異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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三章

83.ブラコンお兄さま

 
 ふんすふんすっと憤りながら庭園を進む。
 土にしっかりと足跡を残すくらいの怒りを抱えながらぷんすか歩いていると、ふいに向こうから見慣れた人影が近付いてきたことに気付きハッとした。
 昼間の明るさをものともせず、決して光を受け付けない艶やかな至極色の長髪。それをサラリと靡かせて、彼は飄々とした足取りでこちらに歩いてきた。


「おにいさま!お兄さまもお散歩ですかっ?」


 大好きな家族に出会えたことで、数秒前まで抱えていた激おこがスーッと晴れる。
 ぱあぁっと表情を輝かせてとことこ駆け寄ると、アンドレアは無表情をほんの僅かに緩めた。


「……ルカ、ここにいたのか。また例のクソ野郎に追われているのではないかと心配で……ここまで探しに来てしまったぞ」


 じーっと目を凝らさないと分からないくらいの淡い頬の火照り。
 心配、という言葉を紡ぐのにだいぶ勇気を消耗したらしい。照れた様子で視線を逸らすアンドレアを見上げてふにゃあっと破顔した。

 アンドレアは庭園をお散歩していたわけじゃなく、俺を心配して探しにきてくれたのか。
 傍から見たらまるで弟を想う兄の構図……原作ではありえなかった出来事に、なんだか少し胸がジーンとなる。
 とっても嬉しかったから、思わずアンドレアにむぎゅーっと強く抱き着いてしまった。お腹にうりうり顔を埋めても、アンドレアが俺の身体を引き離す気配はない。
 むしろ、アンドレアは無骨な手でよしよしと優しく頭を撫でてくれた。


「お兄さま、だいすきです。会えてとっても嬉しいですっ!」


 アンドレアが珍しく微笑む。いつもは怜悧に細められている瞳が僅かに弧を描いて、甘やかなその瞳の中に俺の姿が色濃く映った。
 それを悟って、すぐにハッと顔を伏せる。どうしてか……今の瞳はまるで、俺をむぎゅっと捕らえてしまいそうなくらいの危うさを感じたのだ。


「ルカは今日も可愛いな。クソ野郎には手を出されていないようで安心した」

「あ……」


 アンドレアの上機嫌な声音にギクッと肩を揺らす。
 その分かりやすい反応を目敏く悟ったアンドレアは、すぐに穏やかな表情を険しく顰めて低く呟いた。


「……何だ?まさか、身の程知らずのクソロキに手を出されたのか……?」


 もはやクソ野郎ではなく完全に名指しになっている……。
 アンドレアが怒りで顔を歪ませるのを見上げてピシッと固まる。
 とっても怖いけれど、この怒りが俺に向いたものではないと理解出来るので、以前のようにあからさまにビクビクすることはしなかった。

 とは言えこの状況でどうにか誤魔化したりやり過ごしたりというのは恐らく不可能。
 嘘を吐ける雰囲気でもないので、へにゃあと緩い笑顔を浮かべて答えた。


「あぅ、えぇっと……じつは、ロキに──」


 ロキに好きだって言われちゃったんだぁ、ははっ。
 そう言おうとして、途中でやめた。俺ってば一体なんてことを言おうとしたのか。今目の前にいるのは、いつかそのロキと結ばれる予定の主人公なのに!

 攻め主人公が悪役に告白したなんて、たとえ嘘でも受け主人公であるアンドレアからの印象は悪くなる。
 詳しい策略は分からないけれど、ロキは自分の欲の為に『好き』だと嘘を吐いた、それは紛れもない事実だ。完全に悪趣味だし、それを聞いたアンドレアがこの先ロキを好きになる展開がまったく見えない。
 いや、ストーリーの流れで結局は……とか、運命だとか、色々と可能性はあるけれど。それでも、不安なものは不安だから、なんとかこのことは隠さないと。

 全ては、大切な家族が無事にハッピーエンドを迎えるために!


「その、ロキに、いっしょにあそぼうって誘われたんです!でも、あそぶならお兄さまもいっしょがいいなぁって、おもって……」


 もごもご、と語尾に近付くにつれ声量が小さくなるのは、嘘を吐いている罪悪感からか。
 もじもじと身体を揺らすと、数秒動きを止めていたアンドレアがふと勢いよく動き出した。
 俺の身体をふわっと抱き上げ、腕の中に閉じ込め……そうして、至近距離に嬉しそうに綻んだ表情を近付けてくる。アメジストの瞳は爛々と輝いているように見えた。


「そうか、そうか……クソロキよりも、俺と遊ぶ方が楽しいか……」

「お、おにいさま……?」


 やけに上機嫌な声音で何やらそう呟いたかと思うと、アンドレアは俺にスリスリと頬擦りし始めた。どうやら本当に機嫌が良いらしい。


「可愛いルカ。愛おしい俺のルカ。クソロキなんぞに絆されず、お前は俺だけを見ていろ」

「ぴぇっ!」


 腰に響く低音ボイスでアンドレアが囁く。まるで俺がふにゃあっとなってしまうのを既に知っているみたいだ。
 たちまちふにゃふにゃっと力が抜けて、アンドレアの肩にぽすっと頭を置く。真っ赤な顔を隠してきゅーっとなる俺を抱き締めて、アンドレアはまたもや上機嫌に口角を上げた。


「おにぃしゃま、かっこいぃ、すきぃ……」


 ぷしゅーっと噴火するみたいに言うと、アンドレアはすぐに俺の頭に頬擦りして「俺も愛している」と殺し文句が過ぎることを甘く呟いた。
 な、なんだろう。アンドレアってば、本当にキャラ崩壊が激しいな……原作でロキとくっついた後ですら、こんなに分かりやすいデレはしなかったはずなのだが……。

 なんてあわあわ考えていると、ふいにアンドレアがぱっと顔を上げて手前をキッと睨み付けた。
 突然なにごと?と俺も首を傾げつつ振り返る。その先に立っていた人物を視認して、思わず気まずさではわわ……と目を逸らしてしまった。


「クソ野郎……ルカの視界に入るな、失せろ……」


 ゴゴゴゴゴ……!と人一人殺せそうな殺気を纏ってアンドレアが言う。
 その殺気を向けられた彼は、直球の拒絶に苦笑しながら歩み寄ってきた。


「そんなこと言わないでよ。俺と君は親友でしょ?」

「戯言を吐くな。弟に近寄るな。殺すぞ」

「うーん……ブラコンだなぁ……」


 そう呟いたロキの口元が、微かに「やりにくい……」と動いたのを俺は見逃さなかった。
 その言葉の真意を推測しながらアンドレアにむぎゅっとくっつく。

 アンドレアがブラコンだとやりにくいことって何だ?俺を好きなように動かせないからか?と、ついさっきあんなことがあったばかりだからか、ロキの言動全てに疑念が募ってしまう。
 シャーッ!と軽く威嚇する俺に気付くと、ロキはハッとした様子で数秒固まり、やがてふにゃあっと力無い笑みを浮かべた。


「……ルカちゃん、さっきはごめんね。今日はもう帰るから、そんなに警戒しないで」


 悲哀の滲んだその微笑は、たしかに本物のように見えるけれど……。
 でもやっぱり疑心を晴らせなくて、俺は結局、とぼとぼと帰っていくロキの後ろ姿を黙って見つめることしかできなかった。
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