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15時限目 女子部屋
しおりを挟むシャワーを浴び終えたリリアは、タオルで身体を拭いて淡い青色のパジャマに着替えた。丁寧に髪を乾かしながら、廊下を歩いていると、角を歩いてきたダンテと鉢合わせた。
「あ」
「お」
ダンテはなぜか木のカゴを抱えていた。どこで入手してきたか分からない赤い木の実が、そのカゴいっぱいに入っていた。ジッとそれを見ながら、リリアは不思議そうに首をかしげた。
「なにそれ」
「あぁ、裏の林で取れたやつだ。缶詰ばかりだと、栄養が偏るからな。どうだお前も食うか」
「うーん、いらない。ていうか、それちゃんとアク抜きしないと、渋くて食べられないよ」
「なにっ」
「私たちの部屋に干してある奴があるから、あげようか」
「……助かる」
申し訳なさそうに礼をしたダンテを引き連れて、リリアは「こっち」と二階へと繋がる階段を指差した。トントンと階段を上っていた彼女は、踊り場まで差し掛かると、突然立ち止まった。
「どうした」
「……ちゃんと、お礼言っていなかったから」
「お礼? なんのだ」
「今日のこと。暗示をかけてくれたってシオンから聞いた。おかげでブラムの奴を見返すことができた」
「あぁ、そのことか」
ダンテはフッと笑みをこぼすと「一応教師だからな」言った。
「どうだった見返した感想は?」
「……あんまり実感ないかな。戦った気がしないし、いつの間にか相手もへばってたし……」
「そりゃそうだな。あの時のお前は避けることだけに集中してたから。戦ってるんじゃなくて、踊っていたようなもんだ」
ダンテの言葉にリリアは「むぅ」と口を尖らせた。彼女の長い髪の先から水滴がぽとりと床に落ちた。
「ねぇ」
「なんだ」
「私、今度はちゃんとあいつに勝ちたい。剣士として、あいつを負かしてみたい」
「だから暗示はかけないで欲しい?」
「うん」
「上等だ」
窓から差し込む月明かりに照らされたリリアは、今までにないほど強い意志のある瞳でダンテのことを見ていた。最初にあった時とは違う、しっかりとした覚悟のある瞳が揺れていた。
(ブラムと戦ったことで、闘争心が湧いたか)
ダンテは昼間にエーリヒがブラムを煽ったことの意味を、少しだけ理解した。互いに競わせることによって、彼女たちは確かに成長するだろう。本気で争うことで、より苛烈に精神が鍛え上げられることをエーリヒは理解している。
「先生、どうしたの?」
考え込んで、押し黙ったダンテをリリアが覗き込んだ。
「顔色悪いよ」
「いや……今後の教員生活を憂いていた。体育会系はやることが恐ろしいな」
「……? 変なの。あ、それよりピグの実か」
ダンテが抱えるバスケットに視線を落としたリリアは、本来の目的を思い出して、自分たちの部屋へと歩き始めた。廊下を曲がると、明かりの漏れる扉の前で立ち止まった。
「ここが女子部屋か」
「うん、二階の壁をぶち抜いて部屋に改築したの。ミミー、マキネスー、先生入るよー」
引き戸を開けると、そこにはすでに教室の面影はなかった。黒板や壁などは完全に撤去されていて、ベッド、ソファ、テーブル、そしてパチパチと音を立てて燃える暖炉が置かれていた。
「信じられん……俺の部屋よりよくできてる」
感嘆するダンテに、リリアは誇らしげに「一週間かけて改築したんだ」と腰に手を当てた。
暖炉のそばで本を読んでいたマキネスが顔をあげた就寝前だからか、彼女はメガネを外していた。ダンテの顔を見ると、彼女はぽうっと顔を赤くした。
「……先生……どうされたんですか……? 夜這いですか……?」
「そんなわけないだろ」
「ニャ。トランプしに来たニャ?」
カーペットの上でゴロゴロしていたミミが、目を輝かせて箱の名からトランプカードを出した。
「違うわよ。先生、ピグの実をそのまま食べようとしていたから、止めたの。マキネス、この前干したやつまだ余ってたでしょ?」
「……そういうこと。あるよ、こっち」
本をたたむと、マキネスはソファの横にあったタンスから、麻の袋を取り出した。めがねをかけて袋の中身を確かめると、ダンテに手渡した。
「……はい、これがピグの実……甘くておいしいですよ」
「おう、さんきゅー」
「……一口どうぞ」
マキネスに手渡された袋から、実を取り出して口に放り込む。柔らかい実を一口噛むと、ダンテの舌に信じられないほどの衝撃が走った。
「ぐっ!」
「……どうですか……?」
口の中が焼けたように熱い。両手をあげて悶絶したダンテは、口の中のものを吐き出した。
「辛い! なんだこれ! めちゃくちゃ辛いぞ!」
「……ふふ、先生ったらかわいい……」
「これがピグの実か!?」
「……うそです。それはただの唐辛子。本当はこっち……」
「お前なぁ」
続いて差し出された赤い実を、ダンテはおそるおそる飲み込んだ。さきっちょの方を噛んでみたが、さっきのような衝撃はない。今度は正真正銘のピグの実だった。
ダンテは口の中で何度もそれを咀嚼してみた。
「さっきの辛さで舌がしびれて、味が分からない」
「……ふふ、先生ったらかわいい……」
「一体何が目的なんだ……」
「マキネスなりの好意ニャ。それよりトランプはしないニャ?」
「明日の授業の準備があるから無理だ」
「リリアは?」
「私もパスー。今日は疲れた」
「ニャア……」
肩を落としたミミに、マキネスが振り返って言った。
「……ミミ、私やるよ……」
「本当かニャ!」
「その代わり負けたら、唐辛子食べてね」
「゛ニャ!?」
「私のターン。2/3の速攻でミミに攻撃」
「これはトランプじゃないニャ……」
「早くドローして」
「ニャあ……」
「……あまり夜更かしするなよ」
楽しげな女子部屋を後にして、ダンテは扉を閉めた。窓から入ってきた冷たい風でしびれた舌を冷やした。
開催まで数ヶ月と迫っている学校対抗戦。その後には模擬試験も予定されている。クラス『ナッツ』の正念場はまだこれからだった。
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