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三章
79.らすかるとバナナ
「うわぁぁん!!らすかるのおばかぁっ!」
「ダグラスな」というツッコミを無視して滝の如く涙を溢れさせる。
ぶわわぁっと号泣する俺をガウがあわあわと抱き締めて、筋肉質な腕の中でよしよし慰めてくれた。俺の味方はガウだけだぜ。
どうしてこんなことになっているのか。そもそもの事の発端は、チャイナ服お兄さん……ハオランが持ってきてくれたフルーツを、ダグラスが「毒見だ」と言って全て食べてしまったことが原因だ。
中には俺の大好きなメロンやミカンもあったから、ほんの一瞬で空になってしまった皿を見て大号泣してしまった。あんまりにも悲しくて、つい……。
「おれのめろんかえせえぇぇ!」
「ちょっとくらい良いじゃねェかよ、ケチくせぇガキだなァ」
ヴォンッ!とぶん投げた枕は、ダグラスの手によって簡単に叩き落されてしまった。無惨にぺしゃんこ状態で床に伏せる枕が痛々しい。二枚ほど羽毛も零れて飛んでしまっている。
こいつに枕投げを挑んだら命が終わる。号泣しながらも静かに確信した俺は、まだベッドに残っていたクッションを抱え込んでスン……と座り込んだ。
「ぐすっ、むぅ……ちょっとじゃないじゃん、ぜんぶじゃん……ダグラス……らすかる」
「ダグラスで合ってんだわ。テメェ今のはわざとだろ」
せめてもの仕返しとして、こいつのことは飽きるまでラスカルと呼んでやろう。
ぷくぅっと膨らませたほっぺをダグラスにむにゅむにゅと揉みくちゃにされる。それにむぐぐー!と耐えていると、ふいにずっと息を潜めていたハオランがきょとんと声を上げた。
「あの!よろしければ新しいメロン、持ってきましょうか?」
ピシッと挙手をしてそう言ったハオランに、一度はぱあぁっと瞳を輝かせた。
けれどすぐにスン……と冷静になり、理性に縋りつきながら力無く首を振る。
「だめ、ひとさまのお家でそんなワガママ言っちゃいけません」
「何だテメェ、面倒くせェな」
「むッ!元はと言えばおまえがメロンぱくりしちゃったからだろ!おばかっ!おばかぁ!」
失礼な一言しか言わないダグラスの胸をぽかぽかっ!とぶん殴る。
ガウに真面目な顔で「この無礼者を殺しますか?」と聞かれたところでビクッとパンチをやめた。ガウ対ダグラスは想像するだけで地獄絵図確定だからだめに決まっている。
だいじょぶ……とぷるぷる震えながら言うと、ガウはちょっぴり不満そうに頷いた。どうやら殺す気満々だったらしい。
忠誠心が強いのはこっちとしても安心だけれど、積極的な殺生はなるべく控えようね……。
「んむ?まてよ……?」
ふすふすっと憤りつつ水を飲んでいる最中、ふと思い出して辺りを見渡した。
きょろきょろする俺に気付いたのか、ガウがどうかしたのかと尋ねてくる。それにこくっと頷いて、お目当ての探し物を答えた。
「おれのリュック、どこにある?あの、サメさんのリュック」
「サメの……?あぁ、こちらのリュックのことでしょうか?」
ガウが懐から取り出したそれにぱぁっと表情を輝かせる。
そうそうそれ!とニコニコしながら、サメさん型のリュックサックを受け取った。サメさんのでっかい口のところがチャックになっているタイプのやつ。
これは以前、改めて誕生日プレゼントを贈ると言って父から渡されたものだ。
俺がサメさんのぬいぐるみをいつも抱いているから、サメさんが好きなのだろうと特注で買ってくれたらしい。
チャックの部分が口になっているから、物を入れる時にガブッと食べられているみたいになる。それが楽しくて、バッグ類の中ではこれが一番お気に入りだった。
「……なんだ、あのガキくせェ謎のリュックは」
「主様のお気に入りですので無礼な発言をしたら処します。主様はサメがお好きなのです、お可愛らしい」
何やらガウとダグラスがコソコソ話していることに気付き、仲良くなったのかなよきよきっと微笑ましく思いながらリュックを開ける。
口にガブッと手を突っ込んで、中に入っていたそれをニマニマとほくそ笑んで取り出した。
まったく計画通りじゃないけれど、全て読んでいた強キャラっぽくそれをダグラスに掲げ、胸を張って言い放った。
「ふふん、えっへん、どどどやぁ。みよっ!こんなこともあろうかと、クールで大天才のおれはバナナを持ってきたのである!」
ちょっぴりお行儀悪いけれど、今だけ……とベッドの上にででーんと立ち、聖剣のごとく天高くバナナを掲げる。
「おまえに果物をぺろりとむしゃむしゃされても、おれにはバナナがあるのだっ!」
ふんすっ!と息巻いて宣言すると、室内が数秒静寂に包まれた。
どうやら俺のあまりの賢さに一同呆然としているらしい。まぁそれも無理ないだろう。
普段のちょっぴりポンでドジな俺は表の姿……本来はこんなにも賢くクールな男なのである。分かったらもう二度と俺を舐めるでないぞ!
むふーっ!と火照った顔で仁王立ちしていると、ふいにダグラスが無言で俺の前に立ち、バナナを静かに奪い取る。
それにむむ?と首を傾げると、ダグラスは瞬く間に皮をむいてバナナをぺろりとたいらげてしまった。
「…………む?」
「ルカ坊ちゃんは賢いなァ。そんな賢いルカ坊ちゃんは、当然予備のバナナも用意してんだよな?まさか一つしかねぇモンを掲げるようなポンコツじゃねぇよなァ?」
ダグラスが煽り満載の表情でバナナの皮を見せびらかす。
空っぽの元バナナを見て数秒ピターッと硬直した末に、俺は瞳を涙でうるうるにしてびえーっ!と号泣してしまった。
「うえぇぇん!ばがぁ!いじわるうぅぅ!だぐらすのらすかるうぅぅ!」
ぶえぇぇっ!とナイアガラの滝もびっくりの号泣を晒すと、それを見たガウがあわわっと焦った様子で駆け寄ってきて俺をぎゅうっと抱き締めた。
そんな優しいガウとは裏腹に、ダグラスはフンッと意地悪く俺を嘲笑っている。見た目も相まってガキ大将みたいな雰囲気だ。
なんてサイテーな男なんだ、もう知らんっ!と不貞腐れて、俺はガウの胸にうりうりーっと強く顔を埋めた。
「がう、がうぅー……!」
「お可哀想に……酷いクズに意地悪をされて……」
泣き喚く俺を慰めようとしてくれたのか、ガウがサメさんですよーと俺にサメさんリュックを手渡してくれた。
それをありがたく受け取ってぎゅっと抱き締めると、少しだけ心が回復する。
ガウの優しさにぽかぽかと癒されていると、ふいにガウが甘い表情を一転ドス黒いものに変えてダグラスを睨み付けたことに気が付いた。
「……愛らしい主様を甚振った罪は万死に値する。殺すぞ、貴様」
「ハッ!流石男たらし坊ちゃんだなァ?獣人のブツも受け入れるたァとんだ名器だぜ」
ダグラスの言葉が何か裏の意味を含んでいることは察したけれど、その内容までは残念ながら察することが出来なかった。
だが、それはかなり悪い意味だったのだろう。きょとんとする俺の頭上で、ガウが殺意を滲ませて獣化の片鱗を見せたことを悟りあわわっ!と慌てる。
よくわかんないけど落ち着け!と抱き着くと、ほんの少しだけだがガウの怒りが収まった。
「ガウ、どーどー、だぞ。おれはだいじょぶだぞ」
「ですが……!」
「ほんとだぞ。ガウとサメさんをぎゅってしたから、もう平気なんだぞ!」
ニコッと笑顔を見せると、ガウは一度苦しそうに顔を歪めて、けれどすぐに困り顔で微笑んだ。そうですか、という穏やかな声音に胸がぽかぽかする。
そう、ぽかぽか……ぽかぽか?
「うぅ……ぽか、ぽか……」
「主様?主様ッ!?」
ふいに気付く。そういえば俺、いま熱を出していたんだった……と。
全身がぽかぽかに火照り、たちまち意識が遠のいていく。
熱があるのにこんなに泣きわめいて動き回れば、そりゃあ悪化もしますよね……と自分のアホさを嘆きながら、スーッと眠気の渦に沈み込んだ。
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