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4章
大図書館
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「成程ね。歩く古代魔法具にミズキ……か。アクアリースの方角からは常に膨大な魔力を感じてるんだけどさ。ここ最近、訳解んない魔力が増えてるなとは思ってたのよ。その魔力があの王女の娘って事なら納得した」
席に座り直し、何かを考えるように腕を組む学長。この子は見た目もそうだけれど、服装も少女らしい赤いドレスを着ているから、まるで学長室にいたずらをしにきた学生に見えてしまうわね……。
「で、消えた王女の娘を探す手がかりを求めて、私に相談をしに来たって訳ね」
「ええ、そうよ。突然の事で申し訳ないのだけれど、転移魔法で消えたミズキについて、何か解る事があれば教えて欲しいの。どんな些細な事でも構わないわ」
「んー……」
学長は再び考えるような素振りと共に、今度は足を組みあげる。年頃の少女が足を組むなんて、はしたないわね。……と思ったのだけれど、学長も確か王女達と同じ眷属だと以前聞かされていたわね。であれば、見た目と歳は一致しないかしら。
「転移魔法自体、非常に希少な魔法なのよね。っていうか、未だに人間には展開出来ない魔法系統なんだけど」
「でしょうね。古代魔法具の知識上では、転移魔法を人間が展開した記録は全く残っていないもの」
「一応、昔から転移魔法の術式だけは本に纏められてるのよ。でも、誰も展開出来なかった」
「人間が扱うには魔力が足らないから、でしょう?」
「その通りよ。転移魔法は、五姫クラスになってようやく自分一人なら転移出来るかもねって位に膨大な魔力を消費する。例え魔力を底上げする魔法具を身に着けたとしても、全くの無意味ね」
転移系統の魔法は人間には到底扱えない魔法。それなりに魔法に熟知した人物ならば、術式の組み方までは作り上げられるようなのだけれど。肝心の消費魔力が人間の度量を超えているのよね。
「転移魔法を展開出来る人物が数少ない以上、やはり情報を得るのは無理かしらね……」
「諦めるのは早いわよ。さっきも言ったけど、転移魔法の術式だけなら、遥か昔から本に纏められてんのよ。その本を読めば何か解るかもしれないわよ」
「……。そうね。展開は出来なくても、転移魔法の原理や法則などは当然理解はしているのでしょうし。その本、何処にあるのかしら?」
「この学院には全ての知識が集まるとされる大図書館があるのよ。魔法関連において、この図書館以上の知識は何処を探しても見つからないわよ」
図書館……。人間の残す知識にはとても興味があるから、何れ時間があればアクアリースの図書館に足を運ぶつもりだったのよね。個人的には好都合だわ。……まぁ、個人的な知識欲を満たすのはまた次の機会になるけれど。
「その図書館以外に情報が無いと言うのなら、無駄に捜し歩く手間が省けていいわね。ありがとう、早速行ってみるわ。その大図書館は何処にあるのかしら?」
「それくらい自分で探しなさいよっていつもなら言う所なんだけど……アビスさんと九尾さんの手前、そうも行かないか。いいわ、私が特別に案内してやるわよ」
「いえ、別に忙しいなら無理に……」
「いいって言ってんのよ。さっさと行くわよ!」
学長が席を立ち部屋の外へと歩いていくと、「何してんの、早く来なさいよ」と、急かしてくる。まぁ、口は少々悪いようだけど、根は良さそうな人ね。……私も口の悪さについては人の事は言えないかしら。
---------
「ここよ。学生達がよく利用しているのが一階から三階。地下に進む毎に重要文献ランクが上がっていく形ね」
大図書館のある場所へと学長に案内され、大きな扉を開けて入ると。学生達が静かに書物を読み漁る光景が広がる。大図書館の名に恥じぬ、とても広大な広さだわ。かなり遠くまで本棚が並んでいるし、二階、三階にもびっしりと本が収められているわね。
等間隔に長机と椅子が置かれていて、本棚の合間にも椅子があるわ。こうして辺りを見回してみると、ここは知識を欲する私にとって、まさに宝庫ね。ミズキを見つけたら、無理やりここに連れてきて私に付き合わせましょう。私に探させたお返しはしてもらわないといけないもの。
「そうそう、アクアリースの王女が書き残した「重魔法、合成魔法」の本もあるわよ。最重要文献として最下層に保管されてるわ」
「へぇ、王女も本を残しているのね。そんなお話は一度も聞いてなかったわ」
「あの子は自分の事はあんまり喋らないからね。昔からそうなのよ。ええと、転移魔法についての書物は最下層の一歩手前だったかしら。地下四階ね」
壁際にある受付に図書管理の学生二人が座っていて、学長がその二人に一言話しかけると受付の横の壁が動き、地下へと降りる階段が現れた。地下の書物を読むには相応の許可が必要のようね。
等間隔に設置されているランプが足元を照らす中、螺旋を描くように地下へと続く階段を下りて行くと、その途中に扉があり三度その扉を無視して更に下りていく。そして四度目の扉の前で学長が止まり。
「転移魔法の書物があるのはこの部屋ね。重要文献の書類は数が少ないから、部屋の中は期待しないで」
「別にいいわ。目的の本さえあれば」
扉を開けると、とても小さな部屋に台座が数本立っていた。その内の一つに学長が近づき、大事そうに収められている本を取り出し、部屋の入り口で待っている私に差し出した。
本を受け取ると同時に「む、アビス眠いのか?」という九尾の言葉に合わせて視線を落とす。アビスが九尾の尻尾に抱き着いてうとうとしていた。いつの間にか近くにいないミカエラを目で探すと「四階の部屋は初めてなのよねー」と言いながら玉座の本を手に取って見ている。何勝手な事をしてるのかしら、全く……。
「それが目的の本よ。この魔法学院が創設された時、その頃ではとても有名な賢者が記念として贈ったという、転移魔法が記された本。本人は扱えない魔法に何の価値も無いと結論を出したみたいだけど」
数ページ読み進めてみる。原理や術式の組み方、転移理論が項目ごとに書かれていて、とても解りやすい本だわ。
「本を読む限り、術式だけは正確に組まれているのよ。私よりも大分前の学長が実際に本通りに転移魔法を展開しようとしたら、全魔力を消費して倒れるなんて事もあったようね。魔力が足りていれば展開可能だと解って、即座に重要文献として取り扱われるようになったのよ」
「成程ね。確かに素晴らしい本だわ。注意事項なんかも細かく書かれている。展開出来ないのに、そこまで想定しているなんて」
注意事項を流し読みしていると、ふと気になる項目を見つけた。何故かは解らないけれど、そこだけは絶対に読まなければいけない、そんな確信が私の中に沸き起こる。
「……魔力を極限まで転移制御に注ぎ込むと、転移空間内で大きな負荷がかかり、全く想定していない位置に転移する可能性がある。場合によっては遥か彼方、海の向こうにあるとされる別の大陸にすら事故転移する事も十分に起こり得ると推測される……。これよ……これだわ!」
見つけた……見つけたわ。ミズキ、貴女がここに導いてくれたのね。ええ、きっとそうだわ。待っていて、時間はかかるかもしれないけれど、絶対に貴女を迎えに行くわ。
「クリスティア、何か解ったのか?」
「ええ、今のままミズキを探していても見つからないわ」
「何?」
「あの子は海の向こうに転移したのよ」
「海の向こう……別の大陸か? 遥か昔に風のうわさ程度には聞いたことがあるが……本当にそんな大陸があるのか?」
九尾の懐疑的な質問にも、私は自信を持って答えるわ。間違いなくミズキは別の大陸に居る。この本を読んでから、異様な程の確信があるの。絶対に間違っていないって。
「あんた達、まさか海を越える気?」
「ええ、アクアリースなら船の一つや二つ出してくれるわ」
「そんな事を心配してるんじゃないわよ。あんた海の恐ろしさが解っていないみたいね」
私の記憶では、海の恐ろしさと言えば船酔いなのだけれど……。ミズキの為なら、我慢できるし克服してやるわ。でも、学長は当然、そんな事を恐れている訳がないわね。
「いい? この大陸の周辺には、アビスさんのお陰で殆ど海にモンスターはいないんだけど、一度遠出をすれば、巨大な海洋生物型のモンスターが沢山襲ってくるわ。奇跡的に漂流して戻ってきた船乗りが、命と引き換えに遺した情報よ」
「それは……」
初めて聞く情報だわ。海に関しては古代魔法具には殆ど記録がないのよね。海中にはそんなモンスターがいるなんて。船からだと戦いにくいし、そもそも船が壊された時点で終わりね。
「ねーねー」
アビスが眠そうに目をこすりながら、私のスカートをくいくいと引っ張る。視線を落とすと、直ぐにアビスは何かを決意したように、真っ直ぐな目で私を見上げてきた。
「どうしたの、アビス?」
「そのお話し、私ならかいけつできるよ」
「解決?」
「私がおふねをまもる!!」
両腕を振り上げ、意気込むアビス。幼女が凄んでも、ただ可愛らしいだけなのが悲しい所ね……。
「成程ね。アビスさんが本来の姿に戻れば、海のモンスター共が恐れをなして逃げていくわね」
「確か、アビスの本当の姿は龍だったかしら」
「うん、私のからだおおきいから、もしみのほどしらずなモンスターがきても、ぼっこぼこにしてやるんだから!」
つまり本来の姿に戻るという事は、国家指定級の一つである海龍アビス本来の力を使うと言う意味でもあるわ。それは多分、アクアリースの皆も、ミズキも望まない事だとは思う。けれど……今は、今だけはミズキの為に、アビス本来の力を貸して欲しい。
「アビス、それじゃあ船の護衛をお願いできるかしら?」
「うん! あのね、くりすてぃあが旅にでるっていったとき、ぜったい私もついていかなくちゃいけない気がしたの。きっと、この為だったんだって今ならわかるよ」
「ええ実は私もね、アビスは連れて行くべきだって直感的に思ったの。何か不思議ね」
「ふしぎー」
そうと決まれば、一度アクアリースへ戻らないといけないわね。大がかりな準備が必要だもの。
「取りあえずここの本は役に立ったみたいね」
「ええ、とても。感謝するわ学長」
「いい加減レイチェルって呼びなさいよ! でないと、こっちもクリスティアって呼ばないわよ」
「ふふ、そうね。有難うレイチェル」
「どういたしまして」
「さぁ、一度アクアリースへ戻りましょう。ミズキを探す足がかりは見つけたわ。後はあの子の所に行くだけ」
私の言葉に全員が頷く。一人だけ頭を抱えてしゃがんでいるけれど。
「ねぇ」
「何よミカエラ」
「何か私が話しかける度に段々いらついてない!?」
「そんなの当然でしょう。貴女、捕虜の立場を忘れていないでしょうね」
「う……何ていうかー。私もその別の大陸って所に行かないといけない感じ?」
「そんなの当然でしょう?」
「嫌よー!! 私そんなとこに行くくらいなら牢屋で待ってるわ!」
「貴女、食事は上手に作れるんだから人の役に立ちなさい」
「いーーーやーーーー!!」
うるさいミカエラを黙らせて、私達はアクアリースへの帰路につく。別の大陸についての情報は古代魔法具には無く、人の歴史にも殆ど残されていない。でも、少なからず残されているという事は誰かは別の大陸に行った事があるって事よね。
或いはその別の大陸から来た何者かがいる、という可能性もあるわ。まぁ、どっちでもいいわね。私はミズキに会いに行く。ただそれだけなのだから。
席に座り直し、何かを考えるように腕を組む学長。この子は見た目もそうだけれど、服装も少女らしい赤いドレスを着ているから、まるで学長室にいたずらをしにきた学生に見えてしまうわね……。
「で、消えた王女の娘を探す手がかりを求めて、私に相談をしに来たって訳ね」
「ええ、そうよ。突然の事で申し訳ないのだけれど、転移魔法で消えたミズキについて、何か解る事があれば教えて欲しいの。どんな些細な事でも構わないわ」
「んー……」
学長は再び考えるような素振りと共に、今度は足を組みあげる。年頃の少女が足を組むなんて、はしたないわね。……と思ったのだけれど、学長も確か王女達と同じ眷属だと以前聞かされていたわね。であれば、見た目と歳は一致しないかしら。
「転移魔法自体、非常に希少な魔法なのよね。っていうか、未だに人間には展開出来ない魔法系統なんだけど」
「でしょうね。古代魔法具の知識上では、転移魔法を人間が展開した記録は全く残っていないもの」
「一応、昔から転移魔法の術式だけは本に纏められてるのよ。でも、誰も展開出来なかった」
「人間が扱うには魔力が足らないから、でしょう?」
「その通りよ。転移魔法は、五姫クラスになってようやく自分一人なら転移出来るかもねって位に膨大な魔力を消費する。例え魔力を底上げする魔法具を身に着けたとしても、全くの無意味ね」
転移系統の魔法は人間には到底扱えない魔法。それなりに魔法に熟知した人物ならば、術式の組み方までは作り上げられるようなのだけれど。肝心の消費魔力が人間の度量を超えているのよね。
「転移魔法を展開出来る人物が数少ない以上、やはり情報を得るのは無理かしらね……」
「諦めるのは早いわよ。さっきも言ったけど、転移魔法の術式だけなら、遥か昔から本に纏められてんのよ。その本を読めば何か解るかもしれないわよ」
「……。そうね。展開は出来なくても、転移魔法の原理や法則などは当然理解はしているのでしょうし。その本、何処にあるのかしら?」
「この学院には全ての知識が集まるとされる大図書館があるのよ。魔法関連において、この図書館以上の知識は何処を探しても見つからないわよ」
図書館……。人間の残す知識にはとても興味があるから、何れ時間があればアクアリースの図書館に足を運ぶつもりだったのよね。個人的には好都合だわ。……まぁ、個人的な知識欲を満たすのはまた次の機会になるけれど。
「その図書館以外に情報が無いと言うのなら、無駄に捜し歩く手間が省けていいわね。ありがとう、早速行ってみるわ。その大図書館は何処にあるのかしら?」
「それくらい自分で探しなさいよっていつもなら言う所なんだけど……アビスさんと九尾さんの手前、そうも行かないか。いいわ、私が特別に案内してやるわよ」
「いえ、別に忙しいなら無理に……」
「いいって言ってんのよ。さっさと行くわよ!」
学長が席を立ち部屋の外へと歩いていくと、「何してんの、早く来なさいよ」と、急かしてくる。まぁ、口は少々悪いようだけど、根は良さそうな人ね。……私も口の悪さについては人の事は言えないかしら。
---------
「ここよ。学生達がよく利用しているのが一階から三階。地下に進む毎に重要文献ランクが上がっていく形ね」
大図書館のある場所へと学長に案内され、大きな扉を開けて入ると。学生達が静かに書物を読み漁る光景が広がる。大図書館の名に恥じぬ、とても広大な広さだわ。かなり遠くまで本棚が並んでいるし、二階、三階にもびっしりと本が収められているわね。
等間隔に長机と椅子が置かれていて、本棚の合間にも椅子があるわ。こうして辺りを見回してみると、ここは知識を欲する私にとって、まさに宝庫ね。ミズキを見つけたら、無理やりここに連れてきて私に付き合わせましょう。私に探させたお返しはしてもらわないといけないもの。
「そうそう、アクアリースの王女が書き残した「重魔法、合成魔法」の本もあるわよ。最重要文献として最下層に保管されてるわ」
「へぇ、王女も本を残しているのね。そんなお話は一度も聞いてなかったわ」
「あの子は自分の事はあんまり喋らないからね。昔からそうなのよ。ええと、転移魔法についての書物は最下層の一歩手前だったかしら。地下四階ね」
壁際にある受付に図書管理の学生二人が座っていて、学長がその二人に一言話しかけると受付の横の壁が動き、地下へと降りる階段が現れた。地下の書物を読むには相応の許可が必要のようね。
等間隔に設置されているランプが足元を照らす中、螺旋を描くように地下へと続く階段を下りて行くと、その途中に扉があり三度その扉を無視して更に下りていく。そして四度目の扉の前で学長が止まり。
「転移魔法の書物があるのはこの部屋ね。重要文献の書類は数が少ないから、部屋の中は期待しないで」
「別にいいわ。目的の本さえあれば」
扉を開けると、とても小さな部屋に台座が数本立っていた。その内の一つに学長が近づき、大事そうに収められている本を取り出し、部屋の入り口で待っている私に差し出した。
本を受け取ると同時に「む、アビス眠いのか?」という九尾の言葉に合わせて視線を落とす。アビスが九尾の尻尾に抱き着いてうとうとしていた。いつの間にか近くにいないミカエラを目で探すと「四階の部屋は初めてなのよねー」と言いながら玉座の本を手に取って見ている。何勝手な事をしてるのかしら、全く……。
「それが目的の本よ。この魔法学院が創設された時、その頃ではとても有名な賢者が記念として贈ったという、転移魔法が記された本。本人は扱えない魔法に何の価値も無いと結論を出したみたいだけど」
数ページ読み進めてみる。原理や術式の組み方、転移理論が項目ごとに書かれていて、とても解りやすい本だわ。
「本を読む限り、術式だけは正確に組まれているのよ。私よりも大分前の学長が実際に本通りに転移魔法を展開しようとしたら、全魔力を消費して倒れるなんて事もあったようね。魔力が足りていれば展開可能だと解って、即座に重要文献として取り扱われるようになったのよ」
「成程ね。確かに素晴らしい本だわ。注意事項なんかも細かく書かれている。展開出来ないのに、そこまで想定しているなんて」
注意事項を流し読みしていると、ふと気になる項目を見つけた。何故かは解らないけれど、そこだけは絶対に読まなければいけない、そんな確信が私の中に沸き起こる。
「……魔力を極限まで転移制御に注ぎ込むと、転移空間内で大きな負荷がかかり、全く想定していない位置に転移する可能性がある。場合によっては遥か彼方、海の向こうにあるとされる別の大陸にすら事故転移する事も十分に起こり得ると推測される……。これよ……これだわ!」
見つけた……見つけたわ。ミズキ、貴女がここに導いてくれたのね。ええ、きっとそうだわ。待っていて、時間はかかるかもしれないけれど、絶対に貴女を迎えに行くわ。
「クリスティア、何か解ったのか?」
「ええ、今のままミズキを探していても見つからないわ」
「何?」
「あの子は海の向こうに転移したのよ」
「海の向こう……別の大陸か? 遥か昔に風のうわさ程度には聞いたことがあるが……本当にそんな大陸があるのか?」
九尾の懐疑的な質問にも、私は自信を持って答えるわ。間違いなくミズキは別の大陸に居る。この本を読んでから、異様な程の確信があるの。絶対に間違っていないって。
「あんた達、まさか海を越える気?」
「ええ、アクアリースなら船の一つや二つ出してくれるわ」
「そんな事を心配してるんじゃないわよ。あんた海の恐ろしさが解っていないみたいね」
私の記憶では、海の恐ろしさと言えば船酔いなのだけれど……。ミズキの為なら、我慢できるし克服してやるわ。でも、学長は当然、そんな事を恐れている訳がないわね。
「いい? この大陸の周辺には、アビスさんのお陰で殆ど海にモンスターはいないんだけど、一度遠出をすれば、巨大な海洋生物型のモンスターが沢山襲ってくるわ。奇跡的に漂流して戻ってきた船乗りが、命と引き換えに遺した情報よ」
「それは……」
初めて聞く情報だわ。海に関しては古代魔法具には殆ど記録がないのよね。海中にはそんなモンスターがいるなんて。船からだと戦いにくいし、そもそも船が壊された時点で終わりね。
「ねーねー」
アビスが眠そうに目をこすりながら、私のスカートをくいくいと引っ張る。視線を落とすと、直ぐにアビスは何かを決意したように、真っ直ぐな目で私を見上げてきた。
「どうしたの、アビス?」
「そのお話し、私ならかいけつできるよ」
「解決?」
「私がおふねをまもる!!」
両腕を振り上げ、意気込むアビス。幼女が凄んでも、ただ可愛らしいだけなのが悲しい所ね……。
「成程ね。アビスさんが本来の姿に戻れば、海のモンスター共が恐れをなして逃げていくわね」
「確か、アビスの本当の姿は龍だったかしら」
「うん、私のからだおおきいから、もしみのほどしらずなモンスターがきても、ぼっこぼこにしてやるんだから!」
つまり本来の姿に戻るという事は、国家指定級の一つである海龍アビス本来の力を使うと言う意味でもあるわ。それは多分、アクアリースの皆も、ミズキも望まない事だとは思う。けれど……今は、今だけはミズキの為に、アビス本来の力を貸して欲しい。
「アビス、それじゃあ船の護衛をお願いできるかしら?」
「うん! あのね、くりすてぃあが旅にでるっていったとき、ぜったい私もついていかなくちゃいけない気がしたの。きっと、この為だったんだって今ならわかるよ」
「ええ実は私もね、アビスは連れて行くべきだって直感的に思ったの。何か不思議ね」
「ふしぎー」
そうと決まれば、一度アクアリースへ戻らないといけないわね。大がかりな準備が必要だもの。
「取りあえずここの本は役に立ったみたいね」
「ええ、とても。感謝するわ学長」
「いい加減レイチェルって呼びなさいよ! でないと、こっちもクリスティアって呼ばないわよ」
「ふふ、そうね。有難うレイチェル」
「どういたしまして」
「さぁ、一度アクアリースへ戻りましょう。ミズキを探す足がかりは見つけたわ。後はあの子の所に行くだけ」
私の言葉に全員が頷く。一人だけ頭を抱えてしゃがんでいるけれど。
「ねぇ」
「何よミカエラ」
「何か私が話しかける度に段々いらついてない!?」
「そんなの当然でしょう。貴女、捕虜の立場を忘れていないでしょうね」
「う……何ていうかー。私もその別の大陸って所に行かないといけない感じ?」
「そんなの当然でしょう?」
「嫌よー!! 私そんなとこに行くくらいなら牢屋で待ってるわ!」
「貴女、食事は上手に作れるんだから人の役に立ちなさい」
「いーーーやーーーー!!」
うるさいミカエラを黙らせて、私達はアクアリースへの帰路につく。別の大陸についての情報は古代魔法具には無く、人の歴史にも殆ど残されていない。でも、少なからず残されているという事は誰かは別の大陸に行った事があるって事よね。
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