異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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二章

58.家族

 
 何度も紡がれる『愛している』と、二人が語る今まで俺を冷遇していた時からの話。正直色々とキャパオーバーすぎて俺ってば目ん玉ぐるぐる大混乱である。
 何はともあれ、二人が全てを正直に本音で話すと言ったのは嘘ではなかった。父もアンドレアも、確かに全て本音で話してくれた。下手な誤魔化しとかは一切せず。

 最近まで俺を嫌って冷遇していたというのは本当のことだと、二人は消沈した様子で語った。しょんぼり眉尻を下げて俯く姿が、それを酷く後悔しているのだと暗に告げる。
 俺を本当に嫌っていたというのは予想内だ。というより、その後どうしてその気持ちを消すことが出来たのかという方が気になる。
 転換点は何だったのだろう。何が二人を刺激して、俺への感情を改めたのだろう。


「ぼく、なにもしてないのに……どうして、嫌いじゃなくなったの」


 そわそわと膝に置いた手を動かしながら問う。それに一早く反応したのはアンドレアだった。
 アンドレアは忙しなく指を絡ませる俺の手をぎゅっと包み込んで、その手をさすさすっと撫でて、しょんぼりする俺を真っ直ぐ見上げて答えた。


「そうだな。ルカはずっと、何もしていなかった。悪いことなど何も。ただ俺が、勝手に恨んで、勝手に掌を返してルカを愛しただけだ」


 そろりと視線を上げる。視界に入れたアンドレアの表情は真剣な色をしていて、やっぱり嘘をついているようには見えない。
 掌を返して、なんて。プライドの高い主人公として知られるアンドレアが言葉にするには、どれほどの勇気と覚悟が必要だったのだろう。
 この手放しの言葉こそ、アンドレアの語る全てが真実である証拠になるんじゃないか?


「ルカの動き一つ一つが、愛らしかった。初めはそれだけだったが……見れば見る程、ルカは本当に天使のように愛らしくて……──」


 初めてまともに俺の姿を見たのは、なんと俺がガウを拾った時だったらしい。
 あの時、すぐ近くにアンドレアがいたのか。全然気づかなかった……とあんぐりしている俺をよそに、アンドレアは頬を染めたまま必死に慣れない言葉を紡いでいる。
 聞いている側がそわそわしてしまいそうな言葉ばかり。それもアンドレアが吐くには到底似合わないセリフばかりだから、余計にそわそわが止まらない。

 ガウを拾った俺に興味を抱いたアンドレアは、それ以降度々、庭園で遊ぶ俺を隠れて観察していたらしい。本当に一度も気付かなかった……なんだかちょっぴり無念である。
 つまり、誕生日パーティーが初めての出会いってわけじゃなかったのか。いや、俺にとっては初めてだったけれど……アンドレアにとっては、見慣れた弟って印象だったのだろう。

 対して、父は普通に誕生日パーティーが初見だったみたい。


「私も愚かな掌返しだ。初めてお前を見た日から、気になり始めていた。見る度ルカの愛らしさが露呈するものだから、更に愛おしく感じるようになった」


 う、うそ。俺ってばそんなにパッと見の印象完璧かな……そわそわ。
 確かに俺、考えてみれば超絶クールでかっちょいいかもしれないけれど。でも、この堅物で強敵の父さえ絆してしまうなんて、俺のクールさ、ちょっぴり世界崩壊レベルで強過ぎるんじゃないかね。

 なんてルンルーンと鼻歌まじりに身体を揺らすと、それを見た二人が苦し気に「グハッ」と呻いた。早速俺のかっちょいい超絶クール攻撃にやられたらしい。


「おれ、かっこいい」

「……?あぁ、ルカはかわいい」

「おれ、クール。かっこいい。ふふん」

「あぁ。とても可愛いぞ」


 俺ってば自分のかっこよさに酔ってとんでもない聞き間違いを連続でしてしまった。
 俺の自画自賛に続いて二人もかっこいいと言ってくれたはずなのに、なぜか「かわいい」なんて有り得ない返しが聞こえた気がしてびっくり仰天しちゃったぜ。

 さっきの意気消沈っぷりが改善し、ふんふふんとご機嫌になった俺を見上げた二人が何やらほっと息を吐いた。


「ルカ。理解してくれたか?俺はルカを愛しているからな」

「うん。理解!しましたっ」

「よし。ではこれからは逃げる必要などないな。ルカは安心して本館で暮らせ」

「うん。了解!しましたっ……む?あっ、お兄さま、ちょっと待ってください」


 ふわふわ上機嫌で頷いていたが、ふとアンドレアの言葉が引っかかってムムッと首を傾げた。すかさず訂正を入れて、むぅ……と不満げに口を閉ざすアンドレアを見下ろす。
 アンドレア……というより、これは父かな。父にもぱちっと視線を向けて、そういえば……とかくかくしかじか尋ねた。


「そういえば、別館はどうして廃墟みたいになっちゃったんでしょう。おれの大切なお家なのに……みんなも、いなくなってた」


 しょぼん……と眉尻やほっぺをへにゃあぷるぷると下げて問うと、二人はハッとした様子で目を見開いた。
 やっぱり悪意があってのことだったのかな。俺の大事な我が家にあんな酷いことするのだから、思えば善意だと考える方が無理がある。
 さっきまでルンルン気分だったのにまたもやどよーんとしてしまった俺を慌てた様子で見上げた二人は、ハラハラと焦燥を滲ませて答えた。


「あ、あぁ、あれは違うぞ。ルカが安心して生活出来るよう、使い慣れているであろう別館の物を多少本館に移していただけだ。当然、お前の構成員達も同様に」

「奴らはルカがこちらに移るタイミングで同時に本館に呼び戻した。今は抗争……任務に駆り出されているのが大半だから、運悪く出会えなかったのだろう」


 父とアンドレアが交互に語る。その内容にポカーンと目を丸くした。

 なーんだ、そういうことだったのか。本当に全部俺の早とちりだったんだな。
 父とアンドレアは俺への感情をしっかり改めてくれていたし、別館を廃墟にしたわけでもなかった。むしろ、俺の為に色々と手を尽くしてくれていたのだ。
 真実が明らかになればなるほど、胸がぽかぽかっとじんわり温かくなっていく。

 前世から大切にしていた『家族』というものを、失ったわけじゃなかったんだ。


「そう、でしたか……ごめんなさい、おれ、勝手にお父さまやお兄さまのこと、誤解して……」


 しゅん……と肩を落としてごめんなさいすると、二人はあわわっと慌てた様子で「それは違う!」と否定した。突然の大声に俺ってばびっくり仰天。


「初めは本当にお前を疎んでいたのだから、ルカは何も悪くない。寧ろ謝るのは此方側の方だ。ルカを振り回した挙句また傷付けて……本当に、申し訳ない」


 土下座する勢いで深く頭を下げる二人を今度は俺が慌てて止める。
 流石にマフィアのボスとその後継ぎが俺みたいなちんちくりんに土下座するのはだめだ。アレがソレで……とにかく、なんか色々だめだ!
 ソファからぴょんっと飛び降りて二人に抱き着き土下座を阻止すると、なぜかむぎゅっと抱き締めた二人の身体がふいにぷるぷる震え始めた。


「あぁルカッ……俺を慰めてくれるのだな……受け入れて、くれるのだな……」

「なんて優しい子なのだ。集るハエ共から守る為に、ルカ専用の快適な檻を作って今直ぐ監禁しなければ」


 何やら父の口から物騒な言葉が飛び出した気がするけれど、それは華麗にスルーしてむぎゅぎゅうっと更に強く抱き締めてあげた。
 ぎゅーしたら二人が嬉しそうに微笑むから、俺も嬉しくなっちゃって。


「ん、うむ。おれも……お父さまとお兄さま、すきです。大切な家族なので、これからは、おれが二人をしっかり守りますっ」


 今のは媚売りじゃなくてちゃんとした本音だ。
 きちんと愛し合う家族になったからには、クールな俺がしっかり家族を守ってあげないと。
 そう思ってえっへんと胸を張ったが、なぜか二人は『きゃーすごーい』とか『さすがルカってば超絶クール』とか一切褒めないで硬直してしまった。むぅ。


「……っそうか、そうか……」

「かわいい」


 うんうん、と悶えながら頷く父と悟った顔で呟くアンドレア。
 可愛いは不服だが、俺は超絶クールでとっても優しいのでツッコまずに「そうであろうそうであろう、クールであろう」と聞き流してむふーっ!と頷いてあげた。
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