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雨宮神社

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ーー

さわさわと水の音。
時折、ピチャンッという水滴の落ちる音。

…頬に冷たく固い感触。

体はまったく動かない。



「…あぁなんて、なんて愚かなんだろう。」


声の主を探そうと、薄目を開く。
…水のカーテンを挟んで向かい側に、人の姿が見える。

何かに顔を伏せるようにして、泣いているようだった。

声をかけようにも、体は動かない。
私はそのまま、その姿に目を凝らした。


10歳程度の子どもの様だった。
金色の、異常に長い髪を三つ編みにしている。
顔は伏せっていて分からない。

ふわっとしたボトムのズボンに、異様に大きな靴。
胸元には、甲冑さながらの胸当てをしている。


…しばらくすると、その子が立ち上がる。

こちらに向かってくるのを感じ、私は咄嗟に目を瞑った。


「…どうしよっかなぁ。」

その子のものらしき手が、私の額に触れる。
あたたかい。


「…第14時間軸かぁ。じゃあ、Aのところで良いか。」


よく分からない事を呟く。
手が離れるのを感じて、また薄目を開けると、既にそこに少年はいなかった。


ーー


視界に入るのは、木目の天井。
手をついたのは、真っ白い布。

体を起こすと、そこは見たことのない建物だった。


「こ、こは…」

周りを見渡すと、右隣にリーネの姿があった。

「り、リーネ⁉︎」

揺すって起こすと、ううんと微睡んだ声を出して、目を擦るリーネ。

次の瞬間、あからさまに驚いた顔に変わる。



「こ、ここ皇女様⁉︎ご無事で…」
「リーネ、背中は…」


そこまで言って初めて思い出す。

そうだ、私たちは儀式の途中で反乱軍に…。

しかし、リーネの制服は破れてこそいれど、傷はなかった。

「あぁぁ、皇女様のお美しい髪がこんなに乱れて…」


ワナワナ震えるリーネを他所に、私は改めて辺りを見渡した。

ベッド…というには、かなり貧相な布。
見たことのない作りの、大きなチェストが2つ。
やけに角ばった飾り気のないテーブルに、膝も曲がらなそうなソファ。

窓には木の枝を紐で括った様な、よくわからない物がぶら下がっている。


「と、とりあえずここから出ないと…」

私は立ち上がって、扉…と思わしきものの前に向かう。

「ちょ、リーネ!この扉ノブがないわ!」
「え、ほ、本当です。もしや皇女様を閉じ込めるため…」

リーネが言い切る前に、その扉と思わしき物が横にスライドしていく。

「これはふすまといって、横にスライドして開けるんだ。」


そう言って私を見下ろすのは、神官と同じような服を着た…


目を見張るほど、美しい男性だった。

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