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1章
感情と逆転
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「ミズキ!!」
心配してくれるウェイルさんとシルフィさん。今にも駆け寄ろうとしている二人に、とっさに顔を上げ、「来ないで」と言う意味を込めて手で制しました。
後ろに下がり、突き刺さった鋭い石の針をお腹から引き抜くと、激しい痛みに膝をつきます……。
「あぅ……ぅ……っ」
初めて経験する大きな痛み。意識が若干薄まっている感覚がありますが、黒いドレスの女の子が近づいて来ていますので、気を強く持って耐えます。生死は問わないと言われた以上、私はいつ殺されてもおかしく無い状態にありますので、申し訳程度に警戒はします。
負傷したこの状態が続けば何れにしても死んでしまいますが、あいにく私は人間ではありませんので、血を使って傷を癒す能力があります。黒いドレスの女の子に感づかれない様、最小限で痛みを和らげる程度に能力を展開します。
「ミズキ。修復に類する能力を展開しているようだな」
「古代魔法具」という存在であるせいでしょうか、直ぐに傷口を癒す私の行動に気づいたようです。この子の前では恐らく、能力関係の隠し事は出来そうにありませんね。
困りました、残りの血で後どれだけ抗えるでしょうか。私にもっと力があれば……。
「命が欲しいか?」
数歩先で立ち止まり、そのような事を私に聞いてきました。
既に会話は拒否されたものと思いましたけれど、まだ私との会話を続ける気があるようです。正直申しまして、傷が満足に癒えていない今の状態では、まともにお話しする事が出来ないのですけれど……。
「存在理由が不明な、人間では無い物。唯一理解出来る点、それは大きな力を持つ事。お前を吸収すれば、その力は我の物となる。だが、お前が我の物となるなら、生かしておいてやるぞ」
先程まで無感情で喋っていた黒いドレスの女の子は、怒りを境に感情を露わにし、人間に近しい喋り方へと変化しているようです。やはり、彼女も人間と何ら変わらないのですね。それは、その可愛らしい姿と感情に色濃く表れていますもの。
「古代、魔法具さん。私の事、気に入ってくれたん、ですか?」
「気に入る? お前を欲するこの感情の事か。ならばそうだ、お前が気に入った。我と共に来い」
喋るたびに腹部に激痛が走ります。深手を負っていますので、少々の癒し程度では限界があり、これでは悠長にお話する事も出来ません。ここは……彼女の話に合わせた方がいいでしょうか。それに、シルフィさんとウェイルさんが逃げ出せる隙を作るなら、今かもしれません。
そう思い、二人に視線を向けますが、二人は私の意図を感じ取ったように、首を横に振っています。まだ戦う意思がある、そのような視線で私を見つめ返しています。その気持ちは大変嬉しいのです。けれど……このままでは二人とも殺されてしまいます。
「ミズキ。気が変わった。やはり、お前を殺すのは惜しい。お前を見ていると……不可解な感情が我の中に芽生える」
黒いドレスの女の子は、その手を私の頬にあてますと。そのまま頬をなぞり、私の顎を上に持ち上げました。
そして……。
「ん……!?」
黒いドレスの女の子の唇が、私の唇に触れました。これって……口付け、ですよね? 私にもその行為が何であるか、解ります。愛し合う者同士が、お互いを認め合った証だと言う事が。
不快、では無いです。無いですが……とても、とても悲しくて。
一方的なんて、嫌。嫌です……。
「ん……んん……っ」
唇を奪われたまま、大粒の涙が私の頬を伝い流れ落ちます。
どうして、どうしてこんな事をするのですか。どうして……。
「くっ……!! お前、ミズキから離れろ!!!」
「ウェイル、落ち着いて下さいまし!!」
今にも飛び掛かりそうなウェイルさんを、シルフィさんが抑えています。
あんなに物静かな印象だった方が、怒りを露にするなんて。
出会ったばかりの、こんな不甲斐無い私の為に。
目を瞑り考えます。
今なら残りの血を全て使い、私の唇を奪ったこの子を倒せるかもしれません。
私の……犠牲を持って。
傷口を癒す事を止め、目の前の黒いドレスの女の子に、残り全ての血を捧げた古代血術を展開しようと。
そう思った時。
唐突に「古代魔法具庫」の外側から強大な力を感じました。
その力を感じた途端、「古代魔法具庫」の扉が瞬時に細切れになり、バラバラと崩れ落ちます。
「……何だ?」
黒いドレスの女の子が唇を離し、訝し気に入口へと視線を向けています。
「ようやく……来ましたわね。「形勢逆転」ですわよ。落ち着いて下さいまし、ウェイル」
「……うん、御免。「あの二人が来ている」事が解っていたのに、気が動転していた」
「大きな魔力が「真っすぐに」この場所へと近づいていましたわね。そのような事が出来るのは、「お姉様」達以外では「あのお二人」位しか考えられないですわ」
二人が強い意志で私を見つめ返したのは……「この力」が解っていたからなのですね。ええ、私にも解ります、この魔力と力が誰の物なのか。黒いドレスの女の子と対峙していて、この力の持ち主が直ぐそこまで近づいている事に気づけていませんでしたけれど。今はしっかりと感じ取る事ができます。
崩れた入口の扉……そこから姿を現したのは。
「ん、ミズキが怪我してる……泣いてる」
「……間に合いませんでしたか」
二人のその発言には、明らかな怒りがこめられていました。
「ミツキさん、イグニシアさん……!」
「ミズキ、遅れた。御免」
イグニシアさんが全身に炎を纏い、物凄い殺気を放って近づいてきます。
その隣には、静かな物腰のミツキさんがおりますが、その顔には……いつもの笑顔はありません。
「ミズキちゃん。遅れてしまい、申し訳御座いません。さぁ、直ぐに傷を癒して下さいね? その間に片づけて置きますから」
そう言い終えた瞬間、ミツキさんが刀を「引き抜いたと同時に」黒いドレスの女の子の右腕が切り飛びました。
「くっ……」
黒いドレスの女の子が怪訝な表情でミツキさんを見ています。
ミツキさんはそんな彼女に冷たい目を向けて。
「貴女が何者であるかは、この際いいでしょう。今、私は大変不機嫌です。理由は言わずとも察して頂けますよね?」
「見た所、人間か。お前の力は何だ。まるで「この世界に存在していない」ような異質さを感じるぞ」
「それはそうでしょう。私はこの世界の住人ではありませんから」
黒いドレスの女の子の疑問に、淡々と答えるミツキさん。薄々そうでは無いかと思っていましたけれど、本人の言葉を聞いて、ようやく確信に変わりました。
「異質な人間。お前の持つ知識に大いに興味がある。直ぐに吸収したい所だが……。それには、我の力が少し足らぬようだな」
その後、黒いドレスの女の子が私へと視線を落としますと。
「お前を我の物とするのは、次の機会として置く。お前は我の物だ、覚えておくがいい」
黒いドレスの女の子が私を所有物として認めてしまった様子です。
私は、貴女の事が嫌いではありませんが……無理やりは、嫌です。ですから、私は貴女の物になるつもりはありません。
「次の機会なんて、私が与えると思っていますか?」
「調子に乗るな、異質な人間。全ての古代魔法具を回収し、何れお前も吸収してやる。そして人間は必ず皆殺しにする。それが我の存在理由だ」
その言葉と共に、黒いドレスの女の子が眩い光を放ち始めますと、一瞬で目の前から姿を消しました。切り取んだ筈の腕も無くなっています。
「ん、あいつの気配が消えた。周囲にはもう居ない」
「転移能力、ですか……。厄介な力を持っていますね」
「……」
危機から逃れた安堵感のせいでしょうか。
ミツキさんとイグニシアさんの会話中、気が抜けてその場に倒れてしまいました。駆け寄って来たウェイルさんが抱き起してくれましたけれど、そこで私の意識が途切れました。
心配してくれるウェイルさんとシルフィさん。今にも駆け寄ろうとしている二人に、とっさに顔を上げ、「来ないで」と言う意味を込めて手で制しました。
後ろに下がり、突き刺さった鋭い石の針をお腹から引き抜くと、激しい痛みに膝をつきます……。
「あぅ……ぅ……っ」
初めて経験する大きな痛み。意識が若干薄まっている感覚がありますが、黒いドレスの女の子が近づいて来ていますので、気を強く持って耐えます。生死は問わないと言われた以上、私はいつ殺されてもおかしく無い状態にありますので、申し訳程度に警戒はします。
負傷したこの状態が続けば何れにしても死んでしまいますが、あいにく私は人間ではありませんので、血を使って傷を癒す能力があります。黒いドレスの女の子に感づかれない様、最小限で痛みを和らげる程度に能力を展開します。
「ミズキ。修復に類する能力を展開しているようだな」
「古代魔法具」という存在であるせいでしょうか、直ぐに傷口を癒す私の行動に気づいたようです。この子の前では恐らく、能力関係の隠し事は出来そうにありませんね。
困りました、残りの血で後どれだけ抗えるでしょうか。私にもっと力があれば……。
「命が欲しいか?」
数歩先で立ち止まり、そのような事を私に聞いてきました。
既に会話は拒否されたものと思いましたけれど、まだ私との会話を続ける気があるようです。正直申しまして、傷が満足に癒えていない今の状態では、まともにお話しする事が出来ないのですけれど……。
「存在理由が不明な、人間では無い物。唯一理解出来る点、それは大きな力を持つ事。お前を吸収すれば、その力は我の物となる。だが、お前が我の物となるなら、生かしておいてやるぞ」
先程まで無感情で喋っていた黒いドレスの女の子は、怒りを境に感情を露わにし、人間に近しい喋り方へと変化しているようです。やはり、彼女も人間と何ら変わらないのですね。それは、その可愛らしい姿と感情に色濃く表れていますもの。
「古代、魔法具さん。私の事、気に入ってくれたん、ですか?」
「気に入る? お前を欲するこの感情の事か。ならばそうだ、お前が気に入った。我と共に来い」
喋るたびに腹部に激痛が走ります。深手を負っていますので、少々の癒し程度では限界があり、これでは悠長にお話する事も出来ません。ここは……彼女の話に合わせた方がいいでしょうか。それに、シルフィさんとウェイルさんが逃げ出せる隙を作るなら、今かもしれません。
そう思い、二人に視線を向けますが、二人は私の意図を感じ取ったように、首を横に振っています。まだ戦う意思がある、そのような視線で私を見つめ返しています。その気持ちは大変嬉しいのです。けれど……このままでは二人とも殺されてしまいます。
「ミズキ。気が変わった。やはり、お前を殺すのは惜しい。お前を見ていると……不可解な感情が我の中に芽生える」
黒いドレスの女の子は、その手を私の頬にあてますと。そのまま頬をなぞり、私の顎を上に持ち上げました。
そして……。
「ん……!?」
黒いドレスの女の子の唇が、私の唇に触れました。これって……口付け、ですよね? 私にもその行為が何であるか、解ります。愛し合う者同士が、お互いを認め合った証だと言う事が。
不快、では無いです。無いですが……とても、とても悲しくて。
一方的なんて、嫌。嫌です……。
「ん……んん……っ」
唇を奪われたまま、大粒の涙が私の頬を伝い流れ落ちます。
どうして、どうしてこんな事をするのですか。どうして……。
「くっ……!! お前、ミズキから離れろ!!!」
「ウェイル、落ち着いて下さいまし!!」
今にも飛び掛かりそうなウェイルさんを、シルフィさんが抑えています。
あんなに物静かな印象だった方が、怒りを露にするなんて。
出会ったばかりの、こんな不甲斐無い私の為に。
目を瞑り考えます。
今なら残りの血を全て使い、私の唇を奪ったこの子を倒せるかもしれません。
私の……犠牲を持って。
傷口を癒す事を止め、目の前の黒いドレスの女の子に、残り全ての血を捧げた古代血術を展開しようと。
そう思った時。
唐突に「古代魔法具庫」の外側から強大な力を感じました。
その力を感じた途端、「古代魔法具庫」の扉が瞬時に細切れになり、バラバラと崩れ落ちます。
「……何だ?」
黒いドレスの女の子が唇を離し、訝し気に入口へと視線を向けています。
「ようやく……来ましたわね。「形勢逆転」ですわよ。落ち着いて下さいまし、ウェイル」
「……うん、御免。「あの二人が来ている」事が解っていたのに、気が動転していた」
「大きな魔力が「真っすぐに」この場所へと近づいていましたわね。そのような事が出来るのは、「お姉様」達以外では「あのお二人」位しか考えられないですわ」
二人が強い意志で私を見つめ返したのは……「この力」が解っていたからなのですね。ええ、私にも解ります、この魔力と力が誰の物なのか。黒いドレスの女の子と対峙していて、この力の持ち主が直ぐそこまで近づいている事に気づけていませんでしたけれど。今はしっかりと感じ取る事ができます。
崩れた入口の扉……そこから姿を現したのは。
「ん、ミズキが怪我してる……泣いてる」
「……間に合いませんでしたか」
二人のその発言には、明らかな怒りがこめられていました。
「ミツキさん、イグニシアさん……!」
「ミズキ、遅れた。御免」
イグニシアさんが全身に炎を纏い、物凄い殺気を放って近づいてきます。
その隣には、静かな物腰のミツキさんがおりますが、その顔には……いつもの笑顔はありません。
「ミズキちゃん。遅れてしまい、申し訳御座いません。さぁ、直ぐに傷を癒して下さいね? その間に片づけて置きますから」
そう言い終えた瞬間、ミツキさんが刀を「引き抜いたと同時に」黒いドレスの女の子の右腕が切り飛びました。
「くっ……」
黒いドレスの女の子が怪訝な表情でミツキさんを見ています。
ミツキさんはそんな彼女に冷たい目を向けて。
「貴女が何者であるかは、この際いいでしょう。今、私は大変不機嫌です。理由は言わずとも察して頂けますよね?」
「見た所、人間か。お前の力は何だ。まるで「この世界に存在していない」ような異質さを感じるぞ」
「それはそうでしょう。私はこの世界の住人ではありませんから」
黒いドレスの女の子の疑問に、淡々と答えるミツキさん。薄々そうでは無いかと思っていましたけれど、本人の言葉を聞いて、ようやく確信に変わりました。
「異質な人間。お前の持つ知識に大いに興味がある。直ぐに吸収したい所だが……。それには、我の力が少し足らぬようだな」
その後、黒いドレスの女の子が私へと視線を落としますと。
「お前を我の物とするのは、次の機会として置く。お前は我の物だ、覚えておくがいい」
黒いドレスの女の子が私を所有物として認めてしまった様子です。
私は、貴女の事が嫌いではありませんが……無理やりは、嫌です。ですから、私は貴女の物になるつもりはありません。
「次の機会なんて、私が与えると思っていますか?」
「調子に乗るな、異質な人間。全ての古代魔法具を回収し、何れお前も吸収してやる。そして人間は必ず皆殺しにする。それが我の存在理由だ」
その言葉と共に、黒いドレスの女の子が眩い光を放ち始めますと、一瞬で目の前から姿を消しました。切り取んだ筈の腕も無くなっています。
「ん、あいつの気配が消えた。周囲にはもう居ない」
「転移能力、ですか……。厄介な力を持っていますね」
「……」
危機から逃れた安堵感のせいでしょうか。
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