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白いゼラニウム
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しおりを挟むしんむが来て10日目。
すっかり春めいてきた。
「足の傷もマシになって来たねぇ、そろそろリハビリ始めようなぁ。」
「よかった!」
「ほんとに何だろうねぇ、バケモノだよ。」
松谷は呆れたように息を吐く。
そして腰に刺した水筒を取り出して、飲みしだく。
「ウイスキー?」
「焼酎、ロックだよ。」
しんむと梨紅乃は、目を見合わせて呆れたように笑う。
「…君ら、お似合いだねぇ。」
「なっ⁉︎」
梨紅乃は顔を真っ赤にして、頬に手を当てる。
しんむは柔らかく口角を上げる。
梨紅乃ちゃんにも春が来たかぁーなどと言いながら、クルクル回る松谷。
梨紅乃はもう!と悪態をつきながら、部屋を出て行った。
ーー
「梨紅乃って、何年生?」
「2年、ハタチだよ。」
白桃の缶詰にクイクイと缶切りを入れながら、そういう。
「しんむは?」
「うーん」
「なにー、どうしたの…」
顔を上げると、しんむは苦笑いしていた。
…この顔知ってる。
本当にわからない時の顔だ。
「ま、年齢なんてどうでも良いけどね。」
梨紅乃は、缶詰のシロップを大きめのマグカップに移すと、飲む?としんむに差し出す。
しんむは苦笑いして、いらないと手を振る。
…この苦笑いは、さっきとは違う冗談の苦笑いだ。
いらないかぁと、カップをサイドデスクに置くと、桃を皿にあけてフォークを添える。
「はい、出来たよ。」
「缶詰開けただけだろ?」
「ごめんねー、りんごとか剥くの遅くてぬるまっちゃうから。あんまり器用じゃないの。」
そう言って梨紅乃がしたのは、照れ隠しの苦笑い。
しんむは渡された桃を受け取ると、ありがとう受け取った。
フォークを刺して持ち上げると、桃半分の大きさのそれは重さに負けて、皿へ戻る。
「…もう少し小さくとか出来ないのか。」
「ごめんねー、包丁借りてくるの面倒で。」
「お前なぁ…」
しんむが次の言葉を発する前に、梨紅乃のポケットから着信音が鳴る。
ごめんねと一言告げて、確認する。
梨紅乃は若干真剣な眼差しになって、すぐに戻った。
「ごめんね、今日はもう帰らないと!」
そう言って、騒がしく準備をすると、病室のドアに手をかける。
「あ、お皿そのまんまでいいよ!松谷にやらせる。」
そう言ってまたね!と去っていった。
「…。」
突然静かになった白い部屋には、ほのかにゼラニウムの香りが残っていた。
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