乙女ゲーム短編集

karu

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モブは端にいたいのです。

きらきらとかがやくもの

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先の見えない闇の中を恐々と進んでいく。
果たしてここはどこなのか。
あの騒がしく、楽しい広場はどこなのか。
まったくもって着く気配がない。

前でぎゅっと握っている両手に力を込める。
もう会えないのかな。やさしいお兄ちゃんや元気な妹とは...
でも、一生帰れないとしても心配しないでほしいと思う。
未来を生きぬくことを考えてほしい。

ううぅ。もう無理。

変わる気配のない全く同じ景色の真っ直ぐな一本道。
歩き疲れた私は現実を信じたくなくてその場に座り込んだ。
そして履き古した靴を見つめる。

「あぁ。もう動きたくないなあ。」
もう諦めてもいいかもしれない。
頑張ることはつらいもの。
もう、いっか。

...でも...もう、兄妹と会えないということだよね。

ぽたっ

一粒の雫が目から零れ落ちた。

「あぁ。いやだなぁ。もっとしっかり生きればよかった。」
「しぬ」ということを考えていると、様々な思い出が走馬灯のように蘇ってくる。
楽しいことやかなしいことだって私の人生をいろどってくれる。
両親からのあいじょうとか生まれとかかんきょうとかさいのうとか、関係ない。
そのことにもっと早くに気付いていれば...!

もっと。私の人生を、生きることを、いきたかった。

涙が次々と流れていく。

うん、そうだよね。

だいじな人たちと、会いたい。

私は立ち上がる。
こうかいしては、ダメ。
もう少し、がんばろう。

それがきっと、その少しがきっと、増えていって『たくさん』になるはずだから。

進む。私は、暗闇の中をさっきよりも少し早い歩調で進む。
ずんずんと周りの景色が変わっていく。
今は、真っ暗闇なこの道も少しあかるく見えた。
そしてついに、開けた少し広い場所へ出た。

「やったー。」
と、思わず声を上げる。

でも、目の前の光景を目にした瞬間、一気に絶望へと落とされる。
先ほどまでの少し強くなれた気持ちは一瞬でどこかへ飛んで行った。
開けた場所に、さっきのおじさんと数人の男がにやにやと立っていたからだ。
六歳の私から見ても明らかに有害なことは分かった。
おじさんが先にここへきているということは私に嘘をついたということだから。

そういえば、私は行き先を言って
それなのに、おじさんは道を......。

大人の男数人。
ただそれだけで恐怖を感じる。

もうダメだ。今度こそ無理だ。

すると、おじさんが話しかけてくる。
「おう、嬢ちゃん、また会ったな。」
ニコニコしておじさんは話しかけてくるけれどもう信じることは無理だ。

周りの仲間が私を見て品定めをするかのようにジロジロと見られる。

「これはすごいな。高値で売れそうだ。」
その男の言葉を聞いた瞬間私は頭が真っ白になった。

売られる...?

...何も考えられない。

なぜ、あのおじさんの言葉にしたがってしまったんだろうとか、

なぜ、この開けた場所にいわかんを感じなかったんだろうとか。

そんな後悔が頭をかけめぐる。

でも、そんなことも体が感じる本能的な恐怖に考えられなくなる。

「じゃあ、とりあえず捕まえようか。」
にやりと不気味に笑ったおじさんが人当たりの良い笑顔で近づいてくる。
「こわくないよー。こっちへおいで。」
逃げなければならないのに体が思うように動かない。
おじさんは私を捕まえるためであろう大きな袋を手に持ち、私の方へと近づいてくる。

トコ。

トコ。

トコ。

ズン。

ズン。
ズン。

そしてついに、目の前まで来てこう言った。
「ほら、こちらへおいで。いい子だから。」
ゆっくりとおじさんの手が近づいてくる。

私はもう、恐怖で声も出なかった。

そしてこの瞬間に気付いたのだ。


人生では、どうしようもなく、理不尽で、諦めるしかないという現実があるのだと。

それは、辛くもなく、悲しいとも感じない。

ただただ、目の前に広がるのは絶望。


いよいよおじさんの大きな袋を持っている手が小さな小動物を捕まえるときのように素早く動いた。

私はどうしようもなく怖くて、目をぎゅっと閉じた。

しばらくして、何も私の肌に触れていないことに気が付いた。
そして、前に人が立ちふさがったのも。

「な、なにものだ!」
おじさんが声を張り上げた。
それはもう怒号に近かった。

「あなた方に名乗る名は持ち合わせておりません。」
いきなりこの場に似つかわしくない子供の高い声が聞こえてきてとてもびっくりした。

ただただ、淡々と、新しく現れた第三人物が話す。
私は何が起きたのか確認するためにおそるおそる目を開いた。


誰かが、私を庇うかのように前に立っている。


そこには、きらきらとかがやくものがいた。
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