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泣かないver.
大翔の休憩時間
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「大翔、あの、」
「...具合悪いのか?」
「違うよ。そうじゃなくて...」
なかなか上手く伝えられない。
ただ、何かを伝えたいことは察してくれているようだ。
「まだ休憩時間ははじまったばっかりだから、話せそうなタイミングで話してくれればいい」
「ありがとう...」
ほっとしたのも束の間、なんだか周りの視線を集めているような気がする。
よく見てみると、色んな場所から微笑ましいというそれが向けられていた。
「...ちょっとこっち来い」
「え、あ、」
まだ食べかけの料理のトレイを持ったまま、早足でその場を後にする。
どこに行くのかも分からないままついていくと、そこには小さな和室があった。
「ここ、勝手に使っていいの?」
「あんまり人に見られたくないお客用。まあ、最近では店員たちの内緒話の場にもなってるけどな」
大翔は賄いを机の上に置きながら、私の定食もそのまま広げてくれる。
「ここなら話しやすいだろ。それに、ご飯もゆっくり味わえる」
「確かに落ち着くけど、まさかこんなにも豪華な部屋があるなんて...」
秘密基地のようでわくわくしていると、大翔は笑って頭を撫でてくれた。
「久遠のペースでいいから、話したいときに話してほしい。
...小難しい顔をしながらメモを取ってるお客がいるって、おまえの接客をした店員が言ってたから」
「佐藤さん、だっけ」
「よくあんな細かいところまで見てたな」
人の物をよく見てしまうのは昔からの癖だ。
気味が悪いと言われてしまうこともあったけれど、こうして思わぬところで役に立つこともある。
「なんだか可愛い人だなって思って見てたんだ」
「...今のを御舟さんが聞いたらきっと妬くだろうな」
「恋人がいるんだね」
「そう。いい先輩なんだけど心配性なんだよな」
バイトについて嬉しそうに話すその姿は、なんだかいつもより可愛く見えた。
勿論本人に言ったら怒られるだろうから言わないけれど...そういう一途なところも好きだ。
「大翔の次のお休みを聞きたかったんだ。それによって進捗とか合わせられるようにしたいなって思ってたから...」
「一緒にいられるようにってこと?」
私が頷くと、大翔は項垂れるようにしてその場に倒れこんだ。
「え、大翔!?」
「なんでいつも不意をついてくるんだよ、可愛すぎだろ...」
はじめはただただ驚いていたけれど、理由を聞いて頬に熱が集まるのを感じる。
「大翔はいつだってかっこいいよ」
ついさっきまで座りこんでいたはずの大翔はもう立ちあがっていて、勢いよく抱きしめられる。
「...ここが職場じゃなかったらどうなってたか分からないな」
耳許でそう囁かれた瞬間、どこからか彼を呼ぶ声がした。
「悪い、もう行かないと」
「会って話せてよかった。またね」
「後で連絡する」
大翔は顔を赤くしたまま、ぱたぱたと階段をかけ降りる。
誰かの為に動く彼の後ろ姿は、なんだかいつもより頼もしく見えるような気がした。
「...具合悪いのか?」
「違うよ。そうじゃなくて...」
なかなか上手く伝えられない。
ただ、何かを伝えたいことは察してくれているようだ。
「まだ休憩時間ははじまったばっかりだから、話せそうなタイミングで話してくれればいい」
「ありがとう...」
ほっとしたのも束の間、なんだか周りの視線を集めているような気がする。
よく見てみると、色んな場所から微笑ましいというそれが向けられていた。
「...ちょっとこっち来い」
「え、あ、」
まだ食べかけの料理のトレイを持ったまま、早足でその場を後にする。
どこに行くのかも分からないままついていくと、そこには小さな和室があった。
「ここ、勝手に使っていいの?」
「あんまり人に見られたくないお客用。まあ、最近では店員たちの内緒話の場にもなってるけどな」
大翔は賄いを机の上に置きながら、私の定食もそのまま広げてくれる。
「ここなら話しやすいだろ。それに、ご飯もゆっくり味わえる」
「確かに落ち着くけど、まさかこんなにも豪華な部屋があるなんて...」
秘密基地のようでわくわくしていると、大翔は笑って頭を撫でてくれた。
「久遠のペースでいいから、話したいときに話してほしい。
...小難しい顔をしながらメモを取ってるお客がいるって、おまえの接客をした店員が言ってたから」
「佐藤さん、だっけ」
「よくあんな細かいところまで見てたな」
人の物をよく見てしまうのは昔からの癖だ。
気味が悪いと言われてしまうこともあったけれど、こうして思わぬところで役に立つこともある。
「なんだか可愛い人だなって思って見てたんだ」
「...今のを御舟さんが聞いたらきっと妬くだろうな」
「恋人がいるんだね」
「そう。いい先輩なんだけど心配性なんだよな」
バイトについて嬉しそうに話すその姿は、なんだかいつもより可愛く見えた。
勿論本人に言ったら怒られるだろうから言わないけれど...そういう一途なところも好きだ。
「大翔の次のお休みを聞きたかったんだ。それによって進捗とか合わせられるようにしたいなって思ってたから...」
「一緒にいられるようにってこと?」
私が頷くと、大翔は項垂れるようにしてその場に倒れこんだ。
「え、大翔!?」
「なんでいつも不意をついてくるんだよ、可愛すぎだろ...」
はじめはただただ驚いていたけれど、理由を聞いて頬に熱が集まるのを感じる。
「大翔はいつだってかっこいいよ」
ついさっきまで座りこんでいたはずの大翔はもう立ちあがっていて、勢いよく抱きしめられる。
「...ここが職場じゃなかったらどうなってたか分からないな」
耳許でそう囁かれた瞬間、どこからか彼を呼ぶ声がした。
「悪い、もう行かないと」
「会って話せてよかった。またね」
「後で連絡する」
大翔は顔を赤くしたまま、ぱたぱたと階段をかけ降りる。
誰かの為に動く彼の後ろ姿は、なんだかいつもより頼もしく見えるような気がした。
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