羅刹伝 雪華

こうた

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第十九章-顕現せし夢想-

第115話「羅刹VS能力者」

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「さて。そろそろ能力者を探しますか」
 ゲームセンターを後にした沙菜と穂高は、再び町中を歩き回ることにした。
 もっとも、穂高は戦力外であるが。
 途中穂高が『おなか空いちゃった』と言い出したので、コンビニで買い物もしつつ歩いていくと、特殊な能力の気配に気付いた。
 徐々に近づいてくる。沙菜が霊気を周りに放出しているので、羅刹の存在に気付いたのだろう。
「超能力者って奴ですね?」
 目の前まで来た短髪の少年に確認する。
「そういうお前は羅刹って奴だな。人間を喰うっていう」
 少年はやはり羅刹イコール喰人種と認識しているようだ。
 だが、沙菜は話し合いで信用してもらおうなどとは考えていない。
「別に私は喰いませんが、自分で言っても信じないでしょう? 場所を移しましょうか。相手してやりますよ」
 そこまで人通りは多くないが、それでも何人か周囲に人はいる。
 巻き添えで死人が出ても沙菜が心を痛めるほどのことではないが、一応は巻き込まないように配慮してやることにした。

 人のいない路地裏の空き地に移動した沙菜たち。
 こちらを喰人種と思っている以上は、向こうも戦う気でいるだろう。
「如月沙菜です。そちらの名前も聞いておきましょうか。超能力者協会とやり取りする時に必要になるかもしれません」
相坂あいさか健二けんじ。羅刹が協会と何の話をするんだ?」
「それは面倒なので説明しません。――さて、あなたは羅刹から人間を守るために私と戦う。そういうことでいいんですね?」
「それもあるがな。それだけじゃねえ。てめえら羅刹を倒せば倒すほど俺の中にある力は強くなっていく」
 健二の言ったことはおそらく正しい。
 羅刹の霊力にしても、異世界に存在する魔力などにしても、大抵の力はそれを使って強敵を倒すほどに強まる性質を持っている。
 超能力も似たようなものだろう。
「この能力を極めてのし上がれば、金も女も権力も全部思いのままだ! てめえが人を喰おうが喰うまいが関係ねえ。倒させてもらうぜ」
 沙菜が感じ取っている健二の能力強度はせいぜい五から六ぐらい。ずいぶん大それた野望を持ったものだ。
「女を金や権力と並べるのは感心しませんね。――まるで女にだけ金銭的価値があるかのように聞こえますよ?」
 挑発的な笑みを浮かべながら、沙菜は抜刀した。
 とりあえず倒してしまえば、羅刹と喰人種についての誤解を解くことも、野望を潰えさせることもできる。
 高島は敵を石化させる能力を持っていたが、能力は個々人で違うはず。
 ひとまず、この相坂健二という少年が持つ能力を見せてもらおうと、相手の出方をうかがうことにした。
「いくぜ!」
 健二の手からいきなり剣が出現する。
(剣を生み出す能力か? さすがにそれだけではないか)
 健二の持つ剣からは電撃が発生し、沙菜に向けて放たれた。
 沙菜は、それを流身で飛び上がってかわす。
 どうやら剣で電撃を操る超能力のようだが、雷斗の使う電撃を見てきた沙菜からすれば、その威力は哀れなものだった。
「ただの電撃ですか? 奥の手があるなら早く出した方が身のためですよ」
「無駄口叩いてる余裕があるか? 次は当てるぜ!」
 健二が再び剣を振るうと、今度は先ほどの倍ぐらいの速度で電撃が撃ち出された。
 空中で静止した状態の沙菜は、攻撃をかわそうとはせず、朧月の刃を電撃に向けた。
「――!?」
 自分の放った電撃が刀身に吸収される様を見て健二は目を見開いた。
「なんだよ、それ……」
「『霊子吸収』。敵の攻撃を無力化して吸収し、自分の力に変える能力です。つまりいくら電撃を撃っても無駄ということですね」
 勝ち誇ったように見下ろしてくる沙菜に対し、健二は苦々しそうな表情をする。
 おそらく彼は飛行能力は持っていない。遠距離攻撃として電撃を放てば朧月に吸収される。刀に触れないように、接近して沙菜の身体を直接斬りつけようにも近づく手段がない。
 健二は早々に打つ手がなくなってしまった。
「もぐもぐ」
「――!?」
 空き地の中にあるもう一つの気配に気付いて振り向く健二。
 視線の先には、積み上げられた鉄材の上に座ってコンビニのおにぎりを食べている穂高の姿が。
「何してんだ……?」
「おひる食べてるの」
「…………」
「おにぎりっていうんだよ」
「知っとるわ! さも俺がおにぎり知らんみたいに言うな!」
 思わずつっこみを入れる健二だが、穂高からも当然羅刹の気配がするのだから、沙菜の仲間であることは予想がつくはず。人質にしようと動くかと思いきや。
 健二はそのまま沙菜の方に向き直った。
「穂高さんを狙わなくていいんですか?」
「あっちを狙ってる間に、お前に背中を斬られるのはごめんなんでな」
「英断ですね。もしあなたが穂高さんの方に向かっていれば、予想の通り斬らせてもらうつもりでしたよ」
 つもりだった、ということは今は違うということだ。
 親友を攻撃しなかったせめてもの礼として、沙菜は撃ち出す霊気から斬撃属性を抜いて刀を振った。
「くっ……!」
 巨大な霊気の球だ。
 剣で受けきることもできず、健二は吹き飛ばされ、身動きを取れない状態となった。
 もし沙菜が霊気から斬撃属性を抜いていなければ、全身を斬り裂かれ重傷を負っていたところだ。
 意識こそ失っていないが戦うことはできなくなった健二のそばに沙菜が降り立つ。
「まあ、あなたと私ではこれだけ力の差がある訳ですよ。これで私はあなたの魂を喰らうことができる」
 沙菜の言葉を聞いて青ざめる健二だったが、その顔を穂高がのぞき込んで声をかけた。
「大丈夫だよ。沙菜ちゃんは喰人種じゃないから食べられないよ」
 ここにきてようやく沙菜は健二に対して羅刹と喰人種の違いについて説明した。
 敗れた健二は、その説明を疑って反抗したところで殺されるだけなので、ひとまず話は信じることにしたようだった。
「これに懲りたら、今後は獣型の雑魚喰人種とだけ戦うことですね。じきに能力者協会全体にもこの情報を行き渡らせます。超能力者と羅刹の戦いなどすぐ終わりますよ」
 沙菜は、羅刹の騎士団員も圧倒していたが、やはり人間の能力者もそうそう太刀打ちできる相手ではなかった。
 ただ、能力強度・十の敵とはまだ戦っていない。果たして能力者のトップは沙菜を相手にどこまで渡り合えるのか。
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