付き人に恋した没落子爵令嬢は髪を売る

空田かや

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21 アエルに別れを告げた訳

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リリアージュの顔が赤くなった。
つい、かっとなって嫉妬にまみれた発言をしてしまった自分が情けなくなる……。
気まずさを押し殺し、顔をあげると、アエルが真剣な瞳で自分を見ていた。

この先、自分の本当の気持ちをアエルに伝えるチャンスなど、もう来ないかもしれない……。

リリアージュはごまかすのをやめた。

「私は、卒業後レオルドと結婚はしない…。まずは、お金を稼いであなたに返したいの…。少なくとも出してくれた学費分は。だから王宮医か騎士になって…」

それを聞き、驚いた様子でアエルは言った。

「払った学費は、私が好きで出したお金…返さなくていい…。王宮医ならまだしも、なぜ危険がつきまとう騎士に?!それぐらいなら、頼むからレオルドと結婚して公爵夫人に納まってくれないか?」

今度はリリアージュが驚いた。
「──レオルドと結婚してほしいわけ?」

「何を言っているんだ?2年前レオルドのプロポーズを受けると言ったのは、リリアージュだろ?私を愛していないと…。先ほど、廊下でキスしているのも見たし…」

リリアージュは目を伏せてぼそりと言った。
「レオルドとは卒業までっていう約束で付き合ってるの。あなたが死罪になりそうな時のカモフラージュにもなると思ったし。それに…唇は許してない」

「…唇?リリアージュ…あなたは何を言って…なぜ私が死罪に……」

「アエルに別れを告げた時、私は15歳の子どもに手を出した大人は死罪だと思っていたの…」

アエルの瞳が、大きく揺らぐ。

「…だから…それで……。皆まで言わせないで…察してよ…」

リリアージュはそう言うと、アエルの手を力一杯ふりほどいた。

「ただ…今更、アエルとお姫様の仲を裂こうなんて思ってない。二人を祝福できる。お金は貯まったら返すから…その時は受け取って…」

リリアージュは、その場から急いで歩き出した。

「──私は姫と、結婚の約束などしていない。姫はいつもそんな事を言っているが、私にその気はない。…察してくれるか?」

ピタリと歩みを止めたリリアージュは、ゆっくりと振り向いた。
振り向いた先のアエルは、昔リリアージュを見守ってくれていた時と同じ笑顔だった。

「これを…!私も自分のブレスレットは姫から取り返しておくから……」
アエルはそう言うとリリアージュに向かって、ブレスレットを投げた。

リリアージュは投げられたブレスレットを、慌てて受け取る。

「……投げないで。大切にしてたの」

リリアージュは、涙を滲ませて笑った。

「アエル…ひどい事を言った私を、怒ってない?卒業したらまたあなたに会いに来ても……いい?」

「怒ってなどいない…。待っている」

そう言ってアエルは優しくほほえんだ。

リリアージュは2年ぶりに顔いっぱいで笑うと、アエルから離れられなくなる前に嬉しくて緩んでしまう顔を両手で押さえながら、馬車が待つ裏口へと走って行った……。



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