異世界行っても怠惰を貫く。

産屋敷 九十九

文字の大きさ
35 / 52

解放で開放。ガルシア、次は貴様の番だ!

しおりを挟む
『嘘泣き(仮)』の発動準備をするために、私は歯をグッと噛み締め、欠伸をする。

歯を噛み締めたのは、魔王に欠伸を悟られないようにするため、そして欠伸を噛み殺すためだ。

欠伸をするたびに、頰がプクプク動いてしまう。

両頬が動いているのが、どうか魔王に伝わりませんように。


頼む、見逃してくれぇ………。


欠伸を13回繰り返し、ようやく視界が涙で歪んできた。

普通だったら、5回くらい欠伸すれば涙が出てくるはずだが、私の場合、ドライアイなのかなかなか目が潤ってこない。

13回も噛み殺すのを繰り返したら、流石に顎が痛くなってきたよ。

まぁいい、これで準備ができたわけだ。

次は表情作りだな。

表情は『はちへー法』に限るぜ。

まず眉毛を八の字にして、口をへの字、目を細め、ぎゅっと瞑る。

ポロリと大粒の涙が両目からこぼれ落ちる。

最後に、泣き出すまいと声を押し殺す風にゴクリとやや大袈裟に唾を飲み込んだ。

瞬間、魔王は目を丸くし、つり上がった眉を下げ、はぁっと息を吐いた。

そして、魔王は鷲掴みにしていた手を緩めながら、私を下ろし床に立たせた。

「すまんな……おまえは力を持たぬ人間だというのに、少々やりすぎてしまった」

私はうつむき、無言で首を横に振る。

ふっ………決まったぜ。

見たか! 私の女優魂(仮)を!

「訳を聞こうともせず、本当にすまなかったな。ここで何をやらかしたのか教えてくれるか?」

魔王は私の頭を撫でながらそう言った。

………『私が』やらかしたというのが前提なのか。

まぁいい。

ガルシア、貴様が魔王に裁かれる時が来たぞ!


フハハハハハハハハハハ!


内心、ガルシアがどの様に裁かれるのかを想像し、クスリと笑い、袖で涙を拭った。

「わかった。実はな」

とすぐに本題入った私に魔王が『え?』とハテナマークを貼り付けたような顔でこちらを見てきた。

ピクリと引きつりそうな顔を必死でこらえた。

や、ヤバイ!

泣き顔から一瞬にして真顔になって話し始めたから、流石にバレたか?

魔王の手から解放され、心も開放的な気持ちになりすぎたか?

ここで動じたらさっきの努力が水の泡、気にせず話すとしよう。

「実はな──────」

私は、客間が崩壊するまでの経緯を話した。

異世界から来たことや元いた世界に戻るために自衛できるくらいの魔法を身につけ戻る手段を探しに出たいということ。

そのために、ローレンス図書館へ行って古の魔書を借りに行ったこと。

そして、

「魔書を開いたとこまでは良かったんだが、さっぱり読めんくてな。だからガルシアに読み上げてもらって、呪文を唱えることにしたんだ。そしたらこうなった」

「ガルシア、おまえだったか………」

「よくもお嬢様をこんな危険にさらして………陛下の側近とあろう者が聞いて呆れますね。あなたもここにいたというのに、陛下に何の説明もせず、お嬢様に全ての罪を着せて。自分は何も知らないというふうな顔をして……」

ギロリと二人がガルシアにトゲトゲしい視線をぶつけた。

ガルシアの勇ましいプレートアーマー(全身の鎧)がカタカタと情けない音を立てている。

フッ、決まったぜ。

ガルシアよ、次はおまえが痛い目に遭う番だぞ。




私はリーナと魔王の背後で、にやりと細く笑んだのだった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...