迷宮大学特待科25期生

姉月のゆき

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入学の章

ようこそ冒険者ギルドへ

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「なんだ、迷子だったのか」

 俺が冒険者ギルドに行きたいと話をすると、衛兵は大きな声で笑った。

「地図は持ってたんですけどね」

 俺は地図を手に肩をすくめて笑い返す。横目でチラリとクリスを見ると目を逸らされた。まぁイジるのはよそう。
 背の低い衛兵の案内で細い路地から大通りに戻ると、太めの衛兵と大きな旅行カバンを持った青い髪の女の子がいた。

「ジョニー、今年の新入生は地図も読めない子どもばかりらしい」

 俺たちを助けに来た背の低い衛兵は、そう言ってからジョニーと呼んだ太めの衛兵に事情を説明し始めた。

「つまり僕たち三人とも冒険者ギルドに向かう途中で迷子になったんですね」

 ニックと言うらしい背の低い衛兵と、太めの衛兵ジョニーの話を掻い摘んで、俺は話を要約する。三人とは俺とクリスに太めの衛兵。ではなく、その隣にいる青い髪の女の子だ。袖の余った上着にロングスカートを着ていて、涙目の顔がちょっと可愛い。地図を見ながら歩いて、迷子になり衛兵に助けを求めたそうだ。

「そういうことだ。今いる場所を教えるから、あとは三人で冒険者ギルドまでいくといい」
「連れていってくれないの?」

 ジョニーの言葉にクリスが不満げに返した。それを聞いたニックが笑って答える。

「俺たちの仕事は迷子の道案内じゃなくて街の警備だからな。それに地図も読めずに迷宮に行くなんて死ににいくようなもんだ。先輩冒険者としては学校に行く前に、地図を読む練習くらいして欲しいわけよ」

 不満げだったクリスが神妙な顔で、わかったと頷く。まぁ俺は地図を見れるので現在地を教えてもらえれば十分だ。

「ニックさん、冒険者なんですか?」
な。まぁ俺の話はいいだろう」

 冒険者をやめて衛兵なんて、膝に矢でも受けたのだろうか。助けに来たときは走ってたし、それはないか。

「では現在地を教えて頂いて、あとは三人で向かいましょう」

 俺は余計な思考を止め、そう言って話をまとめた。
 ニックに現在地を教えてもらい、礼を言って別れる。

「それじゃ俺たちも行きましょう」
「ちょっと待って。先に自己紹介。私はクリスよ」

 歩き出そうとした俺を手で制して、クリスが青い髪の女の子に声をかけた。青い髪の女の子は俯き、小さな声で返した。

「わ、私はエミリ。エミリ・ガーベラ……です」

 青い髪の女の子、エミリは短い前髪を引っ張って顔を隠そうとしている。その恥ずかしそうな仕草と相まって、隠そうとしている顔はとても可愛く見える。左手にはとても女の子ひとりで持てるようには見えない旅行カバン。多分、彼女は魔術師だ。旅行カバンに術式が組まれているのだろう。

「女の子をジロジロ見て失礼よ?」

 クリスにツッコミを入れられてハッとする。恥ずかしそうにしているのは俺のせいか。

「……すみません。俺はライアン・クロッカス。こちらの赤い髪の子はクリス」
「私は先に自己紹介したでしょ!」
「そうでしたっけ?」

 俺とクリスのやりとりにエミリがクスッと笑った。その笑顔は周りも笑顔にする効果があるようで、エミリの笑顔をきっかけに三人で笑って、よろしくと手を取り合った。

――――

「エミリも大学に入るの?」

 冒険者ギルドに向かう道すがら、クリスとエミリが手を繋ぎ仲良くお喋りをしている。というのも、クリスとエミリの歩くスピードが違いすぎて、エミリが何度かはぐれかけたからだ。

「そうなんだ。ねぇ、そのカバン素敵ね。大きいのに片手で運んでるけど、魔術が組んであるの?」

 会話のスピードも違うのかクリスが一方的に喋ってエミリは頷いたり首を振っているだけだ。だが、二人ともにこやかで雰囲気は悪くない。問題があるとすれば……

「ライアンがこっち見るからエミリが黙っちゃったじゃない!」
「す、すみません」

 俺がエミリを見ると、エミリが恥ずかしがるのだ。エミリの笑顔は癒やされるのに、俺は見ることができない。ちなみにエミリは年下に見えたのだがクリスの聴取によると俺と同じ年。そして、クリスは2つも年上だと発覚した。

「ちゃんと地図に集中してよね? 私もエミリもわからないんだから」

 頼りになる年長者の意見で、俺は地図に集中し冒険者ギルドへと二人をエスコートした。
 その甲斐あってか迷うことも魔物に襲われることもなく、冒険者ギルドに到着した。

 俺の後ろに続く二人に頷きかけ、冒険者ギルドの扉を開ける。

「おい、ねえちゃん。俺の手続きはまだか?」
「もう少々お待ちくださいっ」

 冒険者ギルドは戦場だった。

「こっちもまだか?早く買い取りしてくれ、飲みにいけねぇだろ」
「も、申し訳ございません」

 人、人、人。ここに来るまでの道中も人が多かった。けど、それも霞む混雑っぷりだ。受付カウンターの数も多いのだが、それ以上に冒険者が多くごった返している。

「ライアン遅いぞ」

 あまりの混雑に呆然としていると、俺に声をかける人物がいた。この街の冒険者兼ギルド職員で俺の兄、ノトス・クロッカスだ。

「兄さん」
「久しぶりだな。また背が伸びたか?」

 兄さんが俺の頭を撫でて笑う。うちの兄はいつもこうだ。歳が離れているせいか俺と妹のことを子供扱いしている。

「ちょっ、恥ずかしいから」

 俺は兄さんの手を振り払い、向き直る。

「兄さん、入学手続きにきました」
「わかってるよ。で、後ろの可愛い子たちは?」

 ニヤニヤした表情の兄さんが何を期待しているのか想像はつくがここはスルーだ。

「街で偶然知り合いました。この二人も入学手続きに」
「クリスよ」
「……エミリです」

 クリスとエミリが一歩前に出て名乗った。

「すまない、先に名乗らせてしまった。僕はノトス・クロッカス。ライアンの兄だ。普段はこのギルドの職員で、たまに冒険者もやってる」
「たまに、で七星冒険者セブンスターですか」
「えっ、七星?」

 俺のツッコミにクリスが驚いた顔をみせた。

「ライアン、余計なことは言わない。不相応だと思ってるんだからさ。さぁ、入学手続きは僕がするからついてきて」

 兄さんはやれやれといった様子で俺たちをギルドの奥にある小部屋へ案内し、こう言った。

「それじゃ、三人とも特待生でいい?」
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