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4章
海上を行くもの
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「イグニシア、何か見えるかしら?」
「まだ見えぬな」
「そう、別の大陸は相当離れている様ね」
「恐ろしきはミズキの魔力、と言った所か。この様な距離を容易く転移するとは。余の理解の範疇からも外れている」
船旅を始めてから約一メルダといった所かしら。ミズキが待つ別の大陸を目指して航海中の私達。船酔いをどうにか克服した私は、長時間船上の甲板に出ていても問題の無い程度には過ごせるようになったわ。
船旅は順調そのものね。以前は酷い船酔いのせいでベッドに寝ていたから解らなかったのだけれど、何処までも広がる大海原の景色はとても素敵だわ。けれど、そんな素敵な景色も、隣にミズキが居てくれなければ楽しくなんて無い。皆が私に気を使ってくれているから、そんな弱い部分は見せるつもりは無いけれど。
旅が順調な理由はやはり、アビスとイグニシアのお陰ね。二人には本当に感謝しているわ。こうして、上空からはイグニシアが遥か先までを見通し、海中ではアビスが強大な海のモンスターを排除してくれているもの。
イグニシアはとても大きな火の鳥だけれど、驚くべきはアビスね。一体、龍の胴はどこからどこまで続いているのか解らない程に巨大だもの。普段はとても小さな少女だけれど、それは本来の龍の姿に相反している結果なのかしらね。
「ふむ。身の程を知らぬ雑魚が海上に姿を現しているな。ここより数十分後に遭遇するであろう」
「へぇ、アビスの威圧に屈しないなんて、面白いモンスターね。けれど……災難な奴だわ」
数十分後に遭遇するからといって。そのまま進む必要なんて此方には一切ないわ。イグニシアが羽ばたきを強めると、少女の姿だった時とは桁違いの火球が上空に出現する。遥か彼方に向けて巨大な火球が放たれると、凄まじい爆音と共に熱風が返ってくる。アビスが防いでくれているから、波も立たず熱波で焼かれることも無いわ。
海上に姿を現すと言う事は、イグニシアからすれば唯焼き尽くすだけの案山子でしかないわね。遥か先に居たであろうモンスターがどんな姿をしているかなど私達には知る必要も無く、邪魔者が排除されていく。
「いやー流石はイグニシアちゃんですねー」
私の後ろから声がかかり、そちらに振り向くと。甲板に姿を現したのは王女。
「たまには私も戦闘に加わりたいわね。このままだと鈍ってしまうわ」
近づく王女になびく髪をおさえながら返答を返す私。王女も同じ様に笑顔で長い髪を抑えているわ。ミズキが居なくなった事で暫くは情緒不安定気味だった王女も、今は普段通りの変な子に戻っている。ええ、王女は変な子だからこそ普通なのよ。
「あ、それ僕も同感なんです! そろそろ獲物を少し譲ってくれないかなーなんて、イグニシアちゃんとアビスちゃんにお願いしてみようと思ったんですけど……」
「ミズファよ」
王女の言葉に、海の底から声だけが響いてくる。これはアビスの声ね。
「貴様がいくら強かろうと、船が傷つけばそこで終わりだ。海を軽視するようであれば、今直ぐ元の大陸へと連れ帰るぞ」
アビスは私達の大陸を囲む海の王とも呼べる存在。そんな彼女も、一度沖に出てしまえば強者の一人でしかない。だからこそ、アビスは警戒を怠らない。先ずアビスより強い海のモンスターなど存在はしないと思うけれど、徒党を組まれれば話は別ね。私達が乗る船は三隻あり、その全てを守りながら戦わねばならないのだから。
本来は二隻で済む予定だったのだけれど、王女がどうしても着いてくると聞かなくて。話し合いの後、五姫とエステル、そして九尾とミツキにアクアリースを任せて、王女とプリシラが船旅に帯同する事になったわ。勿論、水晶は私達の大陸には居ないと結論付けた上で。
「ご、御免なさいアビスちゃん。怒らないでくださいー」
「王女よ。貴様は魔力を十分に残しておくがいい。不測の事態に備えよ」
今度はイグニシアからも注意を受ける王女。今のイグニシアとアビスは本来の国家指定級その物だもの、たった一言にも威圧感が込められているわね。船を警備する騎士達がとても不憫だわ。まるで怯えた猫のようだもの。まぁ、王女と私には威圧は効かないのだけれど。
「うん、解りました。アビスちゃんとイグニシアちゃんには本当に感謝してます! 自然界においては二人の方が生きるすべを心得てますもんね」
「解ればいい。ミズファよ、私とてミズキの事はとても気にかけている、あの者は姉の様でもあり、時には妹の様にも感じる不思議な娘だ。……必ず連れて帰るぞ」
「うん、有難うございますアビスちゃん!! 当然です! 海に出てから、ミズキが無事だっていう予感を強く感じるんです。今頃僕達の到着が余りに遅くて、怒ってるかもしれませんねー」
そんな風に言いながら、笑う王女。私もつられてちょっと微笑んでしまったわ。王女って、とても不思議な力を持っているのよね。「予感」と「直感」を様々な状況で感じ取る事が出来ると言う話を王女本人から聞いたわ。
予感も直感も、それ自体は普通の人間でも感じる事だけれど、王女にとってはまるで別物のようね。予感は必ず当たるし、直感通りに動けば状況が好転するという、ある種特別な能力ね。ただし、自分が危機的状況に陥る場合でしか能力が発動しないと言っていたわ。それなのに、ミズキの無事は予感で解ると王女は言った。答えは簡単ね。だって……ミズキは王女の娘だもの。
「ふむ、ミズキの怒りは御免被る。だが、焦らず確実な船旅と行こうぞ」
イグニシアの言葉に頷く私。王女がミズキの無事を確信しているからこそ、安心して船の旅を続ける事ができる。焦る必要なんて何もないわ。
「あの、ミズファ王女。室内のお掃除終わりました」
甲板上に姿を現した子が王女に向けて話しかけている。身なりはメイド服の少女で、掃除の任を任されている子ね。一応最低限のメイドも乗船しているのだけれど、この子はそういった傍付きとも違うわ。
それに続くように、甲板上にある階段から上ってくる女の子がもう一人。
「んと、食事の準備出来た。皆を呼びに来たの」
階段から姿を現した子は、少女の姿のアビスより少し背が高い程度の少女。此方もメイド服を着ているわ。
「ちょっと、メイニー! 食事の準備したの殆ど私一人じゃないのよぉ!」
階段から更に上ってきたのはミカエラ。先に上ってきた少女と二人でこの船の食事係を任されているのだけれど、ミカエラが作る食事はとても評判がいいのよね。それなりの食材があれば、貴族にすら出しても恥ずかしくない程の料理を作るから、何か女として負けたような気分になるわ……。
「メルローゼさん、メイニーさん、それとミカエラさんお仕事お疲れ様です! じゃあさっそく皆でご飯にしましょう! イグニシアちゃんとアビスちゃんはやっぱり後からですか?」
「この姿でいる合間は食事の必要など無いからな。アビスよ、食事には貴様から行くが良い」
「今は私も遠慮して置こう。深夜は比較的海のモンスター共が大人しくなる。その頃に頂くとしよう」
「解りました。温かな食事を用意しておきますね!」
王女を先頭に船内に下りていく私達。私の後ろではミカエラとメイド服の二人が仲良さげに話をしているわ。それも当然で、メルローゼとメイニーはミカエラと同じ水晶五姫だもの。メルローゼは赤い髪をポニーにしている過去の炎姫、そしてメイニーは水色のセミロングの髪をした過去の氷姫よ。
船出のメル、乗船しようとしていた私達の前に、残りの水晶五姫が揃って目前に現れたわ。最初は当然警戒したのだけれど、三人の水晶五姫は何れも戦闘の意思は無く、直ぐに捕らえられた。三人から話を聞く限り、水晶と連絡が取れず、ミカエラとエイルという過去の風姫もいない状態では抗っても無意味だと結論付けたみたいだわ。賢明な判断ね。
そのままミカエラのように船旅に連れて行く事にしたのだけれど、牢に入れて捕虜のままとしておくよりも、身の回りの世話をして貰った方がいいと言う王女の判断の下、掃除や食事の世話をさせている。
もう一人、ティニーという名の過去の光姫がいるのだけれど、その子は先頭の船に乗船しているウェイルとプリシラの所に自らの意思で乗っているわ。
三人の水晶五姫は至って普通の少女のように私達と接している。ミカエラも捕虜の身となった後に街を壊した事を泣きながら謝って来たし、人間らしさも感じるようになった。恐らく、水晶の力が及んでいないのかもしれないわね。だから生前の頃の彼女達に戻っているのかもしれないわ。
王女が階段を下りる所で、赤い魔法陣が甲板上に出現する。ディナーに合わせてプリシラも来たようね。直ぐに王女が嬉しそうに魔法陣に駆け寄って行く。
「ディナーには間に合ったかしら」
「うん、これから皆でご飯に行くところです!」
「ミカエラ嬢の食事はとても美味しいからね。プリシラさんが急ぐのも解るよ」
「ウェイル、妙な口は慎みなさい」
赤い魔法陣が出現すると、プリシラとウェイルが私達が乗る中央の船に血術空間ブラッドスペースを介して転移して来たわ。この芸当はミズキにすら出来ないみたい。けれど、転移の度に血を全て消費してしまうから、転移先に血を補充できる対象がいないと使えないのがネックだとプリシラが言っていたわね。
その二人の後ろにはティニーもいるわ。金色の髪を縦ロールにしていて、如何にも貴族のお嬢様然としている子。メイド服も自信を持って着こなしているように見えるわ。
「ウェイル様! 何でしたら私が食事を用意しても宜しいのですわよ? いいえ、私に作らせて下さいませ!」
「ティニー嬢も食事を作れるのかい?」
「ええ、勿論ですわ! 貴方の為でしたらわたくし、腕によりをかけますわ!」
ティニーはウェイルをとても気に入っているようで、一目ぼれという奴かしらね。初めて出会った瞬間からウェイルの傍を離れないのよ……。
「それじゃあ今度お願いしようかな」
「ええ、今度と言わず次のメルを楽しみにしていて下さいませ! そこの田舎娘など、足元にも及ばぬ最高のディナーを披露してご覧に入れますわ!」
「だ、誰が田舎娘ですってぇ!?」
「貴女の事ですわミカエラ」
「言わせておけば……。この尻軽女!」
「な!? 何ですってぇ!!」
また今夜も始まったわ、ミカエラとティニーの喧嘩が……。皆は慣れたように無視して船内に下りて行く。私もさっさと食事を済ませてしまいましょう。
賑やかな船旅はまだ少し続きそうかしらね。早く会いたいわ、ミズキ。
「まだ見えぬな」
「そう、別の大陸は相当離れている様ね」
「恐ろしきはミズキの魔力、と言った所か。この様な距離を容易く転移するとは。余の理解の範疇からも外れている」
船旅を始めてから約一メルダといった所かしら。ミズキが待つ別の大陸を目指して航海中の私達。船酔いをどうにか克服した私は、長時間船上の甲板に出ていても問題の無い程度には過ごせるようになったわ。
船旅は順調そのものね。以前は酷い船酔いのせいでベッドに寝ていたから解らなかったのだけれど、何処までも広がる大海原の景色はとても素敵だわ。けれど、そんな素敵な景色も、隣にミズキが居てくれなければ楽しくなんて無い。皆が私に気を使ってくれているから、そんな弱い部分は見せるつもりは無いけれど。
旅が順調な理由はやはり、アビスとイグニシアのお陰ね。二人には本当に感謝しているわ。こうして、上空からはイグニシアが遥か先までを見通し、海中ではアビスが強大な海のモンスターを排除してくれているもの。
イグニシアはとても大きな火の鳥だけれど、驚くべきはアビスね。一体、龍の胴はどこからどこまで続いているのか解らない程に巨大だもの。普段はとても小さな少女だけれど、それは本来の龍の姿に相反している結果なのかしらね。
「ふむ。身の程を知らぬ雑魚が海上に姿を現しているな。ここより数十分後に遭遇するであろう」
「へぇ、アビスの威圧に屈しないなんて、面白いモンスターね。けれど……災難な奴だわ」
数十分後に遭遇するからといって。そのまま進む必要なんて此方には一切ないわ。イグニシアが羽ばたきを強めると、少女の姿だった時とは桁違いの火球が上空に出現する。遥か彼方に向けて巨大な火球が放たれると、凄まじい爆音と共に熱風が返ってくる。アビスが防いでくれているから、波も立たず熱波で焼かれることも無いわ。
海上に姿を現すと言う事は、イグニシアからすれば唯焼き尽くすだけの案山子でしかないわね。遥か先に居たであろうモンスターがどんな姿をしているかなど私達には知る必要も無く、邪魔者が排除されていく。
「いやー流石はイグニシアちゃんですねー」
私の後ろから声がかかり、そちらに振り向くと。甲板に姿を現したのは王女。
「たまには私も戦闘に加わりたいわね。このままだと鈍ってしまうわ」
近づく王女になびく髪をおさえながら返答を返す私。王女も同じ様に笑顔で長い髪を抑えているわ。ミズキが居なくなった事で暫くは情緒不安定気味だった王女も、今は普段通りの変な子に戻っている。ええ、王女は変な子だからこそ普通なのよ。
「あ、それ僕も同感なんです! そろそろ獲物を少し譲ってくれないかなーなんて、イグニシアちゃんとアビスちゃんにお願いしてみようと思ったんですけど……」
「ミズファよ」
王女の言葉に、海の底から声だけが響いてくる。これはアビスの声ね。
「貴様がいくら強かろうと、船が傷つけばそこで終わりだ。海を軽視するようであれば、今直ぐ元の大陸へと連れ帰るぞ」
アビスは私達の大陸を囲む海の王とも呼べる存在。そんな彼女も、一度沖に出てしまえば強者の一人でしかない。だからこそ、アビスは警戒を怠らない。先ずアビスより強い海のモンスターなど存在はしないと思うけれど、徒党を組まれれば話は別ね。私達が乗る船は三隻あり、その全てを守りながら戦わねばならないのだから。
本来は二隻で済む予定だったのだけれど、王女がどうしても着いてくると聞かなくて。話し合いの後、五姫とエステル、そして九尾とミツキにアクアリースを任せて、王女とプリシラが船旅に帯同する事になったわ。勿論、水晶は私達の大陸には居ないと結論付けた上で。
「ご、御免なさいアビスちゃん。怒らないでくださいー」
「王女よ。貴様は魔力を十分に残しておくがいい。不測の事態に備えよ」
今度はイグニシアからも注意を受ける王女。今のイグニシアとアビスは本来の国家指定級その物だもの、たった一言にも威圧感が込められているわね。船を警備する騎士達がとても不憫だわ。まるで怯えた猫のようだもの。まぁ、王女と私には威圧は効かないのだけれど。
「うん、解りました。アビスちゃんとイグニシアちゃんには本当に感謝してます! 自然界においては二人の方が生きるすべを心得てますもんね」
「解ればいい。ミズファよ、私とてミズキの事はとても気にかけている、あの者は姉の様でもあり、時には妹の様にも感じる不思議な娘だ。……必ず連れて帰るぞ」
「うん、有難うございますアビスちゃん!! 当然です! 海に出てから、ミズキが無事だっていう予感を強く感じるんです。今頃僕達の到着が余りに遅くて、怒ってるかもしれませんねー」
そんな風に言いながら、笑う王女。私もつられてちょっと微笑んでしまったわ。王女って、とても不思議な力を持っているのよね。「予感」と「直感」を様々な状況で感じ取る事が出来ると言う話を王女本人から聞いたわ。
予感も直感も、それ自体は普通の人間でも感じる事だけれど、王女にとってはまるで別物のようね。予感は必ず当たるし、直感通りに動けば状況が好転するという、ある種特別な能力ね。ただし、自分が危機的状況に陥る場合でしか能力が発動しないと言っていたわ。それなのに、ミズキの無事は予感で解ると王女は言った。答えは簡単ね。だって……ミズキは王女の娘だもの。
「ふむ、ミズキの怒りは御免被る。だが、焦らず確実な船旅と行こうぞ」
イグニシアの言葉に頷く私。王女がミズキの無事を確信しているからこそ、安心して船の旅を続ける事ができる。焦る必要なんて何もないわ。
「あの、ミズファ王女。室内のお掃除終わりました」
甲板上に姿を現した子が王女に向けて話しかけている。身なりはメイド服の少女で、掃除の任を任されている子ね。一応最低限のメイドも乗船しているのだけれど、この子はそういった傍付きとも違うわ。
それに続くように、甲板上にある階段から上ってくる女の子がもう一人。
「んと、食事の準備出来た。皆を呼びに来たの」
階段から姿を現した子は、少女の姿のアビスより少し背が高い程度の少女。此方もメイド服を着ているわ。
「ちょっと、メイニー! 食事の準備したの殆ど私一人じゃないのよぉ!」
階段から更に上ってきたのはミカエラ。先に上ってきた少女と二人でこの船の食事係を任されているのだけれど、ミカエラが作る食事はとても評判がいいのよね。それなりの食材があれば、貴族にすら出しても恥ずかしくない程の料理を作るから、何か女として負けたような気分になるわ……。
「メルローゼさん、メイニーさん、それとミカエラさんお仕事お疲れ様です! じゃあさっそく皆でご飯にしましょう! イグニシアちゃんとアビスちゃんはやっぱり後からですか?」
「この姿でいる合間は食事の必要など無いからな。アビスよ、食事には貴様から行くが良い」
「今は私も遠慮して置こう。深夜は比較的海のモンスター共が大人しくなる。その頃に頂くとしよう」
「解りました。温かな食事を用意しておきますね!」
王女を先頭に船内に下りていく私達。私の後ろではミカエラとメイド服の二人が仲良さげに話をしているわ。それも当然で、メルローゼとメイニーはミカエラと同じ水晶五姫だもの。メルローゼは赤い髪をポニーにしている過去の炎姫、そしてメイニーは水色のセミロングの髪をした過去の氷姫よ。
船出のメル、乗船しようとしていた私達の前に、残りの水晶五姫が揃って目前に現れたわ。最初は当然警戒したのだけれど、三人の水晶五姫は何れも戦闘の意思は無く、直ぐに捕らえられた。三人から話を聞く限り、水晶と連絡が取れず、ミカエラとエイルという過去の風姫もいない状態では抗っても無意味だと結論付けたみたいだわ。賢明な判断ね。
そのままミカエラのように船旅に連れて行く事にしたのだけれど、牢に入れて捕虜のままとしておくよりも、身の回りの世話をして貰った方がいいと言う王女の判断の下、掃除や食事の世話をさせている。
もう一人、ティニーという名の過去の光姫がいるのだけれど、その子は先頭の船に乗船しているウェイルとプリシラの所に自らの意思で乗っているわ。
三人の水晶五姫は至って普通の少女のように私達と接している。ミカエラも捕虜の身となった後に街を壊した事を泣きながら謝って来たし、人間らしさも感じるようになった。恐らく、水晶の力が及んでいないのかもしれないわね。だから生前の頃の彼女達に戻っているのかもしれないわ。
王女が階段を下りる所で、赤い魔法陣が甲板上に出現する。ディナーに合わせてプリシラも来たようね。直ぐに王女が嬉しそうに魔法陣に駆け寄って行く。
「ディナーには間に合ったかしら」
「うん、これから皆でご飯に行くところです!」
「ミカエラ嬢の食事はとても美味しいからね。プリシラさんが急ぐのも解るよ」
「ウェイル、妙な口は慎みなさい」
赤い魔法陣が出現すると、プリシラとウェイルが私達が乗る中央の船に血術空間ブラッドスペースを介して転移して来たわ。この芸当はミズキにすら出来ないみたい。けれど、転移の度に血を全て消費してしまうから、転移先に血を補充できる対象がいないと使えないのがネックだとプリシラが言っていたわね。
その二人の後ろにはティニーもいるわ。金色の髪を縦ロールにしていて、如何にも貴族のお嬢様然としている子。メイド服も自信を持って着こなしているように見えるわ。
「ウェイル様! 何でしたら私が食事を用意しても宜しいのですわよ? いいえ、私に作らせて下さいませ!」
「ティニー嬢も食事を作れるのかい?」
「ええ、勿論ですわ! 貴方の為でしたらわたくし、腕によりをかけますわ!」
ティニーはウェイルをとても気に入っているようで、一目ぼれという奴かしらね。初めて出会った瞬間からウェイルの傍を離れないのよ……。
「それじゃあ今度お願いしようかな」
「ええ、今度と言わず次のメルを楽しみにしていて下さいませ! そこの田舎娘など、足元にも及ばぬ最高のディナーを披露してご覧に入れますわ!」
「だ、誰が田舎娘ですってぇ!?」
「貴女の事ですわミカエラ」
「言わせておけば……。この尻軽女!」
「な!? 何ですってぇ!!」
また今夜も始まったわ、ミカエラとティニーの喧嘩が……。皆は慣れたように無視して船内に下りて行く。私もさっさと食事を済ませてしまいましょう。
賑やかな船旅はまだ少し続きそうかしらね。早く会いたいわ、ミズキ。
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