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まおうさまと初夜をすごすんだよ(3)
しおりを挟むすっぽんぽんの身体にお洋服を纏うと、おにいちゃんはぼくをご飯に誘ってくれた。
と言っても、ぼくはスライムだからご飯はあんまり必要ない。食べなくてだいじょうぶーと言うと、おにいちゃんは「それもそっか」と笑った。
「そうだね。アセビはこれから私の魔力を食べればいいし、ご飯はそれなりでいっか」
む?魔力をもぐもぐって、どういうことだろうねー。
目をまん丸にして、きょとんっとするぼくを見て疑問を察したのか、おにいちゃんはぼくを膝上に軽々抱き上げながら教えてくれた。
「上級魔族の魔力は、下級の魔族にとってのご馳走なんだ。普通にご飯を食べるよりも、私の魔力を少し食べた方がお腹いっぱいになるんだよ」
「ごちそう、だいじなごちそう、ぼくがもぐもぐしていいのー?」
「もちろん!魔力なんて捨てる程有り余っているから、どうせならアセビにたくさん食べてもらいたいな」
とっても嬉しそうに語るおにいちゃんを見て、ふむふむと納得した。
おにいちゃんが食べてほしいって言うなら、いっぱい食べたいな。ぼくも、ふつうのごはんよりおにいちゃんとくっついていた方が好きだもの。
お互いにうぃんうぃんってやつねー、とふすふす頷く。けれどすぐに、とある疑問が浮かんで首を傾げた。
そういえば、魔力をもぐもぐするってどうやるんだろうねー。
「おにいちゃんのまりょく、どうやってもぐもぐするのー?」
ゆらゆら揺れながら尋ねる。するとおにいちゃんは、にっこり笑ってぼくの頭をなでなでした。
なんだろうねー。なんだか、おにいちゃんの笑顔がとってもキラキラに見える。まってましたー!みたいな、そんなお顔だ。
ぱちくり瞬くぼくをぎゅうっとしながら、おにいちゃんは笑顔で答えた。
「魔力はね、体液に濃く宿っているんだ。だから、おにいちゃんの体液をアセビが食べれば、魔力をたくさんもぐもぐ出来るんだよ」
「たいえき?たいえきって、なぁにー?」
聞き慣れない言葉を耳にしてきょとんとする。たいえきって、なんだろねー。
不思議に思いながらゆらゆら揺れるぼくをぎゅうっと抱きしめて、おにいちゃんはニコニコ笑いながら教えてくれた。
「うーん、そうだなぁ。例えば、おにいちゃんの涎とかかな。試しに食べてみるかい?」
きらきら。きらきらって瞳を輝かせて、こくこくと頷いた。
早速おにいちゃんの魔力をもぐもぐさせてくれるみたい。おにいちゃんたら、とっても優しいねー。
楽しみでそわそわするぼくのほっぺを、ふとおにいちゃんが片手で優しく持ち上げる。スライムみたいにぷるぷるのほっぺを支えながら、今度はとってもきれいなお顔を近付けてきた。
「アセビ、舌をべーってしてみようか。舌は分かるかな?」
「した、わかるー。べーってすればいいのー?」
おにいちゃんの言う通り、舌をべーっと出してみる。そしたらおにいちゃんは、ちょっぴり苦しそうに「うぐっ」と呻いて、心臓の辺りをぎゅっと握りしめた。
どしたのー、だいじょぶー?と尋ねると、すぐに「大丈夫だよ」と笑顔が返ってくる。
気を取り直したみたいに姿勢を正すと、おにいちゃんはぼくと同じように舌をべーっと出して、それをぼくの舌にちょんっとくっつけた。
その瞬間、舌にピリッとした刺激を感じて身体を震わせる。ぼくをぎゅっとするおにいちゃんにぎゅっと縋りつき、ぷるぷる震えてながら訴えた。
「んーっ!おにぃちゃ、した、ぴりぴりしゅるー」
ぴりぴりするって言っているのに、おにいちゃんは一向に舌を離そうとしない。
むしろもっと深く、舌と舌を絡ませるみたいにくっつけて、最後は唇同士がちゅーってくっついちゃった。
ちゅーが深くて、ちょっぴり息が苦しくて。ぼくがおにいちゃんの魔力を食べているはずなのに、まるでおにいちゃんがぼくを食べているみたい。
「んむっ、ぐぅ。うーっ」
おにいちゃんの口がおっきく開いて、ぼくの口をあむっと食べちゃう。
分厚い舌が口の中にまで入ってきて、ちっちゃな歯とか舌とかをべろべろーって舐め回した。それと同時に、おにいちゃんの舌から伝うみたいに、涎がいっぱい流れ込んできた。
「ん、んっ、にぃちゃ、くるしー……っ」
はふはふって息苦しさを訴える。
何回か訴えると、ふいにおにいちゃんは、突然ぱっと口を離して、舌も抜いて、ぼくの口をおっきな手で覆った。きれいなお顔に浮かんでいるのは、恍惚とした赤らんだ笑みだ。
「アセビ、飲んで」
優しい声のはずなのに、どうしてだろう。なんだか命令されているみたいで、有無を言わせない空気がして、おもわずこくこくって涎をぜんぶ飲み込んじゃった。
舌と喉がぴりぴりして、全部こくこく飲み込むと、なんだか頭がくらくらしてくる。おにいちゃんにへにゃりと凭れかかると、すぐにぎゅうっと抱きしめられた。
「いっぱい食べられて偉いね、アセビ。お腹いっぱいになったかい?」
背中と腰をさすさすと撫でられる。どんどん身体から力が抜けていって、とってもこわい。
でも、大声を上げる気力さえ残っていなくて困ってしまった。どうしよう。とってもこわくて、泣いちゃいそうだ。なんて思っていたら、ついに涙がぽろぽろ溢れた。
今縋れるのは、おにいちゃんしかいない。だってここにはおにいちゃんしかいなくて、ぼくの異常をなんとかできるのは、きっとおにいちゃんだけだから。
「おにぃちゃっ、にぃちゃ、こわいよぅ。きゅうにからだが、ぐったりするー……」
身体がぐったりして、力が入らない。そして、異常はそれだけじゃない。
ぐるるるる……って、さっきからおなかの音が止まらない。おにいちゃんの魔力をもぐもぐする前よりもずっと、お腹が空いてたまらないのだ。
「おなか、すいたー……」
もっといっぱい、もぐもぐしたい。そんな衝動が止まなくて、頭のくらくらが強くなる。
ふと見上げたら、近くにおにいちゃんの唇が見えた。さっきあむあむって魔力を食べた、おにいちゃんの魔力がある唇だ。
吸い寄せられるみたいに顔を近付けた。おにいちゃんの唇と、ぼくの唇をちゅーってくっつけて、衝動のまま、一心不乱に舌を挿しいれる。
おにいちゃんはきっと困っちゃうはず。そう思ったのに、どうしてかおにいちゃんは、全部予想通りみたいに微笑んで、ぼくのちゅーをあっさり受け入れた。
「おにぃちゃ、もっと……もっとほしいよぅ。もっといっぱい、もぐもぐしたいよぅ」
頭の後ろ側に、おにいちゃんのおっきな手が添えられる。
おにいちゃんの涎が、舌をつたっていっぱい流れ込んできた。それをこくこくって全部飲み干して、また流れ込んできて、また全部飲み干す。
それを何度か繰り返したら、ほんのちょっぴりだけ渇きが潤ってきた。
「ん、んぅ、んむぅー……むっ!」
ちゅーの最中、ふいにおにいちゃんの片手がぼくのお尻をふにゅっと触った。
もみもみって触られて、ちょっぴりくすぐったい。おもわず声を上げると同時に、くっつけていた唇がちゅぱって音を立てて離れた。
変わらずお尻はもにゅもにゅって触られたまま。くすぐったいよぅ、と眉尻を下げるぼくを見下ろして、おにいちゃんはニッコリ笑って語った。
「ねぇアセビ、知ってる?体液は涎だけじゃないんだよ。アセビがもぐもぐ出来る場所も、このちっちゃなお口だけじゃないんだ」
どういうこと?ごはんをもぐもぐできるのは、おくちだけじゃないのかな。
おにいちゃんの言葉が不思議で、きょとんと首を傾げる。おにいちゃんはニコニコ笑顔のままぼくをひょいっと抱えて、突然ベッドにぽーんと押し倒した。
「おにいちゃん?もうおねむなのー?」
「ふふっ。ううん、まだおねむじゃないよ。言ったでしょ?今はご飯の時間だって」
おかしいねー。おにいちゃんたら、ごはんを食べるのに、ぼくをベッドにころりんって押し倒しちゃった。ベッドはぐーすか眠る場所なのに。
おにいちゃんはきょとんとするぼくのお洋服に手をかけて、どうしてかそれを脱がそうとする。
さっきお洋服を着たばっかりなのに、どうしてだろうねー。なんて不思議に思ってそわそわすると、おにいちゃんはそんなぼくを落ち着かせるみたいによしよしと頭を撫でた。
「大丈夫、なんにも怖いことなんてしないからね。まだお腹が空いているんでしょ?おにいちゃんがアセビに、もっと濃い魔力をたくさんあげるから安心してね」
もっと濃い魔力?さっきもらったおにいちゃんの涎だけでも、とっても濃い魔力がぎゅーっとつまっていたのに。
それ以上に濃い魔力をまだ持ってるなんて。おにいちゃんたら、ほんとうにすごいまおうさまなんだねー。
「さぁアセビ、今度はお口じゃなくて、下の方から──……」
ちょっぴり紅潮した、ぞくぞくって感じのお顔をしたおにいちゃんがぼくのズボンに手を伸ばす。
ぱちくり瞬きながらその手の動きを見つめていた時、ふとおにちゃんの言葉を遮って誰かの声が部屋に響き渡った。
「魔王陛下!ウルフ共とオーク共の後処理がようやく全て完了いたしまっ…………ん?」
ぽふっと、どこからか何もない空間に現れた一人の男の人。
おっきな翼を生やしたその人は、汗まみれの姿で声を上げて……そして、ベッドにころりんとなるぼくたちを見るなり、どうしてかさーっと青褪めた。
「あぇ、あっ、えぇっと──」
ぱちくり。きょとんと見つめた先にいるその人は、数秒ぷるぷる震えてから、ネズミさんみたいな素早さでしゅぴーんっと部屋を飛び出していった。
「申し訳ございませんでしたぁぁーッ!!」
遠ざかっていくごめんなさいの言葉を、びっくり固まりながら鼓膜に響かせる。
いまの、いったいなんだったのかねー。なんてぽかんとしていると、ふいにずーっとカチコチに固まっていたおにいちゃんが、ぼくに覆い被さっていた体勢からのそりと起き上がった。
そのままベッドを下りたかと思うと、ニッコリ笑顔でぼくのほうを振り返って、いつも通りの優しい口調でふとぽつりと零した。
「ごめんね、ちょっとだけ待っててね。ご飯は害虫駆除してから再開しようね」
近くに害虫がいたらばっちいからね、と言って部屋を出ていくおにいちゃん。
ぼくはぐるるる……と鳴り続けるお腹を両手で抑えて、天井を見上げながら呟いた。
「おなかすいたー」
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