冒険者になった吸血少女の見る世界

澄雫

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6章

五姫と旧五姫2

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「次は……私のお相手を、お願い致します」



 メイドらしい物腰で深々と一礼するミルリアさん。物静かな上に少々たどたどしい喋り方をされますので、初めてお会いした日から不思議な方だと思っておりました。



 実の所、私は今日の試合の日まで戦うミルリアさんを見た事がありません。シャウラ母様によるアクアリース襲撃などでもご一緒する機会はありましたけれども、あの時は私の暴走で離れてしまいましたし。修行などもしている様子は無く、時折訓練場から歩いて来る姿を見かける事があるくらいでした。



 そもそも普段の彼女はメイド長に指示を出しつつ雑務を取り仕切り、自らもミズファ母様の傍付きや来訪した位の高い方への対応等でとても忙しい方なのです。メイドさんと言うお仕事には中々五姫としての魔力を有効活用できない様ですし、どの様に戦うのか気になっておりました。



「次はミルリアですか、宜しいでしょう。貴女についてはある程度調べさせて頂きましたわ。ミカエラ以降暫く土姫が不在とされていた中で、類まれな土の魔力を持って生まれた者。それはまるで、ミズファ王女の出現に呼応するかの様に。その力、見せて貰いますわよ」

「畏まり、ました」



 今ティニーさんが仰った言葉は他の五姫の皆様にも当てはまりますね。ミズファ母様を支える皆様は、度々本にも残される位に活躍した英雄達です。五姫全員がアクアリースに集い、優秀な魔力と強さを持って国の発展と共に常に在り続けて来ました。



「ねぇ、ティニーそろそろこっちから攻撃してもいいわよね~?」



 ミルリアさんが前に出た事でやる気を出したのでしょうか、ミカエラさんがメルローゼさんより前に出て参りました。



「ミカエラ、指示はわたくしの役目だと言いつけてある筈ですわよ」

「今回は、でしょ!! 私だって的確な指示で戦況を操るくらい出来るんだからぁ」

「はぁ……まぁいいですわ。珍しく貴女がやる気になっている理由も解りますから。好きになさいな」



 ミカエラさんを除く他の旧五姫達が後退しました。ただし、いつでも加勢できる位置です。これはあくまで団体戦ですものね。



「んじゃーそう言う訳でぇ、ちょっとばかり後輩と遊んであげるわよ~♪」

「私のお相手は、偉大な土姫様」

「そーよぉ、嬉しいでしょ?」

「はい、とても」

「素直でいい子ね~。それでこそ教えがいがあるってもんよね。さぁ、何処からでもかかってらっしゃいな!!」

「アースグレイヴ」

「げふぅ!!?」



 足元から岩が突き出して、それをまともに受けたミカエラさんが上空に打ち上げられました。少しすると降って来て、地面でうつ伏せになっています。



「……」

「あのミカエラ、様?」

「……そうだったわ、無詠唱だったのよね。すっかり忘れてたわよ……」



 五姫の無詠唱化を忘れるなんて、やはりミカエラさんはミカエラさんですね……。思い切り岩の直撃を受けて痛そうに思いますが、ミカエラさんは平然と立ち上がって威厳に満ちた様なポーズを取っています。



「この私に手傷を負わせるなんて中々やるじゃないのぉ」

「……」

「でもここからが本番、土殻防壁を張ったからもう私に貴女の魔法は通じないわよぉ!」

「土術「激震」、震源地指定……土殻防壁」

「え、あ、あれ?」



 まるでお城の城壁が崩れる様に、土の防壁が破壊されました。ミカエラさんは何が起きているのか解らない様子です。



 本来、防壁を破壊する為には相手よりも高い魔力を込めて攻撃しなければなりませんが、ミルリアさんは特に大きな魔力を撃ち出した形跡は無い様に見えました。



 恐らくですけれども……土という性質はお互いの魔法に対して破壊干渉が可能なのではないでしょうか? 土属性は直接大地に作用する魔法ですから、その大地の恩恵で作られている防壁も地震に対する耐性が低いのかもしれません。



 これは私の憶測ですし、ミルリアさんとミカエラさんと言う本来絶対にあり得ない土姫二人の魔力下にある戦いだからこそ起きている現象だと思いますので、一介の魔術師では再現する事は不可能でしょう。



「な、ちょ、ちょっと何よそれぇ!!? 」

「サンドスピア」

「説明しなさいよ今の何、きゃわ!?」



 容赦無く攻撃するミルリアさん。防壁が無くなった事で、ミカエラさんは寸での所で砂で出来た槍を回避しています。スカートの裾を摘まみ上げながらヒラリとかわす姿は絵になる美しさですが、口を開くと大変残念な方になってしまいます……。



「僭越ながら、ご説明させて頂きますね」

「説明するつもりなら今の攻撃何だったのよぉ!!」

「土属性の魔法に秀でた者がずっと現れず、土の学術書も停滞している中。私は土姫としての義務で、魔法の性質を調べながら、長い時をかけて研究を行っておりました」



 土魔法の研究……正直申しまして、多忙なミルリアさんがその様な時間を作れていた事に驚きを隠せないのですけれども。彼女は全てをそつなくこなす方ですから、何一つ欠けずにメイドと土姫を両立させていたのでしょう。並大抵の努力ではありません。



「そして私は、土と土による相互破壊干渉に気づきました。一般の術師は地震系統の大魔法は展開出来ませんので、今まで誰も気づけていなかったようです」

「土属性にそんな性質があったなんて初めて知ったんだけどぉ……。私が生きてた時代には土魔法なんてありふれてたけど、宮廷魔術師級以上の土魔法を扱える人なんて私だけだったから試す機会なんて無かったわよぉ」



 つまり土姫としての魔力と、長い時を生きる存在のミルリアさんだからこそ土の性質に気づけたのでしょう。五姫と同等の魔力を持ち、土魔法に特出している人が最低二人以上いないと再現できませんもの。



 地震を起こせる程の大魔法を展開出来た人なんて過去を遡っても数える程度でしょうし。いえ、実質的にミカエラさんだけだったと言えるかもしれません。



「試すのは、今回が初めてでしたけど」

「それさぁ、黙ってたら私の事あっさり倒せたかもしれないわよ?」

「本当は混戦中に試す予定でしたが、偉大な土姫様と一戦交える機会を頂けた今、包み隠さずお話すべきだと考えました」



 一見ミルリアさんは正直者で正々堂々としているなって思うのですけれども。逆に言えば……。



「へぇ、つまり。お互い防御出来ない状態で殴り合って、その上で私に勝てるって思ってるわけだ?」

「……」



 騎士のような果たし状とも受け取れますね。今の土姫と過去最強の土姫。お互いの攻撃を防ぐ事は出来ず、本気で受ければ痛いでは済まされません。他の属性と違い、精神的な苦痛と共に物理的な痛みも同時に味わう事になりますので、土属性による魔法攻撃は特に注意しなければなりません。



「いいわよぉ、ゾクゾクするじゃないそれぇ♪」



 ミカエラさんが自らの体を抱きしめる様な仕草でクネクネしています。変な方向にやる気を出して参りました?



「ミカエラ、遊びは程々にして置いて。魔法を防御出来ないなんて、とても異常よ」

「解ってるわよメルローゼ。いいから黙って見てなさいよぉ」



 突然ミカエラさんを中心に、円を描くように地面が波打ち始めました。それは波状となり、何層にも分かれて周囲の地面に溶け込んでいきます。



「ミルリア、避けないと死ぬわよ?」

「……!」

「超強化土術「アースクライ」!」



 ミルリアさんが砂嵐に包まれました。すると……何かの力で押し潰されているかの様に地面がくぼみ始めます。



「これは……重力ですかね」



 ミズファ母様がそう呟きます。直接誰かから聞いた事はありませんが、何故か知識として私の中にある言葉です。



「生きとし生けるものは大地によって縛られている、というあれですか?」

「んーまぁ、そんな感じですね。空から落ちるっていうのは、別の意味で言うと大地に引っ張られてるって事でもあるんです。その大地に引っ張る力が強ければ強い程に凄い圧力が加わって潰れちゃうんですよ」



 ミカエラさんは、その重力という力すらも土の魔法として扱う事が出来るのですか……。砂嵐のせいで視界が通らず、くぼんだ地面の中心がどうなっているのか、未だ見えません。ミルリアさん、大丈夫でしょうか……。
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