旅姫〜でも異世界からは帰りたい！！〜

成人式

1

ーー


鳥はさえずり、花は天を仰いで笑う。

遠くで聞こえる挨拶の声。


マリュース共和国は、今日も平和だ。


ーー

「おはようございます、レンオン皇女様。」

いつも通りの野太い声で挨拶すると、仰々しく一例する。


「おはよう、閣下。」
「本日はいつもに増して麗しゅうございますな。」
「ありがとう。」


真っ白な肌に、透き通る様な黒い髪。
濃紺のドレスに、金色のレースが良く映える。

長いまつ毛が、真っ白い肌に影を作っている。


「このおめでたい日に、皇女様に1番の挨拶を申し上げられるとは、このレイモンド最上の幸せにございます。」
「大袈裟ね。」

思わずふふっと笑うと、レイモンド閣下はまた深々と一礼した。


「さぁ閣下、今日は？」


そう尋ねると、レイモンド閣下は顔を上げて、手帳を取り出した。


「申し上げます。本日は…」

レイモンドの言葉を片耳に、私は窓の外を見つめた。


私は20歳になった。
今日は、私の誕生祭である。

「…以上でございます。」
「ありがとう。」
「それでは参りましょう、国王陛下が聖堂にてお待ちです。」
「そうね。」


私は、部屋から出た。


ーー


「おはようございます、国王陛下。おはようございます、皇后陛下。」

挨拶をして一礼すると、両陛下…こと、私の両親は柔かに挨拶を返してくれる。

「レンオン、成人おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「座りなさい。」
「失礼します。」

私が席についたと同時に、もう1人入ってくる。

「おはようございます、国王陛下。おはようございます皇后陛下、皇女殿下。」

私の弟であり、マリュース国の皇子である、マリュース＝ウィンタソンである。

「おはよう、ウィンタソン。」
「おはようございます。」


そういうと、ウィンは私の方に向き直る。

「皇女殿下、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。」


形式的な挨拶を一通り済ませると、国王陛下…お父様はフッと表情を緩めた。


「あぁ、レンオン。誕生日ほんとうにおめでとう！」
「ありがとうございます。」

お父様の目にはほのかに涙が浮いている。

「陛下も年毎に涙もろくなって…。」
「お前はよくもまぁ平然と…」

お母様が嫌味の様にそう言うのを、お父様は呆れた様に返す。
政略結婚でありながら、本当に仲の良い2人である。

このように毎朝、私達は同じ食卓で朝食をとる。
これがマリュース国の平和の象徴であると、お父様は常々仰る。

実際私もそう感じるし、そう言うものだと思って生きてきた。