皓皓、天翔ける

黒蝶

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第19章『秘密』

第106話

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《…あたしの話なんてつまんないよ?普通の家じゃなかったし、友だちいなかったから》
「あなたのことを、もっと知りたいので…。嫌ならいいんです」
《…変なの。まあいいか。死んでるから、誰かに頼まないといけないこともあるし…。あのままじゃ暴走を止められないから》
「暴走、ですか?」
《うん。義兄弟の暴走》
何のことを言っているのか分からなくて首を傾げると、ふっと笑って女性は教えてくれた。
《あたしさっき間違えてあなたのこと散々けなしちゃったけど、あの家では殺すか殺されるかが日常だったんだ。
…蔵の鍵を開けるための謎を解いたものに全てを渡すって書かれた遺言状のせいでね》
「遺言状、ですか?」
どうして惚れが人の死を生む結果になったのか、いまひとつ結びつかない。
《金目のものがあるに違いないと睨んだ義兄たちが、いとこや姉をけしかけて謎を解くよう仕向けたの。
義弟なんて1ミリも関係ないのに首つっこんできたし、本当に迷惑な話だった》
推理小説みたいな話が本当にあることに驚いた。
「だ、大富豪さんだったんですか?」
《祖父はそうだったかもしれないけど、あたしは違う。ごくごく一般的な家庭で育ったんだ。
…母は事故の影響で全身に麻痺が残ってて、あたしが代わりに謎解きの会合に参加したんだ。けど、そこに義弟がいた。姉の旦那の弟なんて赤の他人でしょ?》
苦笑しながら話す女性の表情はかなり曇っている。
嫌なことを思い出させてしまっていることを申し訳なく思いつつ、ミルクセーキのおかわりを淹れる。
女性はありがとうと言ってくれて、味わうようにじっくり飲んでいた。
《続きを話すと、あたしは遺産がほしいわけじゃなかった。あたしの給料だけじゃ厳しいから、母の治療費は欲しかったけどね。
祖父によくしてもらってたから、昔聞いた話どおりにしようと思ってた》
「聞いた話、ですか?」
《うん。祖父は孤児で、すごく苦労したって話。だから、必要な分以外は祖父がお世話になったっていう孤児院に寄付しようと思ってたんだ。
あと、形見分けをしてもらえたわけじゃなかったから祖父が身に着けていたものをひとつだけもらえればよかった》
この人なりに周りのことを考えて、大切な想い出を汚されないように動いていたんだ。
なんだか心にじわっときて、泣きそうになる。
《大丈夫?こんなグロい話、面白くないでしょ?》
「たしかに楽しい話ではありませんが、続きを聞かせてください」
女性は心配そうに私を見つめていたけど、ふっと息を吐く。
《分かった。それじゃあ、あたしが殺されるまでの話をするよ》
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