泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

引き逢わせ

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「兄貴」
「どうかした?」
「なんか元気なかったけど、大丈夫?」
ご飯を食べながら、そんな話をする。
兄貴は昔から独りで抱えこむところがあるので注意深く観察している...つもりだ。
「大丈夫だよ、ちょっと疲れちゃっただけ。
それより、作戦を詰めていかないと」
「...それもそうだな」
そして、作戦決行の日。
「...というわけで、今日は兄貴の彼女さんがくることになってる。
ふたりで話してみればいい」
「大翔...」
今日はまず、実家の方に向かう。
両親がいないので使い放題なのだ。
「お邪魔します...」
「どうぞ」
俺の部屋に案内してお茶を取りに行こうとすると、扉がひとりでに開いた...ように見えた。
「...兄貴」
「あ、ごめん...。こんにちは。お茶とお菓子を持ってきたんだけど」
「ありがとう、ございます」
久遠が緊張しないか少し心配だったが、なんとかなりそうだ。
「ごめん、ちょっと駅まで行ってくるね」
「迎え?」
「そんなところ」
兄貴はそう言って、猛スピードで走り去っていった。
「大翔」
「どうした?」
「私、男の人の部屋って入るの初めてなんだけど...すごく綺麗なお部屋だね」
「そうかな?普通に片づけてるだけだよ。...久遠の初めてをもらえて、本当に嬉しい」
久遠は少し恥ずかしそうに微笑む。
「兄貴から連絡...兄貴の彼女さん、迷子になったみたいだって」
実家の方にはきたことがないはずだ。
同じような路地も多いので、迷うのも不思議ではない。
...盲点だった。
「手分けして探そう。写真とかある?」
「俺は持ってない。...あ、兄貴」
「ごめんね、僕の不手際のせいで...」
「私、こっちの道を探してみますね」
「俺はこっち。兄貴は家まで帰ってみて。
彼女さん、もしかしたらいるかもしれないから」
「ふたりとも、ありがとう...」
少しずつ手探りで兄貴からもらった彼女さんの写真を元に探す。
(...いた)
「こんにちは。迷子ですか?」
「えっと...あ...」
「兄貴は家にいるから、一緒に行きましょう。
改めて自己紹介すると、俺は大翔。年近いし、敬語はなしで」
「あ、うん...!」
「ちょっとごめん」
兄貴と久遠に見つけたと送り、迷わないように気をつけろと伝えた。
会話がなくて気まずいのも嫌で、もしかしてこの人ならと話してみることにする。
「兄貴はさ、すぐ独りで頑張ってしまうんだ。
昔からそうだったけど、優しいからこそそういうところがある。
...兄貴のこと、頼みます」
「え、あ、その...私も、優翔の力になれるように頑張ってみる。
教えてくれてありがとう」
そんな話をしていると家に着いた。
「どうぞ。兄貴と久遠が待ってるはずだから」
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