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6章
伝説すらも霞む剣
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エルノーラさんが撃ち出す拳に合わせて振るうクリムさんの斬撃。まるで金属がぶつかり合うような甲高い音が途切れ無く空に響き渡っています。気術を乗せた拳の一撃は凄まじく、クリムさんとぶつかった後に振動を起こし、波紋の様に周囲に広がりつつ蒼い炎が立ち上がります。
そして幾重にも重なった蒼い炎の輪が広がりながら揺らめいて消えますと、火の粉が地上へと振り落ちていきます。
「く……どうして。ヤヨイとミツキの攻撃を真似しているだけなら私の攻撃を防ぐ事なんて出来ないわ! ミズキのその力は何?」
強大な天位術式を扱いながらも、自らが身に着けた気術の力に大きな自信を持っていたエルノーラさん。実際にその力は私でなければ到底太刀打ちできる者などいないでしょう。ミズファ母様は兎も角。
エルノーラさんの拳に対してイメージするのは剣聖と称された者と異界から来た者の力。この二人の剣技をまるで初めから備えていたかの様に振るう私。
これだけではただ真似ているだけに見えるでしょうし、今のエルノーラさんの拳に勝つ所か撃ち負けてしまうでしょう。
そうはならない理由。それはクリムさんの存在に他なりません。
この世にはいつ誰の手によって作られたのかは不明な伝説の剣という物が存在しています。確認されたのは過去四振りのみです。
その内一振りは魔法剣士であるウェイルさんが所持しています。伝説と称される剣は何かしらの特殊な力を備えており、どれも国家指定級の力に迫る程の効果を持っています。
その様な伝説的な剣が存在する中でもクリムさんは別格です。伝説が霞む程に無尽蔵な魔力容量を持ち、私の魔力に耐えられる規格外の存在ですもの。
帝国の国宝であるクリムさんを携えた私は一時的に剣姫の称号を自らに付与しています。今の私は剣士であり、魔法剣士であり、魔術師なのです。
「エルノーラさん。私の力の理由もう気づいているのでは無いですか?」
「……クリムちゃんよね」
「ええ」
流れる動きで拳と蹴りを繰り出しながら気術の力を撃ち込んで来るエルノーラさんに対し、外側に向けて力を受け流す様に弾く私。その余波が蒼い炎となって広がっているのです。
「ずるいわ、私は一人で戦っているのに!」
「持てる力をしっかりと出して戦う。それが私の流儀です」
多少魔力などの温存はしますけれど、油断や手加減をする事でそのまま負けてしまう様な愚かな行為は相手に対して失礼ですから。
とは言え……。正直に申しますと、エルノーラさんが血龍城から成長して戻ってくると言う想定外の出来事が無ければ、ここまでクリムさんに魔力を込める事は無かったかもしれません。つまり、それだけ私にも余裕が無かったのが本音ですね。
「あぅ~……」
「大丈夫ですか、クリムさん?」
「はぁはぁ……大丈夫ですー」
「辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。もう少しだけ力をお貸しください」
「私はミズキ様の物ですー。これくらい、平気ですよー」
途切れながらも元気な声で応えるクリムさんですが、余裕が無いのは明白です。剣姫状態の私の力を受けた事でクリムさんに限界が来ている様です。得意な放出系に魔力を使うよりも苦手な部分を補うつもりで魔力を使った為に、クリムさんに掛かる負荷が普段よりも大きいのでしょう。
先程から私の力に耐える様に辛そうな声を出していましたので、早々にエルノーラさんとの決着をつけねばなりません。
「クリムちゃんにも余裕が無くなってるみたいね」
「ええ、健気にここまで私の魔力に耐えてきましたもの」
「じゃあ、ここで私が耐えきればいいのよね。奥義を使えるようになるまで後もう少しだし、未だに私の方が有利な状況に間違いは無いわ」
クリムさんの状態を把握したエルノーラさんが攻めるのを一度止め、後方に飛び退きました。防御姿勢、或いは先程の私の様に逃げに徹するのでしょう。
その判断は間違いでは無いでしょうし、奥義を使う事による勝利への自信も伺えます。ただし……。
「エルノーラさん」
「何かしら?」
「私から距離を取る事がどういう意味となるか……お忘れですか?」
「……あ」
血と水が螺旋を描く様に私の体を周り始めました。それと共にクリムさんを横なぎに構えます。
「血と水の帝剣舞」
上空に血と水の合成魔力で出来た、あらゆる形の武器が現れました。クリムさんを真横に一閃すると同時に、空に現れた膨大な数の武器がエルノーラさんに向けて降り注ぎます。
続けて舞う様に斜め上へ、上から下へと流れる動きで斬撃を放ちます。剣舞による斬撃は八回に及び、一閃毎に膨大な数の武器が更に生成され上空に待機しています。
この剣技を例えて言いますと、真祖・血術深紅の大災厄を八回繰り返した様な物です。加えてクリムさんを通した膨大な魔力で作られた合成魔力武器ですので、生成された武器の威力は真祖・血術深紅の大災厄とは比較になりません。
この剣技に対してエルノーラさんは瞬時に回避は不可能と判断したらしく、気術による防壁を張った様ですが……無駄です。私は元々、中距離を一番の得意距離としており、その上本気の剣姫状態です。最強の少女の言えど、私の力に抗う事など不可能です。
「そんな、私の気術で防御出来ない!」
防壁は斬撃二回分の魔力武器を弾いた後にヒビが入り割れました。追撃する様に、空から三波目の武器群が降り注ぎます。
「きゃあああああああ!!」
防ぐ術を立たれたエルノーラさんが膨大な合成魔術武器の中に消えました。更に四波の武器軍が降り注ぎます。
「……っ!! ……!」
悲鳴を上げながらも必死に拳で弾き飛ばしている姿がほんの少しだけ見えました。服の半分程が切り刻まれており体中も傷だらけでしたが、突き刺さる様な致命傷は無い様です。流石はエルノーラさんですね。
でも……もういいでしょう。
「エルノーラさん。降参なさいますか?」
私の静かな問いかけに少しの間返答がありませんでしたけれど。「……く……うっ……嫌よ!!」と苦しそうに返してきました。
「……そうですか、仕方がありません。傷は直ぐに癒して差し上げますから、少しだけ我慢して下さいね」
五波の武器群を降らせました。いくらエルノーラさんであろうと、この時点で死ぬ可能性もあり得ます。これに合わせた様に、周囲が魔力回廊の特殊空間に包まれました。下を見ますと、ミズファ母様が飛行魔法で近くに待機しています。
母様も同じく、エルノーラさんが危険な状態だと判断したのでしょう。直ぐに癒しの力を展開出来ように近くへ来た様ですね。クラウスさんから突然言われた事とは言え、エルノーラさんは帝国のお姫様ですから、死ぬ様な事があれば大事になってしまいますものね……。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然気迫のこもった声が空に響き渡り、視線をエルノーラさんに戻しますと。
「……合成魔力武器が全て消し飛んでいますね」
驚くべき事に、上空に待機してある残り三波分を含め、全ての合成魔力武器が消滅していました。
「もう、奥義の発動まで待って居られないわ」
「……まさか、無理やり奥義を発動させたのですか?」
「そうよ。私だって本気を出せば勝てるんだから!」
いつの間にか、エルノーラさんの周囲を回っていた球体の数が大きく増えています。合成魔術武器を弾く際に補助として使用していたのでしょう。
「ミズキ、私の勝ちよ。私の攻撃は一撃必殺。きっと何をされたかも解らないわ。ミツキの奥義の様にね」
奥義に絡む球体の五つ目はまだ点灯していませんが、エルノーラさんの言動を見るに奥義はやはり発動可能の様です。魔法等は行程を無視して展開すれば暴発したりしますけれど、気術は大丈夫なのでしょうか……。
少々不安になりますけれども、周囲はミズファ母様の特殊空間に囲まれていますので一先ず大丈夫でしょう。この空間は五分程しか持ちませんが、私の剣姫状態も恐らくその頃に切れます。
ですので、これが私とエルノーラさんの最後の攻防となるでしょう。
そして幾重にも重なった蒼い炎の輪が広がりながら揺らめいて消えますと、火の粉が地上へと振り落ちていきます。
「く……どうして。ヤヨイとミツキの攻撃を真似しているだけなら私の攻撃を防ぐ事なんて出来ないわ! ミズキのその力は何?」
強大な天位術式を扱いながらも、自らが身に着けた気術の力に大きな自信を持っていたエルノーラさん。実際にその力は私でなければ到底太刀打ちできる者などいないでしょう。ミズファ母様は兎も角。
エルノーラさんの拳に対してイメージするのは剣聖と称された者と異界から来た者の力。この二人の剣技をまるで初めから備えていたかの様に振るう私。
これだけではただ真似ているだけに見えるでしょうし、今のエルノーラさんの拳に勝つ所か撃ち負けてしまうでしょう。
そうはならない理由。それはクリムさんの存在に他なりません。
この世にはいつ誰の手によって作られたのかは不明な伝説の剣という物が存在しています。確認されたのは過去四振りのみです。
その内一振りは魔法剣士であるウェイルさんが所持しています。伝説と称される剣は何かしらの特殊な力を備えており、どれも国家指定級の力に迫る程の効果を持っています。
その様な伝説的な剣が存在する中でもクリムさんは別格です。伝説が霞む程に無尽蔵な魔力容量を持ち、私の魔力に耐えられる規格外の存在ですもの。
帝国の国宝であるクリムさんを携えた私は一時的に剣姫の称号を自らに付与しています。今の私は剣士であり、魔法剣士であり、魔術師なのです。
「エルノーラさん。私の力の理由もう気づいているのでは無いですか?」
「……クリムちゃんよね」
「ええ」
流れる動きで拳と蹴りを繰り出しながら気術の力を撃ち込んで来るエルノーラさんに対し、外側に向けて力を受け流す様に弾く私。その余波が蒼い炎となって広がっているのです。
「ずるいわ、私は一人で戦っているのに!」
「持てる力をしっかりと出して戦う。それが私の流儀です」
多少魔力などの温存はしますけれど、油断や手加減をする事でそのまま負けてしまう様な愚かな行為は相手に対して失礼ですから。
とは言え……。正直に申しますと、エルノーラさんが血龍城から成長して戻ってくると言う想定外の出来事が無ければ、ここまでクリムさんに魔力を込める事は無かったかもしれません。つまり、それだけ私にも余裕が無かったのが本音ですね。
「あぅ~……」
「大丈夫ですか、クリムさん?」
「はぁはぁ……大丈夫ですー」
「辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。もう少しだけ力をお貸しください」
「私はミズキ様の物ですー。これくらい、平気ですよー」
途切れながらも元気な声で応えるクリムさんですが、余裕が無いのは明白です。剣姫状態の私の力を受けた事でクリムさんに限界が来ている様です。得意な放出系に魔力を使うよりも苦手な部分を補うつもりで魔力を使った為に、クリムさんに掛かる負荷が普段よりも大きいのでしょう。
先程から私の力に耐える様に辛そうな声を出していましたので、早々にエルノーラさんとの決着をつけねばなりません。
「クリムちゃんにも余裕が無くなってるみたいね」
「ええ、健気にここまで私の魔力に耐えてきましたもの」
「じゃあ、ここで私が耐えきればいいのよね。奥義を使えるようになるまで後もう少しだし、未だに私の方が有利な状況に間違いは無いわ」
クリムさんの状態を把握したエルノーラさんが攻めるのを一度止め、後方に飛び退きました。防御姿勢、或いは先程の私の様に逃げに徹するのでしょう。
その判断は間違いでは無いでしょうし、奥義を使う事による勝利への自信も伺えます。ただし……。
「エルノーラさん」
「何かしら?」
「私から距離を取る事がどういう意味となるか……お忘れですか?」
「……あ」
血と水が螺旋を描く様に私の体を周り始めました。それと共にクリムさんを横なぎに構えます。
「血と水の帝剣舞」
上空に血と水の合成魔力で出来た、あらゆる形の武器が現れました。クリムさんを真横に一閃すると同時に、空に現れた膨大な数の武器がエルノーラさんに向けて降り注ぎます。
続けて舞う様に斜め上へ、上から下へと流れる動きで斬撃を放ちます。剣舞による斬撃は八回に及び、一閃毎に膨大な数の武器が更に生成され上空に待機しています。
この剣技を例えて言いますと、真祖・血術深紅の大災厄を八回繰り返した様な物です。加えてクリムさんを通した膨大な魔力で作られた合成魔力武器ですので、生成された武器の威力は真祖・血術深紅の大災厄とは比較になりません。
この剣技に対してエルノーラさんは瞬時に回避は不可能と判断したらしく、気術による防壁を張った様ですが……無駄です。私は元々、中距離を一番の得意距離としており、その上本気の剣姫状態です。最強の少女の言えど、私の力に抗う事など不可能です。
「そんな、私の気術で防御出来ない!」
防壁は斬撃二回分の魔力武器を弾いた後にヒビが入り割れました。追撃する様に、空から三波目の武器群が降り注ぎます。
「きゃあああああああ!!」
防ぐ術を立たれたエルノーラさんが膨大な合成魔術武器の中に消えました。更に四波の武器軍が降り注ぎます。
「……っ!! ……!」
悲鳴を上げながらも必死に拳で弾き飛ばしている姿がほんの少しだけ見えました。服の半分程が切り刻まれており体中も傷だらけでしたが、突き刺さる様な致命傷は無い様です。流石はエルノーラさんですね。
でも……もういいでしょう。
「エルノーラさん。降参なさいますか?」
私の静かな問いかけに少しの間返答がありませんでしたけれど。「……く……うっ……嫌よ!!」と苦しそうに返してきました。
「……そうですか、仕方がありません。傷は直ぐに癒して差し上げますから、少しだけ我慢して下さいね」
五波の武器群を降らせました。いくらエルノーラさんであろうと、この時点で死ぬ可能性もあり得ます。これに合わせた様に、周囲が魔力回廊の特殊空間に包まれました。下を見ますと、ミズファ母様が飛行魔法で近くに待機しています。
母様も同じく、エルノーラさんが危険な状態だと判断したのでしょう。直ぐに癒しの力を展開出来ように近くへ来た様ですね。クラウスさんから突然言われた事とは言え、エルノーラさんは帝国のお姫様ですから、死ぬ様な事があれば大事になってしまいますものね……。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然気迫のこもった声が空に響き渡り、視線をエルノーラさんに戻しますと。
「……合成魔力武器が全て消し飛んでいますね」
驚くべき事に、上空に待機してある残り三波分を含め、全ての合成魔力武器が消滅していました。
「もう、奥義の発動まで待って居られないわ」
「……まさか、無理やり奥義を発動させたのですか?」
「そうよ。私だって本気を出せば勝てるんだから!」
いつの間にか、エルノーラさんの周囲を回っていた球体の数が大きく増えています。合成魔術武器を弾く際に補助として使用していたのでしょう。
「ミズキ、私の勝ちよ。私の攻撃は一撃必殺。きっと何をされたかも解らないわ。ミツキの奥義の様にね」
奥義に絡む球体の五つ目はまだ点灯していませんが、エルノーラさんの言動を見るに奥義はやはり発動可能の様です。魔法等は行程を無視して展開すれば暴発したりしますけれど、気術は大丈夫なのでしょうか……。
少々不安になりますけれども、周囲はミズファ母様の特殊空間に囲まれていますので一先ず大丈夫でしょう。この空間は五分程しか持ちませんが、私の剣姫状態も恐らくその頃に切れます。
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