冒険者になった吸血少女の見る世界

澄雫

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4章

謁見後と明日からの私達

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「……貴様の質問に答える前に、俺の質問に答えて貰うぞ」

 シャウラさんに対する回答は、更なるクラウスさんからの質問の後となるようです。

「良かろう。申してみよ」
「ここからが本題となる。貴様らは何をしにこの大陸に来た?」

 何をしに……? あ、そうですよね。クラウスさんは私達が転移して来た経緯を知らないのですから、この大陸に来た理由が解らなくて当然なのです。

「この大陸に戦端を開くつもりで来たのであれば、今直ぐここで貴様らを排除する事なるが……?」
「ほぉ……面白い。やってみるか?」
「ちょ、ちょっとシャウラさん!!」

 慌ててシャウラさんの口を塞ぎ、「あの、し、失礼しました」と作り笑いでクラウスさんに謝る私。全くシャウラさんは……。何いきなり大陸間を決裂させようとしてるんですか!?

「むぐむぐ、むぐむぐ!!」
「あの、私達は争う為にこの大陸に来たのではありません。それだけは信じて下さい」

 私達は争いの種を持ち込む為に来たのではありません。ですがそれを証明する物が無い以上、クラウスさんには無条件に私達のお話を信じて頂くしか無いのです……。そう言った意味では、この大陸で一番偉い方に直接真摯な気持ちをお伝え出来る現状は、とても幸運な事なのかもしれません。

 一瞬、殺気めいた雰囲気を放ったクラウスさんですけれど、直ぐに気を抜いてソファにもたれ掛かり。

「解っている、念の為聞いただけだ。貴様は相当なお人好しの様だからな」
「むぐーむぐー」

 良かった、信じて頂けたようです。お人好しと言われましても、よく解りませんけれどもね。

「そもそも貴様にその気があるならば、既に都市の一つや二つ消滅させられていてもおかしくは無いだろう」
「し、しませんよそんな事!」
「む……ぐ、むぐ……」

 破壊衝動に流された私が言える事では無いのですけれども。

「……っ……」
「ミズキ、とても愉快なのでそのままでいいと私個人は思うのですが、そろそろシャウラから手を放した方がいいかと」
「あ……」

 ふとシャウラさんを見ますと、とっても顔が真っ赤でした。慌てて手を放しますと、凄い勢いで呼吸をしつつ「はぁ、はぁ小娘ぇ……」と、言いながら私を睨んでいます……。

「馬鹿力で鼻ごと口を塞ぐでないわ戯け!!」
「す、すみません」

 必死に口止めしようとして、思いっきり手に力を込めてしまいました。今のシャウラさんはか弱い女の子ですから、私ちょっと酷い子でしたね……。

「全く、危うく核が停止しかけたぞ……」
「……核? 核とは何だ?」
「いや、こっちの話じゃ。女子の会話に無理やり混ざるでない」
「今の戯言に女がどうとか関係あるのか……?」
「陛下、シャウラは残念な子なんです。お察し頂ければ幸いです」
「そうか……」

 変な子を哀れむように見ているクラウスさん。隣でシャウラさんは「ち、違う、違うのじゃ!!」と必死に否定しています。

「エイル、貴様のせいで我がおかしな娘になってしまったでは無いか!! そこ、哀れむ様な目で見るでないわ!!」
「普通ではない点は間違っていませんが?」
「エイルよ、貴様はちょっと黙っておれ……。話が前に進まぬ……」

 エイルさん、何だかだんだんシャウラさんで遊ぶようになってきましたね……。頬に手を当てて微笑んでいて、楽しそうですし……。

「……この俺の前で漫談事とはな。妙な奴らと言う意味でもこの大陸の者では無い様だ」
「あの、私は普通だと思うのです」
「貴様が一番規格外のおかしな奴じゃろうが!!」

 シャウラさんのつっこみで、クラウスさんが初めて笑いました。こうして見ていますと多少冷たい感じはするものの、普通の青年のように見えます。

「何がおかしいのじゃ!?」
「いや、何もかもだが。兎に角、貴様らをどうすつもりか、という質問だったな」
「そ、そうじゃ。よもや……よそ者だから好き勝手に出来ると、このまま妙な真似をする気ではあるまいな!?」

 両手で自らの体を抱きしめつつ、何かを警戒するシャウラさん。何ですか、妙な真似って……。

「ガキに興味は無い。後四年後にもう一度言え。ではこれからの事についてだが」

 何故かがっかりしているシャウラさんは「これでも自信あるんじゃがな……」等と呟いていますが、良く解りませんので無視しておきます。

「何を目的としてこの大陸に来たのかはこの際聞かないで置いてやる。これでも人を見る目はあるつもりなのでな。貴様らは暫く、この大陸には滞在するつもりなのだろう?」
「はい、恐らく早々には元の大陸には帰れないと思いますので」
「なら話は早い。ミズキよ、魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムになるつもりは無いか?」
「……え?」

 唐突に思わぬ持ちかけをされ困惑する私。そ、それって帝国に士官する、という事ですよね? む、無理ですよそんな事……。

「無論、この大陸に居る間だけで構わん。先程も説明したが魔物の発生源が増えた事で、討伐任務が頻発していてな。その為、Sランクを相手にするには魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムだけでは手が足りない状況にある。この俺が直々に魔物共の相手をする機会も増えている程にな。今は少しでも強力な力を持つ者が欲しい。どうだ、頼めないか?」

 とても真面目な顔でクラウスさんが私を見つめています。冗談とかでは無く、この国はとても困った状況にあるようでした。魔物の特殊な発生はいつ何処で起きるか解らないのですから、百一人しか居ない魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムさん達だけでは、人手が足りないと言うのも頷けるお話しです。

 ですが、私達にも都合があります。この大陸の人々の為に、手助けしてあげたい気持ちは沢山沢山あるのですけれど……。元の大陸に戻る為の方法を探す時間は、恐らく殆ど作れなくなってしまうでしょう。

「クラウスよ。すまんがその要請は受けれんぞ。この大陸の事はこの大陸に住む者で解決するのが筋であろう?」

 私の気持ちを察したように、シャウラさんが代わりに断りを入れています。とても苦しい決断ですが、私もぐっと我慢します。

「滞在中は支配層と同等の待遇をくれてやる。加えてこの城の出入りを自由とし、討伐任務は人手が足りない場合のみで構わん」
「仕方が無いのぅ。ミズキよ、人助けと思って手を貸してやるがよい」
「……」

 シャウラさんがあっさりと手のひらを返しました。

 いえ、まぁ……私達の都合で動いてもいいと言う事でしたら話は別ですね。何より支配層の待遇であれば、元の大陸に戻る方法を探す上でとても楽になりますもの。私が魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムのお仕事をしている合間、エイルさんに不都合なく情報を集めて貰えますし。

「まぁ、そう言う事でしたら」
「引き受けてくれるか。貴様らにも事情がある所、無理を言ってすまないな」
「い、いえそんな! 此方の都合に合わせて頂けて、大変助かります」
「ちっ時間か。話すべき内容はまだあるにはあるが……そろそろ責務に戻らねばならん」

 クラウスさんは室内にある壁時計を一瞥しつつ、立ち上がりますと。それと同時に室内にノックの音が響き、メイドさんが美味しそうな紅茶等を乗せた銀色の手押し台車と共に入室して来ました。

「今日からここが貴様らの部屋だ。好きに使うがよい」
「あ、あの……はい」
「ミズキよ。丁度あすこの城へ上位の位階スペルムが各都市から定期報告で戻る事になっている。そこで貴様を引き合わすつもりだ。朝になったら迎えを寄越す」
「わ、解りました」

 そこまで言ったクラウスさんは深々と一礼をするメイドさんとすれ違うように部屋から退出していきました。そしてメイドさんがソファに座る私達に再び礼をしますと、美味しそうな紅茶とケーキやクッキー等がテーブルに並べられます。

「わぁ、この大陸もお茶とお菓子は同じなのですね」
「ふむ、これは美味そうじゃ」
「この紅茶はとても良い葉を使っている様です。私でも解らない種の茶葉ですが……」

 メイドさんが退出していくのを合図にお茶を楽しむ私達。とても有益で、それでいて不思議な謁見は嬉しさに満ちたお茶の時間と共に終了しました。

「さて、帝国に住む事になった訳じゃが、少し早まったような気もするの」

 ケーキを綺麗に一口大に切り取って淑やかに食べるシャウラさん。クラウスさんのご厚意を頂きましたけれども、それでも少々今後の事が気がかりな様子です。

「大丈夫でしょう。この瞬間より、私達は貴族のような立場ですから、出歩く上でとても助かります」

 紅茶の香りを楽しむエイルさんは、支配層の権限を有効に活用するつもりのようです。私達の中で一番好待遇の恩恵を受けるのはエイルさんかもしれませんね。

「それでは、やはりエイルさんは情報収集に?」
「はい、街に出て色々と聞き込みをするつもりです」
「エイルさんの聞き込みのお陰で、様々な知識を得られて本当に助かります」
「ミズキ、貴女が居てこそ私達はこの大陸で生きていけるのです。それぞれ役割と得意な事は違いますから。貴女も明日から頑張って下さい」
「はい!」

 そう言ってエイルさんが頭をなでて下さいます。なでなでは本当に気持ちいいのです~。

「では我は力が戻るまで、この部屋でのんびりとしておるかの」

 予想通りの予定を立てるシャウラさん。まぁ一応私は人質ですから、その予定に異を唱えるつもりは無いのですけれども。余計な事をされるよりよっぽとマシですので……。

 明日からは元の大陸に戻る方法をエイルさんが探し、魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムのお仕事を私がする事になります。引き受けたからには頑張りませんと。別の大陸であっても、人々が安心して暮らしていける様にしてあげたいですものね。
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