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5章
姿見鏡
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【青の間】
扉の先は台座のある部屋と同程度の広さの部屋みたいね。
周囲は暗いと言えば暗いけど、ミズファがツバキにライトウィスプを付けてくれたから、私も別に視界は悪く無い。
察知魔法を使って見た所、部屋の中には誰もいない。けど何かが「いる」、間違いないわ。
「学長殿、正面の壁に何かあるようじゃ」
ツバキの言葉に正面の壁を見てみると、姿見鏡があるわね。体全体を映せる程度に大きいやつね。
「宝石が付いておる故、鏡の古代魔法具かの?」
「ミズファの探し物ってもしかしてこれ……?」
そう思った私は鏡に近づいたけど。
直ぐにまっとうな代物じゃないと判断。
「……ツバキ、術式組んで置きなさいよ」
「心得ておる。どうやら、この鏡はミズファの望む物とは別物のようじゃの」
鏡は特におかしな箇所は無い。けれどこんな場所に鏡があるんだから、誰だって怪しむのは当然ね。私とツバキは慎重に鏡に近づき、自分達が映る程度の所で止まる。
「明らかに面妖な鏡じゃが……何も起きぬな。いっそ壊してみるかの」
そして、ツバキが更に鏡に近づいた瞬間、鏡の中のツバキが「動いた」。
「ツバキ、離れて!」
「……!?」
鏡の中のツバキを警戒して間合いを取ると、信じられない事が起きたわ。
「中から、妾が出てきよった……」
「ちっ、私のもいるわね」
見た感じ、私達と瓜二つ。
けど、目に正気が無い。まるで死人のように。
「面妖な……。 このような魔法具は初めて見る」
「古代魔法具は私達の理解を超えているから、今更ね」
「まぁよい。ならば妾自身のお手並み拝見と行こうかの」
ツバキが術式を組む仕草をすると、鏡のツバキも同じ速さ、同じ仕草で、ツバキと同じ術式を組み始めた。それはまさに鏡に映った自分を見ているように。
二人のツバキは同時に術式を組み終えると同時に、魔法を展開。足元が凍りだし、道を凍結させながら、相手に向かって冷気の塊が走ってゆく。
二人の中間で冷気がぶつかり合い、相殺し合って消えた。
「こやつ……能力までも妾と瓜二つじゃ!」
「と、なると……」
私は鏡の私に目を向けた。鏡の私も此方を見てる、虚ろな目で。
「私と同じ能力って事は、特殊能力のぶつかり合いって訳ね」
「厄介じゃの」
「けど、向こうから仕掛けてくる気は無いようね、なめてるわ。根競べのつもりな訳?」
気に入らないわね。
私は護身用のナイフで自分の指を少し切ってみる。鏡の私も同じように切るけど、血は出ていない。この分だと恐らく、痛みも感じてないわ。最悪の場合、鏡の私達は魔力が無尽蔵の可能性も十分にある。
「ツバキ、長引くと不利よ。相手が自分と同じ行動をするなら、それを上回ればいい。勿論やれるわよね?」
「無論じゃ。自身に屈服するなど、ご免被る」
「けど、危険だと判断したら私に近づいてきなさい、解った?」
「心得た」
お互い邪魔にならないように自分自身と一対一になれる位置まで離れる。
虚ろな目で此方を見つめ、身じろぎ一つしない鏡の私。いい加減イライラしてきた。
「さて……じゃあ始めるわよ、鏡の私!」
------------------
【赤の間】
鏡から出てきたこの私と同じ姿の何か。
私が何もしなければ何もせず立っているだけ。けれど、鏡の私には意思も感じないし、生気も無いわね。
一度攻撃を試した結果、全ての動作、力量は同等という事は解っているわ。
この私の現身の存在など、決して許されない。同等だと言うのなら、鏡の私を上回る力でねじ伏せればいい。
「ミルリア、ちょっと来なさい」
「はい、プリシラ様」
私は近づいてきたプリシラを強く抱き寄せて。
「……あ、プリシラ、様?」
「貴女の血、少し頂くわよ」
私は返事も聞かず、無理やり首筋に口を付けた。
「あ、あの……私、あん!!プリシラ、……様ぁ……」
口に広がるとても上質な乙女の血。私の中で力へと変換されて行くのが解る。
それと同時に、ミルリアが大粒の涙を流し出した。
理由は解っているわ……。
「貴女、既に血を……。今はこんな状況だから、どうか我慢して頂戴。その代わり、あとでいくらでも私を恨んでくれて構わない、償いもするわ」
すると彼女はふるふると首を振り。
「……いいえ、私は大丈夫、です。急な事でしたので……泣いてしまいました、けど」
「有難う……少しだけ待っていて。貴女のくれた力で、一瞬で決着をつけるから」
鏡の私も、鏡のミルリアを相手に同じ動作をしていたようだけれど。
血を得る事もせず、ただ嚙みついただけ。鏡同士のその行為には、なんの意味も成していない。
「ミルリア、私に抱き着いていて」
「仰せの、ままに……プリシラ、様」
私は鏡どもに向けて両手をかざす。
鏡も私に対して両手をかざす。
「消えなさい、まがい物。そして身の程を知りなさい。たかが作り物の分際で、この私と同等の力を持つなど、許した覚えはないわ」
赤い魔法陣が私を回る。
鏡の私も赤い魔方陣が回る。
「血術異界の赤き拳銃」
「血術異界の赤……」
血を得ていた私が鏡を上回る速さで異界武器を生成し、歪んだ空間から幾つもの赤い銃が出現する。
すぐ様、けたたましい音と共に鏡共が全身を撃ち抜かれ消滅した。
以前、この私を一方的に殺せる可能性がある異界技術をミズファが教えてくれたわ。予想通り、この世界では作成不可能な武器だった。
けれど、血術を扱う私なら再現が可能よ。血と知識さえあれば、「ミサイル」と呼ばれる物だってこの世界に作り出せる筈だわ。
「プリシラ、様。鏡に何も映らなく……なりました。お見事、です」
「貴女の血が私を火照らせたからよ。貴女が許してくれるなら、もう少しだけ……続きをしたいわ」
私に抱き着いていたミルリアの腰に手を回す。
彼女は私に身を委ねているのが解る。
「私は身も心も……主様の物、です。けれど……プリシラ様が、私を望まれるなら、喜んで」
「ふふ、それでいいわ。可愛い子ね」
優しく抱きしめ返し、私は再度ミルリアの首筋へと口をつけた。
-----------------
【白の間】
「レイシアちゃん、具合はどう?」
「有難うございます、講師。もう大丈夫です」
鏡の私達を倒した後、怪我を講師に治して頂いていました。
私もまだまだ未熟者ですね。
講師と私の姿をした何か。それが鏡の中から出現した後、私達はこれこそが超えるべき試練だと悟り、初めは一対一の形で自分との戦いを始めました。
やはり、力は互角でした。
ですが、相手はどれだけ傷ついても怯む事無く、痛みを感じてもいないようです。この差が徐々に蓄積し、私が追い詰められていきました。
何もしなければ相手も攻撃をしない事、これだけは利点であったので、講師と協力をするべきだと判断しました。やがて作戦を決めた私達は動き出します。
講師が術式を組みあげる中、私は鏡の私へと走っていきます。鏡の私も此方へと走ってきました。
そして鏡の私と交差するようにすれ違うと、そのまま私は鏡の講師へと走ってゆきます。
それに合わせて講師の「重ね焔」が組みあがると、沢山の炎が出現します。
勿論、鏡の講師も「重ね焔」が組みあがるのですが、出現した炎は浮遊する「場所」が違うのです。
講師曰く、展開した炎は自分の周囲の何処に出現するか解らないそうです。
鏡の講師は「同じ能力を単純に使う」だけであり、炎の出現場所まで正確に写し取る事は出来ないようでした。そこが付け入る隙です。
講師の作り出した炎は、鏡の講師よりも手前に炎が出現し、先に鏡の私に向けて炎が反応しました。無防備に走っているだけの鏡の私は炎に包まれ消滅しました。
後は鏡の講師を二人同時に攻撃するだけで終了しましたが、講師に向かって放たれた炎を代わりに引き受けたので、私が怪我を負ってしまった、という訳です。
「不可解な点は写せない弱点がある以上、他の皆も余裕だろうねぇ」
「そうですね。ほかの場所にいる方々も、大変な力を持っておりますし、実力で鏡の上を行く事も出来そうですね」
「その点ではレイシアちゃん、まだまだ経験不足かなぁ」
「ええ。今後も精進していくつもりです。講師、これからも宜しくお願いいたしますね」
「まぁ、ミズファちゃんと出会った中では古株同士だからねぇ。こっちも宜しくね」
講師から手を差し伸べられた私は、微笑みながらその手を取り、立ち上がりました。
さぁ、ミズファの所へ戻りましょう。きっと睡眠をとっている頃でしょうから、その……寝顔を早く見たいですし。
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補足書き
白の間の「重ね焔」は自動追尾形式の魔法になっています。鏡側もそれは同じです。
詳しくはhttp://www.alphapolis.co.jp/content/sentence/305292/「償い」をご覧ください。
扉の先は台座のある部屋と同程度の広さの部屋みたいね。
周囲は暗いと言えば暗いけど、ミズファがツバキにライトウィスプを付けてくれたから、私も別に視界は悪く無い。
察知魔法を使って見た所、部屋の中には誰もいない。けど何かが「いる」、間違いないわ。
「学長殿、正面の壁に何かあるようじゃ」
ツバキの言葉に正面の壁を見てみると、姿見鏡があるわね。体全体を映せる程度に大きいやつね。
「宝石が付いておる故、鏡の古代魔法具かの?」
「ミズファの探し物ってもしかしてこれ……?」
そう思った私は鏡に近づいたけど。
直ぐにまっとうな代物じゃないと判断。
「……ツバキ、術式組んで置きなさいよ」
「心得ておる。どうやら、この鏡はミズファの望む物とは別物のようじゃの」
鏡は特におかしな箇所は無い。けれどこんな場所に鏡があるんだから、誰だって怪しむのは当然ね。私とツバキは慎重に鏡に近づき、自分達が映る程度の所で止まる。
「明らかに面妖な鏡じゃが……何も起きぬな。いっそ壊してみるかの」
そして、ツバキが更に鏡に近づいた瞬間、鏡の中のツバキが「動いた」。
「ツバキ、離れて!」
「……!?」
鏡の中のツバキを警戒して間合いを取ると、信じられない事が起きたわ。
「中から、妾が出てきよった……」
「ちっ、私のもいるわね」
見た感じ、私達と瓜二つ。
けど、目に正気が無い。まるで死人のように。
「面妖な……。 このような魔法具は初めて見る」
「古代魔法具は私達の理解を超えているから、今更ね」
「まぁよい。ならば妾自身のお手並み拝見と行こうかの」
ツバキが術式を組む仕草をすると、鏡のツバキも同じ速さ、同じ仕草で、ツバキと同じ術式を組み始めた。それはまさに鏡に映った自分を見ているように。
二人のツバキは同時に術式を組み終えると同時に、魔法を展開。足元が凍りだし、道を凍結させながら、相手に向かって冷気の塊が走ってゆく。
二人の中間で冷気がぶつかり合い、相殺し合って消えた。
「こやつ……能力までも妾と瓜二つじゃ!」
「と、なると……」
私は鏡の私に目を向けた。鏡の私も此方を見てる、虚ろな目で。
「私と同じ能力って事は、特殊能力のぶつかり合いって訳ね」
「厄介じゃの」
「けど、向こうから仕掛けてくる気は無いようね、なめてるわ。根競べのつもりな訳?」
気に入らないわね。
私は護身用のナイフで自分の指を少し切ってみる。鏡の私も同じように切るけど、血は出ていない。この分だと恐らく、痛みも感じてないわ。最悪の場合、鏡の私達は魔力が無尽蔵の可能性も十分にある。
「ツバキ、長引くと不利よ。相手が自分と同じ行動をするなら、それを上回ればいい。勿論やれるわよね?」
「無論じゃ。自身に屈服するなど、ご免被る」
「けど、危険だと判断したら私に近づいてきなさい、解った?」
「心得た」
お互い邪魔にならないように自分自身と一対一になれる位置まで離れる。
虚ろな目で此方を見つめ、身じろぎ一つしない鏡の私。いい加減イライラしてきた。
「さて……じゃあ始めるわよ、鏡の私!」
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【赤の間】
鏡から出てきたこの私と同じ姿の何か。
私が何もしなければ何もせず立っているだけ。けれど、鏡の私には意思も感じないし、生気も無いわね。
一度攻撃を試した結果、全ての動作、力量は同等という事は解っているわ。
この私の現身の存在など、決して許されない。同等だと言うのなら、鏡の私を上回る力でねじ伏せればいい。
「ミルリア、ちょっと来なさい」
「はい、プリシラ様」
私は近づいてきたプリシラを強く抱き寄せて。
「……あ、プリシラ、様?」
「貴女の血、少し頂くわよ」
私は返事も聞かず、無理やり首筋に口を付けた。
「あ、あの……私、あん!!プリシラ、……様ぁ……」
口に広がるとても上質な乙女の血。私の中で力へと変換されて行くのが解る。
それと同時に、ミルリアが大粒の涙を流し出した。
理由は解っているわ……。
「貴女、既に血を……。今はこんな状況だから、どうか我慢して頂戴。その代わり、あとでいくらでも私を恨んでくれて構わない、償いもするわ」
すると彼女はふるふると首を振り。
「……いいえ、私は大丈夫、です。急な事でしたので……泣いてしまいました、けど」
「有難う……少しだけ待っていて。貴女のくれた力で、一瞬で決着をつけるから」
鏡の私も、鏡のミルリアを相手に同じ動作をしていたようだけれど。
血を得る事もせず、ただ嚙みついただけ。鏡同士のその行為には、なんの意味も成していない。
「ミルリア、私に抱き着いていて」
「仰せの、ままに……プリシラ、様」
私は鏡どもに向けて両手をかざす。
鏡も私に対して両手をかざす。
「消えなさい、まがい物。そして身の程を知りなさい。たかが作り物の分際で、この私と同等の力を持つなど、許した覚えはないわ」
赤い魔法陣が私を回る。
鏡の私も赤い魔方陣が回る。
「血術異界の赤き拳銃」
「血術異界の赤……」
血を得ていた私が鏡を上回る速さで異界武器を生成し、歪んだ空間から幾つもの赤い銃が出現する。
すぐ様、けたたましい音と共に鏡共が全身を撃ち抜かれ消滅した。
以前、この私を一方的に殺せる可能性がある異界技術をミズファが教えてくれたわ。予想通り、この世界では作成不可能な武器だった。
けれど、血術を扱う私なら再現が可能よ。血と知識さえあれば、「ミサイル」と呼ばれる物だってこの世界に作り出せる筈だわ。
「プリシラ、様。鏡に何も映らなく……なりました。お見事、です」
「貴女の血が私を火照らせたからよ。貴女が許してくれるなら、もう少しだけ……続きをしたいわ」
私に抱き着いていたミルリアの腰に手を回す。
彼女は私に身を委ねているのが解る。
「私は身も心も……主様の物、です。けれど……プリシラ様が、私を望まれるなら、喜んで」
「ふふ、それでいいわ。可愛い子ね」
優しく抱きしめ返し、私は再度ミルリアの首筋へと口をつけた。
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【白の間】
「レイシアちゃん、具合はどう?」
「有難うございます、講師。もう大丈夫です」
鏡の私達を倒した後、怪我を講師に治して頂いていました。
私もまだまだ未熟者ですね。
講師と私の姿をした何か。それが鏡の中から出現した後、私達はこれこそが超えるべき試練だと悟り、初めは一対一の形で自分との戦いを始めました。
やはり、力は互角でした。
ですが、相手はどれだけ傷ついても怯む事無く、痛みを感じてもいないようです。この差が徐々に蓄積し、私が追い詰められていきました。
何もしなければ相手も攻撃をしない事、これだけは利点であったので、講師と協力をするべきだと判断しました。やがて作戦を決めた私達は動き出します。
講師が術式を組みあげる中、私は鏡の私へと走っていきます。鏡の私も此方へと走ってきました。
そして鏡の私と交差するようにすれ違うと、そのまま私は鏡の講師へと走ってゆきます。
それに合わせて講師の「重ね焔」が組みあがると、沢山の炎が出現します。
勿論、鏡の講師も「重ね焔」が組みあがるのですが、出現した炎は浮遊する「場所」が違うのです。
講師曰く、展開した炎は自分の周囲の何処に出現するか解らないそうです。
鏡の講師は「同じ能力を単純に使う」だけであり、炎の出現場所まで正確に写し取る事は出来ないようでした。そこが付け入る隙です。
講師の作り出した炎は、鏡の講師よりも手前に炎が出現し、先に鏡の私に向けて炎が反応しました。無防備に走っているだけの鏡の私は炎に包まれ消滅しました。
後は鏡の講師を二人同時に攻撃するだけで終了しましたが、講師に向かって放たれた炎を代わりに引き受けたので、私が怪我を負ってしまった、という訳です。
「不可解な点は写せない弱点がある以上、他の皆も余裕だろうねぇ」
「そうですね。ほかの場所にいる方々も、大変な力を持っておりますし、実力で鏡の上を行く事も出来そうですね」
「その点ではレイシアちゃん、まだまだ経験不足かなぁ」
「ええ。今後も精進していくつもりです。講師、これからも宜しくお願いいたしますね」
「まぁ、ミズファちゃんと出会った中では古株同士だからねぇ。こっちも宜しくね」
講師から手を差し伸べられた私は、微笑みながらその手を取り、立ち上がりました。
さぁ、ミズファの所へ戻りましょう。きっと睡眠をとっている頃でしょうから、その……寝顔を早く見たいですし。
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補足書き
白の間の「重ね焔」は自動追尾形式の魔法になっています。鏡側もそれは同じです。
詳しくはhttp://www.alphapolis.co.jp/content/sentence/305292/「償い」をご覧ください。
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