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三章
71.じろーとごろーまる
俺のぺろぺろ発言を聞いた途端何故かとってもご機嫌になったジャックは、そのままルンルルーンとか言いそうな勢いで訓練所に戻っていった。俺をぎゅっとしたまま。
数秒前の出来事を完全に忘れていそうな雰囲気を感じ取る。慌てた俺はぴゅんっと振り返り、その先に倒れる男性と跪いたままの男性を見てジャックを引き留めた。
「ジャック、仲間をむししちゃだめなんだぞ。あの人、痛そうにしてるからおたすけしないと」
ふんすっと息巻いてジャックの腕の名からから抜け出す。
しゅぽっと拘束を潜り抜けて床に着地し、ジャックの制止を聞かずにとてとてーっと二人のもとへ戻った。
「おい、だいじょぶか?蹴られたとこ、みせてみろ」
俺は超絶クールな悪役次男、ルカ・ベルナルディ。
当然、ベルナルディの配下である暗殺部隊の彼らにもクールに、厳格に接するのである。これで裏から慕われかっこいいかっこいい!と崇められること間違いなし。どどどやぁ。
む?さっき大号泣を目撃されてたが?って?
……それに関しては、全部ノーカンなのである。
「ご主人様ぁ!そんなゴミ屑共、別に構ってやらなくていいよぉ」
「むっ。なにを言ってるんだ、おばかジャックめ。仲間なんだから、困っているときはしっかりおたすけしないとだめなんだぞ。ジャックってばさいてーだぞ」
ガーン!と仰け反って「ご主人様に最低って言われたぁ!」と大泣きするジャック。
うえーん!と響く嘆き声を無視してとたとたお仲間さんたちに駆け寄り、倒れている方をぺちぺちっと叩いて生存確認してみた。うむ、ぴくぴく動いているし……とりあえずは生きているようで何より。
ちーんとご臨終一歩手前の男性から一度視線を移し、跪いたままのもう一人の方を振り返った。
「そこのおまえ、お名前をおしえろ」
「え……はっ、四十六番と申します」
きょとん。おかしな返答に首を傾げる。
俺は名前を聞いたってのに、なんだってこの人は数字を名乗ったんだ?
まったく、ジャックの仲間だからか変なやつだな……と溜め息を吐きつつ、おーけーおーけーと適当に頷いた。
「よんじゅーろく、しじゅーろく、よんろく、よんろー……うむ、じゃあおまえ、ジローね」
「じ、じろー……?」
名付けの天才ことルカ・ベルナルディ、今日もあまりにハイセンスな名を授けてしまい大満足である。えっへんどどどやぁ。
ジローへの名づけは終了したので、次はこっちの倒れている彼の番だ。
ふんすっとしゃがみこみ、地面に伏せる男性の肩をツンツン。何度か突っつくと、やがて男性がハッとしたように飛び起きた。
「はっ!!ここは……天使がいる……ということはつまり、天国……」
勢いよく上半身を起こした拍子にぺらりとフードが脱げ、耳元の片側を編み込みにした爽やかな茶髪と、切れ長の吊り目があらわになった。
まっ!あらやだハンサムじゃないの。
そのハンサムさんは何やら俺を見下ろしてボソボソ呟き混乱している様子。ふむ、蹴られた時の衝撃でこっち側に戻ってこられていないのかな。
それなら……とちょっぴり考えた末に立ち上がり、ハンサムさんのほっぺを両側からぺちんっ!と叩くようにして包み込む。
すると、定まっていなかった焦点が俺の瞳にぱちっと合った。
「は、はぇ……?俺は一体、なにを……」
「お名前をおしえろ、かっこいいはんさむお兄さん」
「え?ハンサム?あ、ありがとう……コードは五十六番、です……?」
俺の首を切りかけた張本人を前にしても恐怖が湧かない。それは偏に、きっと彼からそれとなく漂う庶民オーラが原因だろう。
さっきは顔も隠れていたし、雰囲気も暗殺者に全振りしていたみたいだったから気付かなかったけれど……なんだ、こう見ると普通の青年じゃないか。
困惑をあらわにした自己紹介にうむうむっと頷き、おまえもかーいと思いながらも案の定なので動揺せず考える。こいつの名前は何にしようかなーっと。
「ごじゅーろく、ごーろく、ごーろー……うむ、じゃあおまえ、ゴローマルね」
「マルはどこから……?」という困惑の声が後ろから聞こえてくるが無視だ。
いいんだよ、こういうのはノリなんだ。お前はジローでこいつはゴローマル、そういう気分だったんだよ。あとほら、語呂的にジローマルはなんか違くない?
「よしっ!ふたりのお名前もぶじ決まったことだし、仲良く訓練所におじゃまするぞ。いいか?もうケンカしちゃだめだからな!」
クールに名付けが出来たことで上機嫌になった俺は、直前に起こった出来事と自分が発端にして起こったという事実をド忘れしてルンルルーンと鼻歌混じりに扉を越えた。
背後からジローとゴローマルの声がふいに聞こえた気がするけれど、小声すぎて聞こえなかったのでまぁいっか!とスルーした。
「──もとはと言えばあの天使様が来たことが原因では……」
「──馬鹿ッ!隊長に殺されるぞ……!」
***
実はちょっぴり怯えていたけれど、暗殺部隊のみんなは想像とはまるで違い、とってもいい人たちばかりだった。
ジャックに抱っこされて現れた俺を見て初めはピシャーンと固まっていたけれど、すぐに硬直を解いて俺に駆け寄ってきてくれたのだ。
みんな懐っこくて、人当たりが良い。地上だと冷たい使用人たちを前にしてビクビクする日々だから、正直言って暗殺部隊のみんなとの出会いはとっても心地よかった。
俺の名付けセンスがなぜかめちゃんこ流行って、最初の時間はずっとみんなへの名付けに費やした。
元日本人なので和の心が出てしまい、マフィアと言うよりヤクザみたいな和名集団になってしまったのはちょっぴり予想外だったけれど……これはこれでかっこいいのでヨシだ。うむ。
ジローとゴローマルも、なんだかんだ同じ感じの名前を持つ仲間が増えたことを嬉しそうにしていた。よきかなよきかなー、である。
そんなこんなで名付け大会が終わった後は、ジャックと共に訓練所奥の隊長室へ。
そもそもここへやってきた本題は、ジャックと会うことだったと思い出し背筋を伸ばした。
「さっ、ご主人様ぁ、座って座ってぇ」
「う、うむ……それにしてもジャック、すごいな……えらい人のお部屋じゃないか……」
きょろきょろ、と豪華な内装を見渡して呟きながらソファに腰掛ける。
ジャックはきょとんと首を傾げて「そーお?全部テキトーに買ったやつだけどぉ」と興味無さそうに返しながら隣に座った。って、なぜに隣……?
「家具とか全然興味無いからなぁ。ご主人様の趣味じゃなかったらソッコー全部ぶっ壊して灰にするから、気に入らなかったら言ってねぇ?」
「あ、う、うむ……」
よくわからんけど、なんかまた怖いこと言ってるぅ!
ジャックがふと見せる突然の狂気。それにガクガク震えつつ、紡ごうとしていた『隣に座らんでもよくない?向かいに座りなよ』という言葉をぐっと吞み込んだ。
なんか、よくわかんないけど、なんか言っちゃダメな気がする……ごくりっ。
寒いのかなんなのか、俺の腰に腕を回して抱き寄せるジャックに素直に従う。
ぴとっと半身がくっついた体勢で、ふとジャックがにこやかに声を上げた。
「それでぇ?ご主人様はどうして僕に会いにきてくれたのぉ?」
スッと細められた瞳は弧を描いていて、奥底に宿る全てを見透かすような色が少し擽ったい。もじもじと身体を揺らすと、その震えを抑え込むようにぎゅうっと包み込まれた。
「言ってごらん?ご主人様のお願いはぜぇんぶ僕が叶えてあげるから」
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