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1、ベッドの上で

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 鞠川まりかわ春姫はるひめは俺の幼なじみだ。
 家がすぐ隣で、親同士も仲が良い。子どもの時は毎日のように遊んだ。

「テッちゃん」

 春姫がベッドで寝転ぶ俺に声をかける。

 彼女は俺のことを昔から「テッちゃん」と呼ぶ。佐良ささら哲学てつがくという、いささか堅苦しい名前より、春姫はあだ名で呼ぶことを好む。

「テッちゃん、数学の宿題終わった?」

「いや、まだ」

「明日までだよ。ちゃんと終わらせないと。また成績下がっちゃうよ」

「良いよ。適当に式だけ書いておけば、合格点はもらえるし」

「それじゃあ、だめだよー。綱渡りじゃん……。ただでさえ出席日数ギリギリなのに」

 心配そうに春姫が言う。俺は何も言わず目を閉じる。

 今、春姫は俺の部屋にいる。
 広いとは言えない部屋には机とベッドと、丸いちゃぶ台が置かれている。あまりものは置かない主義なので、「相変わらず殺風景だね」と春姫は来るたびに言う。

「ねぇ、テッちゃん」

 春姫が再び俺の名前を呼ぶ。

 一向に起きない俺に、彼女が「むぅ」と小さく声を、もらして、立ち上がるのが分かった。

「起きて、起きて。一緒に宿題やろうよ」

「めんどい。だるい」

「もう、サボり屋さんなんだから」

 ペシペシとほおを叩かれる。

 仕方なく目を開ける。

 春姫は俺の上にまたがっていた。 

 春姫は学校の制服を着ている。先週、衣替えしたばかりの夏服。

 丹念にシワが伸ばされたワイシャツは、まぶしいくらいに白くて目に痛い。長く伸ばした黒い髪が、俺の肌をくすぐる。下着が透けて見えそうで、俺はさっと目をそらした。

「眠いの?」

「やる気がないだけ」

「じゃあ……」

 春姫のスカートがするりと、ベッドのシーツに擦れるのが分かる。すぐ近くで彼女の体温が動くのが分かる。

「春姫」

 手を伸ばす。春姫の細い背中に手を回すと、彼女は何も言わずに身体の力を抜いた。

「テッちゃん」

 ジッとこっちを見る視線を、直視することができず、俺はいつもの通り、薄っぺらい毛布を手に取った。

 茶色いテディベアのマークがついた小学生の頃から使っている毛布。それを優しく、春姫の背中にかける。

 視界が暗闇に包まれる。

「……あっ」

 伸ばした手が春姫に触れる。彼女が小さな声を漏らす。

 それから、俺と春姫は色あせた毛布の中でセックスごっこを始める。
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