冒険者になった吸血少女の見る世界

澄雫

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4章

初めての位階(スペルム)

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「其方の御方は、シャウラ様で宜しかったでしょうか?」

 恐らく私達の事はクラウスさんから聞いているのだと思いますけれど、初めて会う相手を直ぐに見分けられるというのは、凄いと思うのです。私の後ろに居るシャウラさんはまぁ……私達の中で唯一支配層と思わしき身なりですから、解りやすいというのも理由にあるでしょうか。

「うむ。我がシャウラ、シャウラ・クリスティアナじゃ。我が下部、ミズキが今日から世話になる。しかし、魔道帝国・位階一位マスタースペルムとやらも大変じゃの。このような使い走りまでさせられておるとは」

 兵士さんがお迎えに来て下さるという予感はあったのですけれど、まさか全ての兵士さんの頂点とも言える魔道帝国・位階一位マスタースペルムさんが直々に来て下さるなんて。

「いえいえヤヨイが進んでしている事なのです。ヤヨイはまだまだ精進を必要とする身で御座いますので、お使いはむしろ大歓迎なんですよ」
「ヤヨイさんは真面目な方なのですね」
「またまたお褒め頂き、有難う御座います。ヤヨイ、これ以上褒められると照れてしまいます。お使いは位階スペルムを目指す立場であった頃からの日課ですので、お気になさらないで下さいませ!」

 腕をぶんぶんと振りながら、にこにこと話すヤヨイさん。清楚な印象の方ですけれど、それに合わせて元気で活発そうな面もあるようです。初見で判断してはいけない、という事でしょうか。

「入り口での立ち話も程々に。魔道帝国・位階一位マスタースペルムは既にお仕事の最中という事になりますから」
「あ、そ、そうですよね。御免なさい私ったら……」

 扉の前まで来たエイルさんに注意されましたので、ヤヨイさんにぺこりと頭を下げる私。

「いえいえ、構いません! あの、其方はエイル様で御座いますか?」
「はい、初めまして魔道帝国・位階一位マスタースペルム。改めて、私はエイルと申します。ミズキ共々宜しくお願いしますね」
「エイル様、ヤヨイで構いませんよ。此方こそ、改めて宜しくお願い申し上げますです」

 エイルさんの優雅な物腰のご挨拶に対し、ヤヨイさんは、可憐な物腰で深々と一礼をしています。

「ではヤヨイ。陛下がお待ちではないですか? ご挨拶も程々にして、直ぐにミズキを連れて行った方が宜しいかと。確か定期報告会が行われる予定だった筈です」
「あ、それにつきましてはご心配には及びません。陛下は南西にある帝国街で各区域の代表者と会議がありますので、本日ヤヨイ達とはお会いになりません。その代わりヤヨイが代表として定期報告会を開き、ミズキ様を位階スペルム上位の皆様にご紹介致しますから、その点はご安心下さいませ」
「そうでしたか。私も近い内に陛下のご予定はしっかり把握しておかないといけませんね」

 クラウスさんはどうやら多忙の様ですね。皇帝さんですもの、当然ではあるのですけれど。昨日お話しできた事は奇跡とも言うべき状況だったのかもしれませんね。本来でしたら、前持った謁見許可などが必要な筈ですもの。しかもお供もつけずに……。いえ、クラウスさんには必要ないのかもしれませんけれど。

 エイルさんはメイドさんに用意して頂いた小さめの本に何やら書き記しています。こうして見ていますと、本当にエイルさんは情報収集には余念が無い方なのですね、と感心してしまいます。

「ミズキ様は私と一緒に位階スペルムの詰め所へ向かいます。詰め所はお城の敷地内に建てられていますので、其方までご案内致しますね」
「は、はい宜しくお願いします」
「うむ。挨拶も済んだ所で、我は三度寝を満喫してくるかの」

 え、また寝るのですか……? たった今朝食を頂いたばかりでは無いですか。流石の私でも三度寝までは予想していませんでした。全くもう……。

「あ、その前に一つだけご質問が御座います」

 シャウラさんがベッドに歩いて行こうとした矢先、ヤヨイさんが呼び止めています。その声にシャウラさんが振り返り。

「む? なんじゃ」
「陛下からお受けしたご連絡では、ミズキ様はとても大きな魔力を持つと伺っております。確かにミズキ様でしたら、位階スペルムに数えられる程の大きい魔力を持っていますので、私も感激なのですが……。その、それでも辛うじて百一位に入れる見込みの魔力だと思われるのです。あ、ただ一般の兵士様方に比べれば大変大きい魔力を持つ事に違いありませんので! ただその……」
「ふむ……何が言いたいのじゃ」
「正直に申し上げます。陛下が仰る事にいつも間違いは御座いませんので、今ミズキ様から感じられる魔力は何かの間違いでは無いかと思うのです……」

 途中まで、私もヤヨイさんが何を言っているのかよく解りませんでしたけれけど、成程そういう事でしたか。そう言えば私、余計な面倒ごとを避ける為に謁見後から首飾りを身に付けていたのでした。

 夜にメイドさんがこのお部屋に来たのですけれど、その際私の魔力が突然小さくなった理由を聞かれました。私の魔力が急激に感じられなくなった事を不思議に思ったクラウスさんからのご命令で様子を見に来たそうです。ここでは魔力を抑えるような物は存在しておらず、そもそも魔力の高さがとても重要な国ですので、魔力を消す魔法具など以ての外な訳なのです。

「あぁ、そう言う事か。無論クラウスの言っておる事に間違いは無い。この大陸でミズキに敵う魔力の持ち主などおらぬ」
「そうなのですか!? あのあの、でしたらミズキ様の魔力は何故抑えられたように感じるのでしょう?」
「ほぉ、魔力が小さいではなく、抑えられているように感じる、と申すか」
「はい、そう感じております」

 凄いですね。魔力を消す効果のある魔法具に薄々気づいている様子です。いえ、どのような物かまでは流石に解らないと思いますけれど。何らかの方法で私の魔力が抑えられていると気づいただけでも凄いと思います。

「詳しい事は言えぬが、ミズキは魔力を大幅に抑える事が出来るのじゃ。こんな場所で常時馬鹿でかい魔力を開放し続けておったら、面倒ごとばかり増えるのは明白じゃからの。普段は魔力を人並みに抑えておる」
「す、凄いのですね。どのような方法で魔力を抑えていらっしゃるのか、ヤヨイ見当もつきません!」
「そういう事で、ミズキとは普通の娘として接してくれて構わぬ」
「シャウラさん……」

 普通の子としてだなんて……とっても嬉しい事を言って下さるシャウラさんに感激してしまいました。普通でいられるなら、それが一番なのです。

「そう言う事でしたらお任せ下さいませ。ヤヨイ、親身となってミズキ様をお助けします!」
「す、すみません。こんな不可解なお話を信じて下さって……」
「ミズキ様、私達は命を預け合う魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムで御座います。同士を信じるのは当然の事ですよ」

 ここまで言われて、今更別の大陸の事だからと切り捨てるなんて事出来ませんよね。勿論元の大陸に帰る方法は絶対に見つけます。それと同じくらい、魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムとして頑張りたいと、そう思うようになりました。

 --------

「あの、初めまして。クラウ……陛下のご命令により、この度位階スペルム百一位となりました、ミズキと申します。どうぞ、宜しくお願いいたします」

 ヤヨイさんに魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムが訓練や平時の際に詰め所として使用している建物まで案内して頂いた私は、位階スペルム上位者十名の前で挨拶をしました。

 皆様は丸い大きなテーブルを囲うように座って私を見ています。上位はとてもお年を召している方もいらっしゃれば、ヤヨイさんの様にお若い方もいらっしゃいます。男女の数は女性の方が一人多い様です。

「これはまた……。新たな魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムは随分と見目麗しい少女の様だな」
「ほ~。こりゃ、今年の帝国壮麗祭の人気位階スペルム投票は荒れそうだわ」
「えっとミズキちゃんって言ったっけ。宜しくねー」

 九位、八位、四位の方からお言葉を頂きましたので、再度一礼をします。私は一番最後の位階スペルムですから、粗相の無いようにしませんと。

「陛下のご命令の下、更新を待たずして位階スペルム入りした者がどんな者かと思えば。大して魔力を持たぬでは無いか。陛下は何をお考えでこの様な者を……」
「ザイル殿。陛下への無礼な物言い、とても寛容出来るものではありませぬな」
「貴女はおかしいとは思わぬのか。陛下のご命令の下で異例の位階スペルム交代があったにも関わらず、新たな魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムは大した魔力を持たぬ小娘ときている。しかも辛うじて百一位だぞ?」
「それに関してはこの私も腑に落ちぬ点ではあるが……。陛下なりのお考えがあるのだろう。強き者が増えるのはむしろ歓迎すべき事だ」

 十位と三位の方が私の不可解さに疑念を抱いている様子です。それだけ急な位階スペルム交代はおかしかったと言う事なのでしょう。

 私の魔力がぎりきり百一位というのが一番の問題のようですけれどもね。逆に言えばそれだけ魔力が抑えられているという事ですので、アクアリースの技術力はこの大陸に負けていないのです。と、自分の事の様に自慢気になる私。

「セリーヌ様の仰る通りで御座います。皆様、新たな同士が増えた事を喜ぶべきです。ミズキ様、ここにいらっしゃる上位は皆とても仲間思いのお優しい方々です。解らない事など御座いましたら、遠慮なく聞いて下さいませ!」
「はい、ヤヨイさん有難うございます」

 深々と一礼をしますと、皆様から拍手を頂いてしまいました。

「ミズキ殿には実際に魔道帝国・位階者ラグナ・スペルムの仕事ぶりを見てもらった方が良いだろう。丁度定期報告の後に帝国周辺の視察もあるからな」
「常に帝国周辺の魔物駆除を行っていますから、他の都市よりも比較的安全とは言え、位階スペルム中位者でも命を落とす危険なAランクが稀に現れます。新任早々にミズキ殿を怖がらせてしまい兼ねませんわね」
「我々上位が直々に出向くのだから問題は無い。普段は各都市に散らばる上位が一堂に会するのだ、過剰戦力と言って差し支えないだろう」

 五位の高齢の方の提案に七位の方が懸念を現しますと、三位の方が自信に満ちたように五位の方の後押しをしています。お話しから察しますと、私はこの後帝国の周辺視察について行く事になりそうですね。

「ヤヨイも特に問題は無いと思います。習うより慣れろ、という古くからの言い伝えが御座います。ミズキ様は視察へのご同行をお願いしますね」
「はい」
「本来、新人が周辺視察に同行するなどあり得ぬ事だ。魔物との遭遇があれば、しっかりと我々の戦いぶりを目に焼き付けておけ。それを糧に日々精進するように」

 私に一番疑念を抱いている十位の方にそう言われ、素直に「はい」と返事を返す私。帝国周辺には魔物が居ないとクラウスさんが仰っていましたけれど、それは普段から地道に魔物を討伐しているからなのですね。

 新たなお仕事を前にして、気を引き締め直します。視察の途中、退屈しない様に気を引き締めるだけですけれどもね……。
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