冒険者になった吸血少女の見る世界

澄雫

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5章

クラスS

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 実技訓練を見学となった私とヤヨイさんは、授業後に数人の先生方の先導の下、クラスCからAまでが使用する建物から離れ、クラスS専用の建物へと案内されました。出会ったばかりのクラスの皆様から行かないでとせがまれ、とても心苦しい気持ちの中クラスC-7とお別れをして参りました。

 大きなお胸の先生はその後の授業もありますし、私達が別のクラスへ移動となる事を皆様へ説明しなければなりませんのでその場に残るそうです。「短い間だったけど、先生二人の事はずっとずっと大事な教え子だと思ってるからねぇー」と白いハンカチで涙を拭いながら見送って下さいました。

 少し変な先生でしたけれど、授業はとても解りやすくて、クラスの皆様をとても大事に思って下さっていると感じました。時間が取れた際にはクラスCまで会いに来ますね、と私から約束をしています。

 別館へと移動中、これから新たに学ぶ事になるクラスSについて、先生方から幾つかのご説明を頂きました。

 先ず、クラスSは初等部と中等部の学生が同じ建物で学んでいるそうです。SはクラスCからAまでと違い、ほんの一握りの才能の塊である優秀な学生達が集いますので、それ程人数は多くないそうなのです。

 今年のクラスSは初等部が二十八人、中等部が二十二人のみだそうで、四十人前後が学ぶクラスが約12クラスに別れているCとは人数差が顕著に表れています。

 そしてクラスSに在籍する学生の殆どが支配層の子で、一般の子は数人程しかいらっしゃらないそうです。ここもクラスCとは真逆ですね。その理由としては、支配層の子は親から優れた才能を受け継いでいますので、何世代にも渡って大きな魔力を有している為らしいのです。

 逆に一般の子は突発的に大きな魔力を持って生まれる為、クラスSに在籍できる程の魔力を持つ者はどうしても数が少なくなる傾向にあります。その代わり学院でしっかりと学び、将来魔道炉に携わるお仕事に就く事が出来れば、支配層になれる程の富を得られる場合も少なくない様ですね。

 一通りの説明を受けた私とヤヨイさんは、クラスSの建物へと案内された後、館内にある支配層専用のカフェで待機する様に言われました。既に授業中の様ですし、突然のクラス変更への対応もしなければなりませんものね。

 館内は支配層の子が普段利用されている事もあるのでしょう。通路は赤い絨毯で統一されていて、カフェにあるテーブル一つ一つにも細かな装飾があしらえてあり、特別製だと一目で解ります。学院側もこの辺りは支配層の方々に気を使っている様子です。

「何だか、見慣れた景色に戻ってしまいました……」

 カフェのテーブル席に座るヤヨイさんが館内を見回しながら呟きました。先程までの楽しそうな雰囲気とは逆に、今はどこかつまらなそうにしています。

「ヤヨイさんは普段からこうしたお屋敷の様な建物で働いていたりしますものね」
「はい、ヤヨイはクラスCのままで良かったです……」

 加えてヤヨイさんは支配層の身分ですから、無邪気な一般の子達に混ざって学ぶ事も初めての経験だったでしょうし。囲まれたりするのが苦手でしたけれど、C-7の皆様はとても良い子で私も好ましく思いました。

「あ、それよりも。先程は御免なさい」

 ぺこり、と頭を下げるヤヨイさん。何かありましたでしょうか? 特に謝られる様な事はしていないと思うのですけれども。

「あの、何がでしょう?」
「ヤヨイ、ミズキ様の魔力総量を誤ってしまいました。ヤヨイの持つ刀であれば問題なく適性試験を終えられると思ったのですが、まさか暴発を招くなんて……」
「あ、その事でしたか」

 ヤヨイさんは私が魔力を抑えている事を知っていますけれど、本来の魔力はまだ知りませんものね。むしろ、つい刀を渡された勢いで魔力を反応させた私の方が悪いのです。

「結局、ミズキ様の魔道武器適正は保留扱いとなってしまいました。本当に御免なさい」
「あの、全然気にしておりませんので、そこまで気に病む必要はありませんよ?」

 よしよし、とヤヨイさんの頭をなでる私。私の適性試験はヤヨイさんの刀でも行う事が出来ず、これ以上の魔力総量を持つ魔道武器は存在していないそうですので、一先ず保留となったのです。これ以上の魔道武器が存在しないのに保留となっている理由としては。

「それに、学院都市がクラ、陛下に掛け合って私の魔道武器を作って下さるそうですし」
「はい、それを聞いてヤヨイとっても興奮してしまって! 一体どのような魔道武器になるのか全く見当がつかないのです」

 私が扱うという事であれば、恐らくとても大きい魔力結晶が必要となるのでしょう。ヤヨイさんも言っておりましたけれど、余りに大きい魔力結晶を備えた武器なんて重すぎて使いづらいでしょうし、本末転倒だと思うのですけれども。

 ただ、魔道武器の適性試験を行わないままでは卒院認定を受け取れないそうですので、魔道武器の形状はこの際二の次なのでしょう。それに適性試験は学院都市その物が定めた決まり事との事ですから、仕方ないですね。

「私の魔道武器を用意して下さるのはいいのですけれど、費用等は大丈夫なのでしょうか」
「ヤヨイの刀を作って頂いた時は、確か都市が一つ作れる程度の費用でした」
「……は?」

 今、ヤヨイさんが何かとんでもない事をさらりと言いました。聞き間違いである可能性が高いですので、再度聞いてみる事にします。

「あの、今何て言いました?」
「はい、ヤヨイの刀は都市一つと等価だと言いました」
「……」

 ええと、ヤヨイさんの刀が都市一つ分の価値という事でしたら。私の魔道武器は一体どうなってしまうのでしょうか。そんな高価な代物を学生一人の為だけに用意するのですか? いえ、そこはそれでも決まり事が優先されると言う事で無理やり納得も出来ますが。問題はそこでは無く……。

 私はこの大陸の者ではありませんので、後々魔道武器を作る為の費用を全て無駄にしてしまう可能性が非常に高いのです。とっても気まずい気持ちになってきました……。

「可愛らしいお嬢さん方。お待たせして申し訳ない」

 急に席の後ろから声がかかり、其方へと振り返りますと。書類を片手に持った金髪の男性が立っていました。片目にモノクルを付けており、博識ある印象を感じさせています。

「ええと、ミズキ君とヤヨイ君だったね。私はクラスSを担当するレイモンドだ。この度、君達を受け持つ事になった。宜しく頼むよ」

 先生だと解り、すぐさま立ち上がって一礼をします。私はスカートの裾を摘まみ、ヤヨイさんはお辞儀です。

「学院長から君達の適性試験について聞かされた時は驚いたよ。でもまぁ、ヤヨイ君からは学院の何処に居ても解る程の大きい魔力を感じるから、特別な魔道武器が必要という事も頷けるかな」
「そのせいでC-7の先生を混乱させてしまって、ちゃんとヤヨイが最初に説明すべきでした」
「いや、君のせいではないよ。魔力が高いと解っていたにも関わらず、クラスCへと在籍させた学院長が悪い。まぁ、実力を実際に見ない内は解らない事もあるから仕方ないけどね」

 レイモンド先生は「じゃあクラスへ移動しようか」と私達に言って先導する様に二階へと上がってゆきます。後ろを着いて行く私達に向けて先生は「この建物については既に他の先生から教わっているだろうけど」と前置きをして。

「二階に我々初等部のクラスSがあり、三階は中等部のクラスSが使用している。休息時間等は良く一緒になってカフェで語らっているから、クラスS同士とても仲が良い」
「それはとても良い事ですね」
「先生としては嬉しい限りだが、やはり支配層の子ばかりだからね。家同士の繋がりを意識した交流をしている。君達も気を付けた方がいい。見目麗しいご令嬢となれば、支配層のご子息達に目を付けられるだろう」
「ヤヨイ、そう言うのはちょっと……。お付き合いする殿方はヤヨイよりも強い方だと決めてますので」

 ヤヨイさんより強い男性って、この大陸に存在するのでしょうか、という疑問は一先ず置いておきまして。私もお付き合いの事とかはご遠慮したい所です。勿論素敵な男性とお話し出来て悪い気はしませんけれども、そういった事は母様と一緒に安心して過ごせる様になってからだと思うのです。

「その様子だと、君達のお眼鏡に叶うご子息は居なさそうだね。……と、さぁここがクラスSが使用している教室だ。ちょっとここで待っててくれ」

 二階の丁度真ん中のお部屋がクラスSとなっている様です。レイモンド先生はここで持つように私達に言いますと、扉を開け中へと入って行きます。

 中の会話を聞いておりますと、授業に一区切りがあったようで、その合間に私達を迎えに来たようでした。休息時間よりも皆様が揃っている授業中の方がご挨拶が一度で済みますものね。

「ミズキ君、ヤヨイ君。待たせたね、さぁ入って来てくれ」

 先生の合図でクラスに入りますと、室内の作りはC-7よりも少し間延びしている印象を受けました。クラスSは人数が少ない事もあって、座っている皆様の所々が空いている為でしょう。C-7は私達二人分しか空いていませんでしたからね。

 クラスCの時と同じ様にご挨拶をしようと教壇の前まで移動した所で。

「ミズキ!!」

 信じられない声が私の名前を呼びました。扇状に段差を上げた一番奥の席。その端に一人で座っている女の子。そこには居たのは……。

「え……クリスティア、さん……?」

 見間違える筈もありません。立ち上がって嬉しそうに私を見ている少女はクリスティアさん本人でした。
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