泣けない、泣かない。

黒蝶

文字の大きさ
130 / 156
クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)

彼女の好きなところ-優翔×大翔-

しおりを挟む
「お邪魔します」
「どうぞ」
もう陽が傾きはじめた頃、大翔はやってきた。
...詩音を送った後だったので、少しだけ残念に思う。
時間があるときいつも勉強を教えているので不思議なことではないが、もう少し早ければ詩音に会わせられたのに...。
「今日は数学を教えてほしい」
「分かった。それじゃあまずはこことこことここの頁をやってみてくれる?」
「お、おう...」
どちらかと言えば文系である大翔は、数学が大嫌いだ。
それも分かっているので、問題を解いている間に紅茶とケーキセットを用意する。
「それが終わったらこれ食べよう」
「...頑張る」
シャープペンシルの音だけがその場に響いていて、なんだかそれが心地いい。
じっと待っていると、大翔に訊かれた。
「兄貴」
「どうしたの?」
「兄貴って、詩音さんのどこが好きになったんだ?」
あまりに唐突すぎる質問に、飲んでいた紅茶を零しそうになる。
「ちょ、いきなりどんな話...!?」
「なんとなく訊いてみたくなっただけ。...よし、できた」
勉強が終わったらねと言おうとしたのに、大翔は全部問題集を終わらせてしまったらしい。
「そんなの、沢山あるから分からないよ...」
答え合わせをしながら、ようやく発せたのはそんな言葉だった。
嘘を吐いている訳でもなく、本心から言っている。
「優しいところも、人に親切にできるところも、一生懸命取り組むところも...全部好きなんだ」
「...そっか。なんかすごいな」
「え、それってどういう意味?」
「本当に好きなんだなって思うと、ちょっとだけにやけそうになった」
僕は少し仕返しをしたくなって、思いっきり質問をぶつける。
「...そういう大翔はどうなの?」
「え?」
「大翔は久遠さんのどこが好きなの?」
「な、ちょ、え...!?」
「僕だけ教えて話さないつもり?」
「それは...そうだけど」
大翔はかなり恥ずかしそうに話しはじめた。
「優しいところ、明るいところ、食べ物を咀嚼してるときの破壊力はすごい」
...ん?
「最後の、もう1回言って」
「食べ物を咀嚼しているときの破壊力」
駄目だ、何度訊いても意味が分からない。
「もきゅもきゅって、小動物みたいだなって思うことがある」
「そうなんだ...よく見てるんだね」
大翔は恥ずかしそうにしていて、なんだか微笑ましい。
「お互い恋人のことが大好きってことだね」
「兄貴、それなんか恥ずかしい...実際そうなんだけど」
「え、そうなの?」
「紅茶、もらうな」
「そうだね、先にティータイムにしよう」
兄弟でこんな話をする日がくるとは思っていなかったので、なんだか胸がいっぱいになる。
大翔にも僕にも大切な人ができた、それだけで嬉しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妖精王の住処

穴澤空
キャラ文芸
 一人暮らしの会社員葉月弥生は、庭付きの賃貸アパートに住んでいる。そこでガーデニングをするのが、彼女の楽しみだった。  ある日通販で購入したバラの苗に、手のひらサイズの妖精の王が昼寝をしているまま届いてしまう。その妖精王は目を覚ますと「妖精王オベロンの後継である、妖精王オールベロン」と名乗った。彼は弥生の作る庭とご飯を気に入り、弥生と生活を共にすると決めてしまう。そこから、二人の生活が始まり――。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。 過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。 初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。 ◇ 🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾 🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾 🔶🐶挿絵画像入りです。 🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇‍♀️

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

処理中です...