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1章
花畑と大きな魔力
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「イグニシアさん、落ち着きました?」
「……ん」
「よしよし、です」
「ん」
謝っても泣き続けていたイグニシアさんの手を取って暫く歩き、遠目に花畑らしき場所が見え出した頃。
次第にイグニシアさんが泣き止みましたので、語り掛けながら頭をなでてあげますと。それでようやく、やんわりと気持ちよさそうにしてくれましたので、ほっと安心する私。
「やっとミズキちゃんの殺気圏から外に出たようですね?」
「え……私達、かなり歩きましたよね?」
「それだけ込めた魔力が膨大だったのでしょう。ミズキちゃん、貴女は人が持てる魔力総量よりも文字通り桁が違うようですから、本当に加減をするのであれば魔力総量の一割程度でいいと思いますよ?」
「は、はい……御免なさい」
「とはいえ……イグニシアちゃんが怖がって泣く所を初めて見ましたから、個人的には良いものを見た気持ちも強いのですが」
「ん、ミツキ、酷い」
と、言いながらイグニシアさんは威圧された事を特に気にする風でも無く、私の腕に頬を当てて少しスリスリしています。私、こんな純真な子を泣かせてしまったのですね……。次からは魔力を使う際には十分注意をしないといけません、とイグニシアさんの可愛らしい顔を見ながら思いました。
「所で二人共、花畑が見えてきましたよ?」
ミツキさんの言葉に前方へと顔を向けますと、まだ一部しか見えていないにも関わらず、広大な花畑だと解る程に花々が咲いているのが解ります。遠目の内は木の街道がそこで途切れる程度しか視認出来ませんでしたけれど、今ははっきりと花畑が確認できます。
私達は自然と足早になって進み、やがて木の街道が終わりますと。
視界が大きく開けた先は、色とりどりの花が咲き乱れ、周囲には花びらが風に乗って舞い、とても素晴らしい花景色が地平線の先まで広がっています。
そして街道は花畑の入口付近で二又に別れ、一つは花畑の外側に沿って続いていて、もう一つは花畑の中を横断するように続いているようです。
「あぁ綺麗です……。もう、言葉にできないくらい素敵ですー!」
花畑を見た私は、一目でその景色に魅了されてしまいました。花畑の中を走って、クルクル回ってみたいという衝動がありますけれど、ぐっと我慢です。
「ん、綺麗。私の棲み処にも綺麗な花が咲いてたけど、ここの方がとても広い」
「流石の私も高揚感を抑えられないようです。これだけの広大な花畑は、早々お目にかかれる物では無いですものね?」
「もし特に目的の無い旅でしたら、ここでずーっと花々を観賞していたいです。はぁ、この花畑を見ている私の高揚感は何なのでしょう。もしかして……これが恋?」
初めて見た花畑の景色が余りに素晴らしくて、心の中で思っただけのつもりが、つい言葉に出して喋ってしまいました。
両手を頬に当て、恍惚状態の私がそのような事を言いましたので、二人が若干引いています。
「ミズキちゃん、それは恋では無く、奇麗な物や可愛い物を愛でる気持ちが昂っているだけですよ?」
「ん、花は愛でるもの」
「あわわ、ご、御免なさい」
二人に正されて直ぐに我に返った私はぺこぺこと頭を下げます。まだまだ知識が足りないようですね、これが恋では無いのでしたら、恋とはどのような気持ちなのでしょう。いずれ解る時も来るのでしょうか。
「さて、気持ちをしっかり切り替えましょうか。あちらに、異様な高さまで成長している花々が群生している地域があるのが見えますか?」
ミツキさんが指をさした方向を見ますと、地平線よりも少し手前に、明らかに人の背丈より高い花が咲いているのが見えます。それがかなり広範囲に渡って続いていますので、手前に咲いている花々とは違い、そこだけ不気味な空間に見えてしまいます。綺麗な花々が咲く中で、ひと際その地域が異質なのです。
「はい、見えます。とっても怖い感じがします。手前に咲いている花々はとても奇麗で見ていて安らぎますのに……」
「ん、もしあれが動いたら、気持ち悪い」
「……」
それは……必死に考えないようにしていた事でしたけれど、イグニシアさんが言ってしまいました。あの異様に成長している花がクネクネし出したら、全力で通り過ぎたい気持ちになる自信がありますです。
「モンスターが擬態している可能性も無くはないでしょうけれど……既に一部の冒険者が確認済みですから、大丈夫でしょう。さぁ、行きますよ」
ミツキさんが花の街道へと歩き出し、私とイグニシアさんも後に続きます。道すがらに咲いている花々に癒されながら、ここを私のお気に入りの場所の一つにしようと、一人心に決めたのでした。
--------
先程までの癒しの時間とは異なって。
街道から大きく外れた花畑の中を歩き、丈が私達より三倍以上はある花の群生地帯に入りますと、辺り一面茎ばかりで、少々気持ち悪い景色が広がっています。
先だって探索を行った冒険者さんがダンジョンへと繋がる魔法陣まで道を作ってくれていましたので、目的地までは迷わずに辿り着けました。
ダンジョンの入り口となる魔法陣は注意しなければ見落としてしまうような、何の目印もない場所にあります。茎の合間に突然ポツン、と無造作に描かれているのです。
この異質な花の空間に入って探索し、魔方陣を見つけた冒険者さんは本当に凄いと感心してしまいます。辺り一面長い茎で覆われていて、それがどこまでも続いているのです。気がおかしくなりそうですよ?
それに私達と違いモンスターに襲われますし。
ここに来るまでに戦闘をしたと思わしき形跡がいくつかありました。モンスターの死骸は時間が経つと溶けるように消えてしまいますので、花畑の一部が踏み荒らされていたり、魔法か何かで開いた穴などだけが残っているのです。その上で当然野宿も挟みますから、とても危険な状態で探索したのでしょうね。
沢山の苦労をしてこの場所を見つけた冒険者さんに感謝の気持ちでおりますと。
「さて、これ以上他の冒険者が訪れる前に中に入りましょう。魔法陣に乗ってください」
「ん」
二人の言葉で、気持ちを切り替えます。「役目」は冒険者さん達から見れば、一種の敵対行為と取られてもおかしくないとミツキさんから聞いています。中には金や宝石等で作られた古代魔法具もあるそうですので、一攫千金も十分に狙う事が可能だそうです。それを阻まれたら当然敵と見なされても文句は言えないですものね。
「ええと、ダンジョンに入るには、確か魔力を魔方陣に流すんでしたよね?」
「そうです。ギルドから渡されている書類をしっかりと読んでいるみたいですね? 偉いですよ、ミズキちゃん」
「えへへ……」
「ん、ミズキ偉い、可愛い」
可愛いは関係ないと思いますけれど、褒められれば嬉しいですので何も言いません。
「ではミズキちゃん、早速魔力を流してみてください」
「はい」
言われるまま魔法陣に手を向け、魔力を注ぎ込みます。
すると、瞬時に辺りの景色が変わりました。
「ええと、真っ暗ですね」
狭間のお姉さんがいた場所を思い出します。あそこも真っ暗で何も見えない場所でしたから。
「“光の精霊よ、御手に揺蕩う輝きをここに収束せしめよ”ライトウィスプ」
ミツキさんが何か呟いた後、彼女の手のひらに光を放つ玉が現れました。
その光で辺りが照らし出され、近くに人工物の建物がある事が解ります。更に周囲を見てみますと、石柱で作られた神殿が至る所に建てられていて、一昔前の街という印象を受けます。
「凄いですね、その光の玉は魔法ですか?」
「はい、そうです。これが無くてはろくにダンジョン探索など出来ませんからね? ミズキちゃんにも、後程教えて差し上げます」
「本当ですか? わぁ有難うございます」
また一つ賢くなれるんですね、とっても嬉しいです。それにミツキさんの手のひらに浮いている光の玉は、ふよふよと浮いていてなんだか可愛いですので、一目で気に入ってしまいました。
「この光の玉は、世界中の街にある街灯と同じ物です。ミズキちゃんは「ギュステルの街」の宿の外で灯っていた明かりを見ていませんか?」
「ええと、すみません。其の時はお二人とのお話で、周囲を見る心の余裕がありませんでした」
「大事なお話などをしていましたから、無理もないでしょうか。夜の街はこの光の玉が至る所で灯りますから、きっとミズキちゃんも気に入ると思います。エルフの国の首都に行った際に、夜の街並みも見せて差し上げますね?」
「はい!」
私とにこにこ笑顔でお話ししていたミツキさんは、「さて」と一言を置いた後、唐突に真顔になりました。
「ミツキ、大きな魔力を持った奴が、ダンジョンにいる」
「私にも感じ取れます。「国家指定級」程では無いにしても、「五姫」と同等程度の魔力でしょうか」
「五姫がきてる?」
「どうでしょうか、私としては居て欲しくは無いのですけれどね?」
謎の言葉を交えてお話しする二人。五姫とは何でしょうか?
「……ん」
「よしよし、です」
「ん」
謝っても泣き続けていたイグニシアさんの手を取って暫く歩き、遠目に花畑らしき場所が見え出した頃。
次第にイグニシアさんが泣き止みましたので、語り掛けながら頭をなでてあげますと。それでようやく、やんわりと気持ちよさそうにしてくれましたので、ほっと安心する私。
「やっとミズキちゃんの殺気圏から外に出たようですね?」
「え……私達、かなり歩きましたよね?」
「それだけ込めた魔力が膨大だったのでしょう。ミズキちゃん、貴女は人が持てる魔力総量よりも文字通り桁が違うようですから、本当に加減をするのであれば魔力総量の一割程度でいいと思いますよ?」
「は、はい……御免なさい」
「とはいえ……イグニシアちゃんが怖がって泣く所を初めて見ましたから、個人的には良いものを見た気持ちも強いのですが」
「ん、ミツキ、酷い」
と、言いながらイグニシアさんは威圧された事を特に気にする風でも無く、私の腕に頬を当てて少しスリスリしています。私、こんな純真な子を泣かせてしまったのですね……。次からは魔力を使う際には十分注意をしないといけません、とイグニシアさんの可愛らしい顔を見ながら思いました。
「所で二人共、花畑が見えてきましたよ?」
ミツキさんの言葉に前方へと顔を向けますと、まだ一部しか見えていないにも関わらず、広大な花畑だと解る程に花々が咲いているのが解ります。遠目の内は木の街道がそこで途切れる程度しか視認出来ませんでしたけれど、今ははっきりと花畑が確認できます。
私達は自然と足早になって進み、やがて木の街道が終わりますと。
視界が大きく開けた先は、色とりどりの花が咲き乱れ、周囲には花びらが風に乗って舞い、とても素晴らしい花景色が地平線の先まで広がっています。
そして街道は花畑の入口付近で二又に別れ、一つは花畑の外側に沿って続いていて、もう一つは花畑の中を横断するように続いているようです。
「あぁ綺麗です……。もう、言葉にできないくらい素敵ですー!」
花畑を見た私は、一目でその景色に魅了されてしまいました。花畑の中を走って、クルクル回ってみたいという衝動がありますけれど、ぐっと我慢です。
「ん、綺麗。私の棲み処にも綺麗な花が咲いてたけど、ここの方がとても広い」
「流石の私も高揚感を抑えられないようです。これだけの広大な花畑は、早々お目にかかれる物では無いですものね?」
「もし特に目的の無い旅でしたら、ここでずーっと花々を観賞していたいです。はぁ、この花畑を見ている私の高揚感は何なのでしょう。もしかして……これが恋?」
初めて見た花畑の景色が余りに素晴らしくて、心の中で思っただけのつもりが、つい言葉に出して喋ってしまいました。
両手を頬に当て、恍惚状態の私がそのような事を言いましたので、二人が若干引いています。
「ミズキちゃん、それは恋では無く、奇麗な物や可愛い物を愛でる気持ちが昂っているだけですよ?」
「ん、花は愛でるもの」
「あわわ、ご、御免なさい」
二人に正されて直ぐに我に返った私はぺこぺこと頭を下げます。まだまだ知識が足りないようですね、これが恋では無いのでしたら、恋とはどのような気持ちなのでしょう。いずれ解る時も来るのでしょうか。
「さて、気持ちをしっかり切り替えましょうか。あちらに、異様な高さまで成長している花々が群生している地域があるのが見えますか?」
ミツキさんが指をさした方向を見ますと、地平線よりも少し手前に、明らかに人の背丈より高い花が咲いているのが見えます。それがかなり広範囲に渡って続いていますので、手前に咲いている花々とは違い、そこだけ不気味な空間に見えてしまいます。綺麗な花々が咲く中で、ひと際その地域が異質なのです。
「はい、見えます。とっても怖い感じがします。手前に咲いている花々はとても奇麗で見ていて安らぎますのに……」
「ん、もしあれが動いたら、気持ち悪い」
「……」
それは……必死に考えないようにしていた事でしたけれど、イグニシアさんが言ってしまいました。あの異様に成長している花がクネクネし出したら、全力で通り過ぎたい気持ちになる自信がありますです。
「モンスターが擬態している可能性も無くはないでしょうけれど……既に一部の冒険者が確認済みですから、大丈夫でしょう。さぁ、行きますよ」
ミツキさんが花の街道へと歩き出し、私とイグニシアさんも後に続きます。道すがらに咲いている花々に癒されながら、ここを私のお気に入りの場所の一つにしようと、一人心に決めたのでした。
--------
先程までの癒しの時間とは異なって。
街道から大きく外れた花畑の中を歩き、丈が私達より三倍以上はある花の群生地帯に入りますと、辺り一面茎ばかりで、少々気持ち悪い景色が広がっています。
先だって探索を行った冒険者さんがダンジョンへと繋がる魔法陣まで道を作ってくれていましたので、目的地までは迷わずに辿り着けました。
ダンジョンの入り口となる魔法陣は注意しなければ見落としてしまうような、何の目印もない場所にあります。茎の合間に突然ポツン、と無造作に描かれているのです。
この異質な花の空間に入って探索し、魔方陣を見つけた冒険者さんは本当に凄いと感心してしまいます。辺り一面長い茎で覆われていて、それがどこまでも続いているのです。気がおかしくなりそうですよ?
それに私達と違いモンスターに襲われますし。
ここに来るまでに戦闘をしたと思わしき形跡がいくつかありました。モンスターの死骸は時間が経つと溶けるように消えてしまいますので、花畑の一部が踏み荒らされていたり、魔法か何かで開いた穴などだけが残っているのです。その上で当然野宿も挟みますから、とても危険な状態で探索したのでしょうね。
沢山の苦労をしてこの場所を見つけた冒険者さんに感謝の気持ちでおりますと。
「さて、これ以上他の冒険者が訪れる前に中に入りましょう。魔法陣に乗ってください」
「ん」
二人の言葉で、気持ちを切り替えます。「役目」は冒険者さん達から見れば、一種の敵対行為と取られてもおかしくないとミツキさんから聞いています。中には金や宝石等で作られた古代魔法具もあるそうですので、一攫千金も十分に狙う事が可能だそうです。それを阻まれたら当然敵と見なされても文句は言えないですものね。
「ええと、ダンジョンに入るには、確か魔力を魔方陣に流すんでしたよね?」
「そうです。ギルドから渡されている書類をしっかりと読んでいるみたいですね? 偉いですよ、ミズキちゃん」
「えへへ……」
「ん、ミズキ偉い、可愛い」
可愛いは関係ないと思いますけれど、褒められれば嬉しいですので何も言いません。
「ではミズキちゃん、早速魔力を流してみてください」
「はい」
言われるまま魔法陣に手を向け、魔力を注ぎ込みます。
すると、瞬時に辺りの景色が変わりました。
「ええと、真っ暗ですね」
狭間のお姉さんがいた場所を思い出します。あそこも真っ暗で何も見えない場所でしたから。
「“光の精霊よ、御手に揺蕩う輝きをここに収束せしめよ”ライトウィスプ」
ミツキさんが何か呟いた後、彼女の手のひらに光を放つ玉が現れました。
その光で辺りが照らし出され、近くに人工物の建物がある事が解ります。更に周囲を見てみますと、石柱で作られた神殿が至る所に建てられていて、一昔前の街という印象を受けます。
「凄いですね、その光の玉は魔法ですか?」
「はい、そうです。これが無くてはろくにダンジョン探索など出来ませんからね? ミズキちゃんにも、後程教えて差し上げます」
「本当ですか? わぁ有難うございます」
また一つ賢くなれるんですね、とっても嬉しいです。それにミツキさんの手のひらに浮いている光の玉は、ふよふよと浮いていてなんだか可愛いですので、一目で気に入ってしまいました。
「この光の玉は、世界中の街にある街灯と同じ物です。ミズキちゃんは「ギュステルの街」の宿の外で灯っていた明かりを見ていませんか?」
「ええと、すみません。其の時はお二人とのお話で、周囲を見る心の余裕がありませんでした」
「大事なお話などをしていましたから、無理もないでしょうか。夜の街はこの光の玉が至る所で灯りますから、きっとミズキちゃんも気に入ると思います。エルフの国の首都に行った際に、夜の街並みも見せて差し上げますね?」
「はい!」
私とにこにこ笑顔でお話ししていたミツキさんは、「さて」と一言を置いた後、唐突に真顔になりました。
「ミツキ、大きな魔力を持った奴が、ダンジョンにいる」
「私にも感じ取れます。「国家指定級」程では無いにしても、「五姫」と同等程度の魔力でしょうか」
「五姫がきてる?」
「どうでしょうか、私としては居て欲しくは無いのですけれどね?」
謎の言葉を交えてお話しする二人。五姫とは何でしょうか?
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