約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第10項

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静まりかえった学校の裏庭で、大きな切り株の前に立つ。
「ここが、噂の元になった木…」
「やっぱり大きいんだね」
陽向の言葉に頷きながら近づいてみると、小さな声が聞こえた。
《ここだぞ》
《ああ、幼子を護っていた結界か…なんと痛ましい》
よく見ると、小さなりすのような姿をした妖がひそひそ話している。
「こんばんは。少し話を聞かせてくれないかな?」
《なんだおまえは!?人間か?》
「心配しなくても祓ったりしないからさ。ちょっと教えてほしいことがあるんだ」
《に、人間に我らが教えるだと?何を企んでいる?》
「何も。ただ、おかしな噂に左右される人たちを救いたいだけ」
陽向は物怖じせず、相手に笑顔で話しかける。
その言葉は真っ直ぐで、妖たちも嘘を吐いていないと信じてくれたみたいだ。
《何が知りたいのだ?》
「この木に宿ってた何かについて」
《あの方はそれは優しい方だった。捨てられた幼子たちを護るために体を張り、我らのような小物に食べるものを恵んでくださった。
だが、おまえたち人間が切り落としたから結界から出てこなくなってしまったのだ》
子どもたちが魅入られたという言葉の意味をずっと考えていたけれど、ようやく納得できる答えを見つけた。
愛されずに育った心を癒そうとしただけで、大樹そのものが悪いわけではなかったのだ。
「ここから結界へ行けるの?」
《我らは知らん。だが、行き来できるならもう行っている》
「それもそっか。教えてくれてありがとう」
私ひとりだったら解決できないことでも、陽向はあっという間に解決している。
もしかしなくても、私がいる意味なんてない。
……どうしていつも迷惑をかけてばかりで力になれないんだろう。
《ウア、ザ、ジ?》
「あ…」
「桜良、掴まって!」
地面に沈みそうになった体はそのまま引っ張り出されて、そのまま陽向に抱きしめられる。
「怪我してない?」
「…うん」
「ならよかった…」
りすの妖たちの怯えている姿が見えて、ゆっくり手を伸ばす。
頭を撫でると、安堵した表情でこちらを見た。
《我々も危なかったから、もう少し知っていることを話してやろう》
「え、いいの?」
《大樹には守り神のようなものがすみついていたが、切られるときに悲鳴をあげていたらしい。守り人も抵抗していたとか》
「守り人が?」
《そうそう。そのとき感じたのは邪気だったとか、周囲を取り囲むように立っていた人間たちが倒れたとか…噂程度には聞いた》
「そっか。ありがとう、おかげでなんとか助けられそうだ」
だから人間たちを閉じこめるし、門番のような人だって怒っているわけだ。
これだけの人たちに慕われていた存在が、噂によって完全に歪められている。
私にはそこまですごい力はないけれど、早く決着をつけてこの人たちのところに帰してあげたい。
そのためにやれることをやろう。
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