪我でも3分あれば治っちゃうんですよ。あの男、倒しちゃったんですね」
「ごめん。やっぱり手遅れだった」
一歩間違えれば、俺だってああなっていたかもしれない。
祖父のお金があって、桜良が隣にいてくれるからまともでいられるだけだ。
「あ、死ねないことは先輩以外にもうひとりしか知らないから秘密ですよ」
「分かった。助けてくれてありがとう。けど、無理はするな。それで助かっても嬉しくないから」
やっぱりこの人はいい人だ。
いつか桜良に会って話をしてほしい。
ふたりならきっと仲良くなれる。
「先輩。もし先輩が相手を成仏なり落ち着かせるなりしたいって考えてるなら、俺と一緒に夜まわりませんか?…夜仕事、俺たちだけじゃ限界があるので」
「俺たち?」
「もうひとりは照れ屋なんです。いつか紹介します」
「分かった。…いつもは学園内を見回っているんだ。それでよければよろしく」
これでしばらく桜良を危険な目に遭わせないですむ。
詩乃先輩を死なせず、俺はいつものやり方でいく。
この人の側で学べることも多いはずだ。
満月に近づく月が浮かぶなか、俺たちは固い握手を交わしたのだった。
──そして、この日から夜仕事がはじまったのだ。
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