冒険者になった吸血少女の見る世界

澄雫

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4章

調査の開始

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 昼食後、魔道船に乗って東側の城壁の外へとやって来た私とヤヨイさん。昨日とは違う場所に行きたいと言う私のお願いで、お城から二番目に近い東側方面へと行く事を二人で決めました。

 東側は支配層が住むお屋敷が沢山建ち並ぶ区域ですので、城壁内外の警戒が特に厳しい方面でもあります。ラグナはとても広大な都市ですので、城壁内も兵士さんが常に巡回して治安維持に当たり、外側も小隊編成で見回りが常に行われているようです。

 前もった説明もなく突然ヤヨイさんが来訪した為、結界内から外側の監視任務に就いている東方担当の兵士さん達がとても驚き、慌てて敬礼していました。 

 ヤヨイさんが慌てている兵士さん達に「普段通りで結構です」と緊張を解く様に言いますけれど、無理でしょう。見た目の幼さ等で幾分か楽にしやすいとは言え、魔道帝国・位階一位マスタースペルムを前にして緊張しない訳がありませんもの。

 例えるならば、国家指定級が魔力全開の威圧状態で「楽にして下さい」と仰っているような物です。無理です。

「皆様、お勤めご苦労様です」
「はっ!! あ、あの、今回の視察は南側へ行かれたと報告を受けておりますが……」
「ええ、先日の視察は南へと参りました。そこで重大な問題が発生しておりますので、ここへ来たのはそれに関する独自調査です」
「重大な問題ですか? 我々にはそのような情報は下りてきておりませんが」
「直、正式な通達がありますが、ヤヨイ自ら伝えておきます。南側への視察中、位階スペルム上位が二名戦死しました。戦死者は五位並びに八位となります」
「……な!?」

 代表の兵士さんが驚きの声を上げますと、周囲の兵士さん達も一斉にどよめきます。

「バルク様とビッツ様が……ですか? そんな……バルク様は不落の将軍と謳われる歴代最長の位階スペルムであらせられる方で、ビッツ様も卓越した剣術を持った方なのに……」
「今はこれのみです。後は追って上官から報告があるでしょう」

 一番辛いのはヤヨイさんでしょうに……。上に立つ者としての立場に努めていますが、その姿がとても無理をしているのは私でも解ります。兵士さん達も察しているらしく、それ以上の事は何も言いませんでした。

「ヤヨイ達は結界の外に出ますが、お供は必要ありません」
「は、いえ、そ、そんな訳には……」
「構いません、調査はヤヨイ達だけでなければなりませんから」
「わ、解りました。ですが、今は第十小隊が北側街道周辺を巡回している時間ですが宜しいでしょうか?」
「そうですか。ミズキ様、如何致しますか?」
「ふぇ!?」

 急に質問をされた為、変な声を上げてしまいました……。兵士さんから訝し気に見られています。

「あの、ヤヨイ様。此方の方は……?」

 当然の様に私の存在を不思議に思われています。暫くの間はこの様な形が沢山あると思いますと、少々気が重いのです……。

「この方はミズキ様です。陛下自らのご指名で位階スペルム百一位となった方です」
「へ、陛下自ら!? 陛下は余程の事が無い限り、特別な扱いはなされない方の筈ですが……」
「ええ、ですから余程の事なのです。ヤヨイもミズキ様の事は一目置いているのですよ」
「そ、それ程の方なのですか……? にしては魔力は余り高いようには……」
「陛下の取り決めに不服ですか?」
「し、失礼致しました!!」

 慌てて敬礼をする兵士さんに少し哀れみを感じつつ。ヤヨイさんの質問に少し悩む私。結界の外を巡回している方達にも、ヤヨイさんがここに来ている事は解っている筈です。相当離れない限りは十分魔力を感じられるでしょうから。

 結界の外に出れば間違いなく小隊は私達に向かって来る事でしょう。ヤヨイさんが来ているのですもの、当然ですよね。異例の魔物がもしその状況で現れれば彼らは戦いに参加するでしょうし、ヤヨイさんの命令があっても聞かないかもしれません。

「あの、小隊の皆さんは何時頃お戻りになるのですか?」
「そろそろ交代の時間ですので、間もなく戻る筈です。何れにしてもヤヨイ様がいらしている以上、直ぐに戻る物と思われます」
「解りました。それでは小隊の皆様が戻ってから結界の外に出ましょうか」
「ヤヨイはそれで問題ありません。ではそれまで待機と致しましょう」

 私とヤヨイさんは城壁の外に設営されている仮設天幕へと案内され、会議用のテーブルでしばしの休憩を取ります。ヤヨイさんは直ぐに護衛の必要はありませんと兵士さんに伝え、遠のけました。

「二人でなければお話し出来ない事が多いですからね」
「有難うございます、ヤヨイさん」
「早速ですがミズキ様。まだヤヨイは異例調査をどの様な形で行うのか詳細をお聞きしていません」
「あ、そう言えばそうでした」

 すっかり話したつもりになっていました。異例の魔物が人為的だと仮定した場合、誰を狙っているのかをまだ話していませんでしたね。

「あの、異例の魔物は大分前から現れているようなのですが、翼竜と鎌の魔物については……私を狙って現れたのではないかと思っています」
「ミズキ様を、ですか?」
「はい、今は魔力を抑えていますので、私が狙われる様な点は無いとは思うのですけれども」
「では、どうしてミズキ様は狙われていると考えたのですか?」

 それは四位の方の考えと同じですね。位階スペルム上位者の皆様は私と出会うより以前から異例の魔物に襲われていてもおかしくないからです。

「先日の鎌の魔物ですが……あの魔物は位階スペルム上位者を襲う機会は幾らでもあった筈です。上位者さん達は普段それぞれ別々の所に居るのですから、襲うのであれば皆さんが離れている時を狙った方が良いと思うのです」
「成程……確かにヤヨイは鎌の魔物に襲われた事はありませんし、他の方も無い筈です。そもそも鎌の魔物との遭遇自体が初めての事でしたから」
「ですので……残る私が狙われている対象なのではないかと。それを確認する為に結界の外へ行こうと思っていました。特に作戦がある訳でも無く、漠然とした事で申し訳ないのですけれど」

 いつ何処で異例の魔物と遭遇するか、そもそも本当に私を狙っているのかも判りませんので手探りの状態なのです。他にこれと言って良い案がある訳でも無く、他の方に相談しても百一位である私のお話はろくに聞いては貰えないでしょう。

「そういう事でしたか。でしたら、ますますヤヨイはミズキ様の手助けをせねばなりません。真っ直ぐ向かって切る。こんなに簡単な調査方法は他にありません」
「……」

 いえ、まぁ確かにそう……なのでしょうか。私はここですよ、と自分を餌に異例の魔物を誘き寄せて、出て来た所を叩く訳ですからね……。簡単なお仕事の様な気もしてきました。けれど……。

「それはバルクさんとビッツさんの犠牲の上に成り立つ方法です。今後、魔物は最大限の警戒を持って当るべきです」
「はい、ヤヨイ……絶対に許しません。異例の魔物の発生源を必ず突き止めてぶっ潰しますから」

 ヤヨイさんの言葉が荒むと同時に凄まじい殺気を感じました。仇を討つと決めた事で、抑えていた怒りが溢れ出た様です。

 そんな折に、ヤヨイさんが席を立ち天幕の外の様子を伺いますと。

「小隊の帰りが遅い気がします」
「言われてみますと……戻っていてもおかしくない程度には時間が経っている気がします」

 結界の外を見据えても、兵士さんが戻ってくる様子はありません。遠くにいる兵士さん達も何やら結界の境に集まっているようです。

「どうしたんでしょう?」
「妙ですね、ヤヨイ達も行ってみましょう」
「解りました」

 微妙に嫌な予感がします。私はまだ結界から外に出ていませんから、他の方に被害は無いと思うのですが……。
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