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32 盗人
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リリアージュは最後の出勤日も無事に仕事を終える事ができ、安堵のため息をつく。
夜勤の近衛騎士との引継ぎも終わり、剣を王宮の武器格納庫に返却しに行くところだった。
その時、王宮の廊下から侍女の叫び声が響いた。
「盗人よ!部屋に忍び込んでいたわ!誰か捕まえて!!」
──物取りか…とリリアージュは思った。
見れば、小柄な男がこちらに走って来ていた。
遠目には、まだ年端もいかぬ少年に見えた……。
リリアージュは、剣を取り出すまでもないと思い柄にかけた手を引いた。
そして、急いでその少年に向かって走り、取り押さえるとすぐにやって来た捕縛係に引き渡す。
近くで見ると、少年は幼いわけではなくリリアージュと大差のない年齢に見えたが、年若い事に変わりはなかった。
捕縛係は、新人研修の時に一緒だった顔見知りのギルだった。
ギルは、リリアージュと分かると縄で男を縛りながら言った。
「お前、結婚して辞めるんだってな!おめでとう!」
「ありがとう…!」
二人とも、新人研修では一番優秀なペアだった。
リリアージュはギルと別れると、足取りも軽くアエルとの今夜の約束を思い出していた。
明日からアエルは、アイリス姫のお輿入れに付き添うためにタタン国へ向かう。
それがアエルの付き人としての最後の仕事だった。
1ヶ月は会えなくなるから、今夜会おうと約束していた。
つい顔が緩み、赤くなる……。
「……リリアージュ!すまん!逃がした!!」
突然、後ろからギルの声が響いた。
二人とも、能力は高かったが経験値は低く油断があった…。
リリアージュは自分の甘い夢想のせいで、気配に気が付くのが遅れた。
男は忍ばせた小刀を振り上げ、リリアージュに襲い掛かった。
一瞬の判断が遅れたせいでよけるのが遅くなり、リリアージュの左頬にギラついた熱いものが触れた…。
リリアージュは反射的に鞘から剣を抜き、男の背中を柄頭で打ち付ける。
そして、床に倒れかかった男の首の急所に手刀を振り下ろした。
まともにリリアージュの手刀をくらった男は気絶した。
倒れた男からは、血まみれの金貨が転がり落ちた。
王族の印の入った書類などが懐に無造作に押し込められているのも見える。
「……血がついている…。他にも誰かやられているかも…急いで近衛隊長に知らせて余罪を調べて…」
リリアージュは頬を押さえながらギルに言った。
「リリアージュ!感謝する!怪我は?」
ギルは男から目を離さずに、今度こそしっかりと縄で男を締め上げながら手錠をかけた。
「……私は、怪我は…していない。もう退職だからこのまま失礼する…後はよろしく…ギル」
「ああ、すまん。助かったよ、リリアージュ」
ギルは、走り去るリリアージュの背中にお礼を言った。
夜勤の近衛騎士との引継ぎも終わり、剣を王宮の武器格納庫に返却しに行くところだった。
その時、王宮の廊下から侍女の叫び声が響いた。
「盗人よ!部屋に忍び込んでいたわ!誰か捕まえて!!」
──物取りか…とリリアージュは思った。
見れば、小柄な男がこちらに走って来ていた。
遠目には、まだ年端もいかぬ少年に見えた……。
リリアージュは、剣を取り出すまでもないと思い柄にかけた手を引いた。
そして、急いでその少年に向かって走り、取り押さえるとすぐにやって来た捕縛係に引き渡す。
近くで見ると、少年は幼いわけではなくリリアージュと大差のない年齢に見えたが、年若い事に変わりはなかった。
捕縛係は、新人研修の時に一緒だった顔見知りのギルだった。
ギルは、リリアージュと分かると縄で男を縛りながら言った。
「お前、結婚して辞めるんだってな!おめでとう!」
「ありがとう…!」
二人とも、新人研修では一番優秀なペアだった。
リリアージュはギルと別れると、足取りも軽くアエルとの今夜の約束を思い出していた。
明日からアエルは、アイリス姫のお輿入れに付き添うためにタタン国へ向かう。
それがアエルの付き人としての最後の仕事だった。
1ヶ月は会えなくなるから、今夜会おうと約束していた。
つい顔が緩み、赤くなる……。
「……リリアージュ!すまん!逃がした!!」
突然、後ろからギルの声が響いた。
二人とも、能力は高かったが経験値は低く油断があった…。
リリアージュは自分の甘い夢想のせいで、気配に気が付くのが遅れた。
男は忍ばせた小刀を振り上げ、リリアージュに襲い掛かった。
一瞬の判断が遅れたせいでよけるのが遅くなり、リリアージュの左頬にギラついた熱いものが触れた…。
リリアージュは反射的に鞘から剣を抜き、男の背中を柄頭で打ち付ける。
そして、床に倒れかかった男の首の急所に手刀を振り下ろした。
まともにリリアージュの手刀をくらった男は気絶した。
倒れた男からは、血まみれの金貨が転がり落ちた。
王族の印の入った書類などが懐に無造作に押し込められているのも見える。
「……血がついている…。他にも誰かやられているかも…急いで近衛隊長に知らせて余罪を調べて…」
リリアージュは頬を押さえながらギルに言った。
「リリアージュ!感謝する!怪我は?」
ギルは男から目を離さずに、今度こそしっかりと縄で男を締め上げながら手錠をかけた。
「……私は、怪我は…していない。もう退職だからこのまま失礼する…後はよろしく…ギル」
「ああ、すまん。助かったよ、リリアージュ」
ギルは、走り去るリリアージュの背中にお礼を言った。
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