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二章
31.迷子のわんこ
「ロキ?どこだー?」
ザマァエンドの引き金となる誕生日パーティーからも数日が経ち、新たに家族となったわんこのロキとも大分絆が深まってきたある日のこと。
庭園でロキと一緒に遊んでいた時。ふと目を離した瞬間にロキを見失ってしまった俺は、とてつもなく焦りながらあわわっと庭園を駆け回っていた。
ロキはまだ小さな子犬だ。わたあめみたいにふわふわでもきゅもきゅなロキが迷子になってしまうなんて……きっとどこかで震えながら俺を待っているに違いない。
草むらの中で「きゅーん」と涙目で鳴くロキを想像して青褪める。だめだ、絶対だめだ!あんなに小さくて可愛いロキを、寂しい寂しいと泣かせるなんて!
「うぅっ、ごめんよロキ……いま行くからなっ!」
くぅっと情けない自分に喝を入れ、ロキを救うべく走り出した。
実はロキがいなくなるのはこれが初めてじゃない。
初めて会った日から今日まで何度も。ロキは結構マイペースなわんこだから、急にふらりといなくなって気付いたら帰ってきている、なんてザラなことだった。
でも、それは完全に別館の中だった場合のみ放置できること。別館の全ての出入口には構成員が配置されているから、間違ってもロキが邸内を抜け出すことはない。
けれどこうして外でいなくなったのなら話は別。外で消えたということは、つまりロキは今どこにでも行ける状態ってこと。それはとっても危ないことだ。
ただの外じゃない。ここはマフィアの世界で、マフィアの邸の敷地内だ。別館以外は安全じゃない、と断言出来るくらい。
だから、早くロキを探さないと最悪の事態もあり得る。
何せ父はロキを殺そうとしていたくらいだ。もしも本館の人がロキを目にしたら、侵入者と判断して即座に殺してしまうかもしれない。
「本館……考えたく、ないけど……」
がむしゃらに走ってロキを探していた足をピタリと止める。もう大分近くに見えてきた本館に視線を向けてふと呟いた。
ロキが本館の敷地内に入ってしまった可能性……これだけ別館周辺を探しても見つからないのだから、いよいよその可能性が現実味を帯びてきた。
本館の近くまで探しにいくとして、それなら一旦戻ってガウたちを呼ぶべきだろうか?いや……その前にロキに何かあったらと考えると、そんな暇なんて無いだろうと焦りが増す。
護衛に当たってくれていたジャックは、俺がおかしな方向に投げてしまったボールをちょうど探しにいってしまったタイミングだったし……うーむ、色々と間が悪すぎたな。
ここからジャックを探しに戻るのも、ガウを呼びにいくのも時間がかかる。ロキを本当に大事に想うなら、今すぐロキを探しに行く以外の選択肢はきっとない。
「……よしっ、いこう!」
ロキは俺の大切な家族。後回しにするなんてありえない!
ふすふすっ!と気合を入れて歩き出す。方角は当然、ロキが迷い込んでしまったであろう本館の方だ。
俺はルカ・ベルナルディ……超絶クールな悪役次男。
迷子のわんこを救うべく、このハプニングも超絶クールに乗り切ってみせる──!
***
なーんて、そう思ってた時期が俺にもありました。
本館の敷地内に侵入して早数十秒。
まるで初めから見ていたかのように、とーっても早い段階で俺は見つかってしまった。
それもよりによって俺の天敵、最強のラスボス──お兄様ことアンドレアに!
「……ここは別館ではないが、お前は一体何をしている」
「ごっ、ごご、ごめんなひゃいぃっ!」
首根っこを掴まれて持ち上げられ、四肢がぷらんぷらーんと宙で揺れる。
まるでぬいぐるみを摘まむかのような軽々とした力。この力でぶんぶんっと荒々しく揺らされた暁には、きっと俺は牛乳を振って出来たバターのように憐れな姿と化してしまうことだろう。しょぼぼん……。
「……謝れと言っているのではない。何をしているのかと聞いている」
あぴゃーっ!と涙目でごめんなさいをすることしか出来ない俺を見下ろし、アンドレアはふと眉をピクッと顰めて低く呟いた。
その声に『あ、死んだ。俺の来世に乞うご期待!』と次の人生の宣伝すら心の中で済ませてしまったくらいだが、どうやらアンドレアは特に怒ったわけではなかったらしい。
俺をぱっと解放して、何やら近くの草むらを掻き分ける姿を見てそれを察した。あぁ別に怒ってるわけじゃなかったんだなって。
でも、それじゃあ彼は一体何をしているのだろう?
「……あ、あのぅ、お兄さま?」
突然草むらを掻き分けだして一体なにごとか、と困惑の表情を浮かべる。やがてアンドレアは目当てのものが見つかったのか無表情を微かに輝かせると、そそくさと立ち上がって俺のもとに戻ってきた。
スッと差し出されたのは、見慣れた細い花弁が密集する黄色の花。
「……これはたんぽぽと言うらしい」
……うん。知ってるけども……?
あまりに当然というか常識というか、その類のものを紹介されたので思わずポカーンと間抜けな顔で硬直してしまった。
それ、空を見上げて『あれはね、カラスっていう鳥なんだよ』とドヤ顔で教えるのと同レベルだと思うけど……もしかして、アンドレアの渾身のボケだったりするのだろうか。
それなら大笑いすべき?いやでも、これでボケじゃなかった俺、殺されてしまう。
「……たんぽぽは、好きではないか」
おろおろと回答に困っていると、やがてアンドレアがしょんぼり肩を落として呟いた。その姿を見てハッと確信する。
──これ、本気だ!アンドレアってば、本気でたんぽぽ初見さんなんだ!
一体どれだけ花に興味ないのか。
まぁでも確かに、花やら植物全般を愛でるようなアンドレアの姿は想像すら出来ない。
むしろ花畑の中を歩いて、歩いたところから全ての生きとし生けるものが枯れていくであろう絶望的な光景を想像する方が容易いくらいだ。
こりゃアンドレアがたんぽぽを知らなくても、そう驚きとかはないわな。なんて考えて息を吐き、アンドレアからたんぽぽをそっと受け取った。
「ありがとうお兄さま。ぼく、たんぽぽ大好きです。とってもうれしい」
「……!そ、そうか……それは、良かった」
「はいっ!本当にありがとうございますっ。でも、どうしてぼくにたんぽぽを?」
深くふかーく頭を下げてお礼を伝え、気になる疑問を遠慮なくぶつける。
アンドレアはきょとんと首を傾げる俺からスッと目を逸らすと、やや俯きがちにもごもごと答えた。
「……緊張を、解してやろうと」
「ふぇ?」
「……怖がっているようだったから」
まさかの答えに、俺はポカーンと目を見開いた。
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