約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第7項

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「陽向、おまえいつから監査部員になったんだよ」
「ついこの間からだよ」
「岡副君、かっこよかった!」
「別に普通のことしかしてないよ」
結局、また陽向に助けられてしまった。
私だって役に立ちたいのに、どうして上手くいかないんだろう。
本当はお礼を言いたかったのに、それさえできずにその場を離れる。
おさげ眼鏡の子に話しかけてみようとしたけれど、なんとなく雰囲気がおかしいことに気づいたからだ。
「木嶋」
「あ……」
「何かあったのか?」
室星先生に心配をかけたくなくて、首を大きく横にふる。
「…話したくないならそれでいい。だが、顔色が良くないな。ついてきてくれるか?」
先生の言葉に小さく頷き、そのまま旧校舎へ辿り着く。
室星先生はいつも気を遣って、旧校舎の保健室を開けてくれるのだ。
申し訳なく思いながらも、どうしてもあの教室に戻る勇気がなくて寝させてもらうことにした。
「嫌味でも言われたか?」
「…少し」
「そうか」
先生は、必要最低限しか話さない私の言葉にも耳を傾けてくれるいい人だ。
「あの教師は気に食わないことがあればすぐ口に出すが気にするな」
「…先生は、授業に行けって言わないんですね」
「行きたくない生徒を無理矢理行かせるのがいいことだとは思えない。
無理矢理行かせて追いつめるくらいなら、俺が勉強につきあう」
その言葉に嘘はない。
だから先生は男女問わずモテモテなのだろう。
「…ありがとう、ございました。もう大丈夫です」
「そうか。何かあればすぐ言ってくれ」
「はい」
次の授業は先生の授業だから、こんなふうに声がほとんど出せない状態でも問題ない。
理科準備室に入ると、陽向が小走りで駆け寄ってくる。
「大丈夫?もしかして、ものすごく体調が悪いとか…」
「そういう、わけじゃ…ない」
「そっか。ならいいけど、あんまり無理しないようにね。噂の件はこっちでもっと調べてみるから」
ぽん、と頭を撫でられて、頬に熱が集まるのを感じる。
無自覚に緊張させて、無邪気な笑顔で心を奪って…陽向の魅力は恐ろしい。
「授業始めるぞ。着席」
「室星先生、質問なんですけど…」
「その問題なら今から解説するところだ。テストに出すから、前回休んでいた生徒は特にしっかり聞いておいてくれ。
プリントが足りなかったり、忘れてきた生徒はすぐ言うように」
先生の授業を聞きながらふと顔をあげると、おさげ眼鏡の生徒が宙に向かって手をかざす。
その瞬間、目の前のビーカーに亀裂が入った。
「伏せろ!」
陽向は周りにそう言いながら、私の頭を下げて床に激突する。
悲鳴が響き渡るなか顔をあげると、陽向の腕からぽたぽたと血が出ていた。
「陽向…」
「大丈夫大丈夫!すみません先生、ちょっと洗い流してきます」
立ちあがろうとすると、足に痛みを感じてしゃがみこむ。
よく見るとビーカーの破片が足首あたりに突き刺さっていた。
「岡副君、大丈夫!?」
「俺は平気。先生、授業続けててください」
「保健室行くなら俺が付き添う。いいですよね、先生?」
「あ、ああ…。片づけが終わるまで自習にする。みんな落ち着くように」
破片を拾っているふりをして、自分の足からも引き抜く。
みんなが騒いでいるなか、ひとり呆然と立ち尽くすおさげ眼鏡の子の姿が印象的だった。
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