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四章
121.らすかるのぴんち!
後ろに透明化したダグラスを従えているからだろうか。
正直「一人で殴り込みなんて怖すぎるよぅガクガクブルブル」と思っていたが、実際はこうして堂々とした足取りで邸へ向かうことが出来ている。
なんたって俺は一人じゃない!いざって時のダグラスが控えているんだからなっ!
まぁでも一つ懸念があるとすれば、ダグラスの姿が俺にも見えないってこと。
ダグラスは魔術師とはいえ強い部類ではないらしく、ただ人より魔力が多くて魔術が使える人間ですよってだけみたい。魔術は使えるけど、戦闘に出て『おれ、魔術師です!』とドヤ顔することも出来ないレベルらしい。
だから、人に魔術を施したり、人に魔術を共有したりということも不可能なのだとか。
例えば、透明化をアンドレアにもかけるってことは出来ないだとか、透明化した姿を特定の人物に見せることは出来ない、みたいな感じだ。
とはいえ魔術を使えるというだけで、その他の人間よりも秀でているということになる。
普通人間は、魔術を操れるほどの魔力を持たない。あのアンドレアやロキでさえ、魔力は持たないから魔術も使えないのだ。もちろん俺もね。
だからというか何というか、ダグラスが魔術師だという事実はかなりの衝撃だった。まさか身近に希少な魔術師がいただなんて。しかもダグラス……ダグラスだぞ……?
「むぅ……なんか怪しくなってきた……ほんとにらすかるいるのか……?」
アンドレアが乗った馬車がとうに去り、シーンと静寂が広がる門の前でそわそわする。
もしかして、本当はこの場にいるのが俺一人って可能性もあるんじゃないか?ダグラス魔術師説は、俺の緊張を紛らわせる為の嘘だったとか……うぅむ。
なんて思いながら怖くなって震え始めた時、ふいに耳元で呆れたような声が突如聞こえた。
「オイ、まだ信じてなかったのかよテメェ。ちゃんと居るわアホ」
「むっ!ら、らすかる!よかった、ほんとにいたのか!」
「ダグラスな。お前もう直す気ねェだろ」
なぁんだ、よきよき。ダグラスは本当に魔術師で、きちんと傍についてくれていたらしい。
ほっと息を吐いたところで、ふいに門が重々しい音を立てて開かれた。
「わっ!なんだなんだっ」
「……入れってことじゃねェの。取り敢えずは……ここに来て正解だったみてェだな」
ダグラスのセリフにごくりと喉を鳴らす。そうか、俺を前にして当然のように門を開いたということは、相手は俺が来ることを想定していたことになるのか。
たらたら、と冷や汗を掻きながら恐る恐る踏み出す。ダグラスを連れてとことこ歩き、ガウが無事でいることを祈りながら邸へと進んだ。
***
中に入ると、案外あっさり受け入れられて客間に通された。
「あの、おれの側近は……」と案内役の使用人に尋ねてみたが、返ってきたのは軽い会釈だけ。どうやら俺とは一言も交わすつもりがないらしい。それを察したから、早々にむぐっと口を噤んだ。
客間に一歩入った瞬間、そこにいた人物を見てハッと息を呑んだ。
中にいたのは二人。一人は優雅にソファに腰掛けていて、もう一人は従者のようにその人の後ろに佇んでいた。見覚えがあったのは、その従者っぽい人の方だ。
既視感のあるフードの男。その男は、古風な弓矢を背に抱えていた。
「なっ!おまえっ、いつぞやの!」
主人公の如くピシィッと弓矢の男を指さす。明確な敵を前に身体を強張らせるが、弓矢の男は特に攻撃してくる様子もなく浅い会釈を返してきた。
低姿勢な挨拶にあわわ……と俺も姿勢を正し、ご丁寧にどうもどうもとお辞儀をする。こちらへどうぞと示された通りに、とことこと近付いて、二人の敵さんの向かいに腰掛けた。
その一連の流れを眺めていたらしい敵さん……弓矢の男じゃない方の、気品溢れる男がふいに堪え切れないとばかりに吹き出した。
「ははっ!聞いていた通り愛らしい子だ。馬鹿のように、愛らしい」
「……む?」
ちょい待ち、もしかして今、馬鹿にされたのか?違う?新手の褒め言葉?
馬鹿のように愛らしい……馬鹿のように?むむぅ……はっ!なるほどそういうことか、すっごくかっこいいねーってことか。馬鹿みたいにうんたらかんたらーって言うもんね、うむ。
なるほど納得、と頷いてにこっと笑顔を返す。
「えへへ、俺なんてそんな、ちょっぴりクールってだけですよ、えへ。えぇっと、それで……あなたは一体……?」
クールに謙遜を交えた返答をしつつ本題へ。
目の前のおじさんの爽やかで上品な雰囲気に惑わされそうになってしまったけれど、そういえば俺は今ガウの救出に来ているのだ。ぽわぽわしていないでしっかりしなければ。
とりあえず低姿勢で縮こまりながら尋ねてみると、男は緩やかに微笑んで答えた。
「私の名はチェレスティーニ。是非チェレスと呼んでくれ、我が同士」
同士……?何やら気になる単語が聞こえたけれど、とりあえずは疑問は保留にしておいて俺も挨拶を済ませる。
敵さんとはいえ、名乗られたら名乗り返さないと失礼だからなっ。
「おれ、ルカです。ガウを、だいじな側近をかえしてもらいにきました」
「おや……直球だな、その様子だと前置きは必要ないらしい」
顎を撫でながら呟く男に、できる限りのクールな表情を返す。
前置きは必要ねぇ!とっとと本題に入ろうぜ!とかクールな感じで捉えられているみたいだけれど、実際は難しい話とか理解できないから単刀直入に話してくれぃ……と涙目になっているだけだ。
まぁでも、俺のことを超絶クールなだけの有能だと思ってくれているなら好都合。
このままポーカーフェイスを保って、切り札のダグラスと一緒にかっこよく救出劇を決めるぞっ!
「ふむ。では早速本題に入ろうか。その前に、ここへは一人で来るようにとの約束だったのでな、護衛は外に摘まみ出させてもらうぞ」
「…………あぇ?」
ふふん、とクールにドヤ顔を決める俺に、ふと男が衝撃発言をサラリと放った。
数秒固まり、やがてハッと振り返る。いつの間に移動したのか、弓矢の男が透明化の解けたダグラスを引き摺って部屋から出ようとしていた。ちょちょっ、ちょっと待てぃ!!
慌てて立ち上がり、ぶわぁっと滝の如く涙を溢れさせて手を伸ばす。
「らららっ、らすかるぅぅーっ!!」
「ダグラスだっつってんだろォ!」
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