異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

126.唯一無二の主

 
 気絶したガウを片腕で俵みたいに抱えたジャックが、とてとて駆け寄った俺をひょいっともう片方の腕で抱き上げた。ジャックは細身だけど、実はめちゃくちゃ力持ちだ。
 ジャックがスラム街で怪物だの何だの言われていたのは、こういう人間離れした力も関係しているのかな。俺からすれば、ジャックの段違いな力持ち具合はかっこよくて尊敬しか抱かないけれど。

 ジャックに抱っこされながら、近くに見えるガウの気絶した顔をぺちぺちっと叩く。
 うーむ反応はないな、しかばねのようだ。起こしたらまた意志関係なく暴れ出すかもしれないし、こうして気絶させたままそっとしておこう。


「主君、奴はあの切り裂きジャックです。ここは一旦退いた方が良いかと」


 ヒソヒソとした話し声にハッと振り返った。
 険しい顔の敵さん達を見て苦笑する。ジャックってば黒幕にも恐れられるくらい強いのか。
 いや、ジャックの強さなんて俺が一番よく知っているけれど……でも、原作ではアンドレアに捨て駒扱いされていたジャックだからこそ何だか不思議な感覚がする。
 思えばアンドレアがジャックを捨て駒にしようとしたのも、ジャックの浮世離れした強さに危機感を抱いたから、なんて理由だったっけ。

 主人公にも黒幕にも恐れられるジャック。もしかして作中最強はジャックなのでは……?なんて安直すぎる考えが浮かんでしまった。いやでも、一概に否定はできないような……。


「なになにぃ?僕だけ仲間外れとかひどぉい!殺し合いなら僕も混ぜてよぉ」


 自分より大きな図体のガウと、ちっちゃいけれど荷物になる俺を抱えたまま器用にナイフを構えるジャック。
 ごめんよ、俺がとてとて駆け寄ってしまったばかりに面倒くさいことになっちゃったね。

 ぱたぱた、と手足を動かして抵抗し、ジャックの抱っこからぬるっと抜け出す。
 アクション漫画の胸熱シーンっぽい所からそろりと脱出して、今度はアンドレアのもとにとてとてーっと戻った。むんっと腕を伸ばし、ぴょんぴょん跳ねながらおねだりする。


「おにーさま、だっこー」

「ん」


 背後で始まるジャックvs弓矢の男……もとい狐獣人の戦闘をよそにアンドレアと抱き締め合う。
 むぎゅー……っと。うむうむ、今日も素晴らしい抱っこで大満足じゃ。ぽかぽかぬくぬく。
 横から「こんな近くでドンパチやってるってのに呑気なガキだなァ」とダグラスの呆れ声が掛けられても、気にせずアンドレアに抱き着いてうりうり頬擦りし続けた。

 気丈にチェレスと一対一で対峙していたけれど、実は結構怖かったのだ。その恐怖やら何やらというものが今、アンドレアと抱き合ったことで安堵として表に流れ出してしまった。
 だから、こうしてちょっぴり充電するくらい許してほしい。終わったらまた、ちゃんと頑張るから。


「ルカ、疲れただろ。側近も無事に回収出来たことだしそろそろ帰るか」

「オイお前ら兄弟揃って呑気か。前見ろ、絶賛殺し合いの真っ最中なンだわ」


 うにゅうー……とぐったり力を抜いて凭れかかる俺をぽんぽん撫でながら、アンドレアが魅惑の言葉を口にする。
 確かに疲れたから直ぐにでも帰りたいけど、でもむりだよぅ。ダグラスの言う通り今はちょっとアレだもの。ジャックが楽しそうにナイフ振り回しちゃってるもの。


「あはッ!狐くんってば結構頑張るねぇ。君の主君サマ、君のことただの捨て駒だと思ってるみたいだけど守る意味あるのぉ?頑張ったってソイツは何も返してくれないのに」


 愉快気な笑みを湛えたジャックが紡いだ言葉を聞いて、狐獣人の動きがふいにピタッと止まった。
 焦燥と不安を滲ませたチェレスを狐獣人が無言で振り返る。傍から見ても感情がまったく読めない視線にチェレスがビクッと震え出した。
 最早さっきまであった威圧感やら余裕やらは完全に消え去ってしまったらしい。

 数秒の沈黙が流れて、狐獣人の意思が揺れていると考えたらしいジャックがふいに薄く微笑んだ。


「大人しくその反逆者を差し出してくれるなら、君の命は助けてあげるよぉ?ね、いいよねおにーさま。首謀者じゃないし、命くらいは助けてやっても」

「……そうだな。必要なのは王弟の首だけだ」


 ぶるぶると震えるチェレスが何だか可哀そうに思えてきた。
 こうして見ると、確かに王様の兄弟だなぁとしみじみ思う。ぱっと見は華やかな印象を受ける強者に見えるけれど、実際は王族っぽくない怖がりの小心者。

 似た者同士、兄弟仲良くとかは出来なかったのだろうか。
 いや、兄弟とはいえ、そんな簡単なわけじゃないか。俺とアンドレアだって、全然簡単な関係なんかじゃないし。ここまでの過程やら日々やらもすごく複雑だったし。
 それが王族ともなると、尚更なのかもしれない。


「……あなただって」


 アンドレアとジャックの会話をじっと聞いていた狐獣人が、ふいにぽつりと声を零した。
 やっぱり感情は読めない。淡々とした声音につられてジャックも振り返る。狐獣人はジャックを見据えて、今度ははっきりと呟いた。


「それを言うなら貴方だって、どうしてそのような無知で馬鹿な子供を主君として慕っているのですか」

「……はぁ?」

「聡明な訳でもなく身体能力に長けているわけでもない。寧ろ頭は悪い馬鹿だし体力など無いも同然。そんな何の取り柄もない子供を何故?貴方なら、主などいくらでも選び放題でしょうに」


 や、やめてくれよぅ。俺ってば泣いちゃうよぅ。

 この人の言葉は尤もだ……だからこそ棘みたいにグサグサ刺さってとっても痛い。
 その通り、ジャックは本来、俺みたいなちんちくりんを主人にするような人間じゃない。むしろジャックが誰かのご主人様になる方が自然なくらいだ。
 だというのに、ジャックが俺の側近という立場で甘んじている理由。思えば、その理由を深く探ったことはあまりない気がする。


「……なに言ってんの?君にご主人様の何が分かるのさ。確かに傍から見たら確かに、ご主人様は超アホの子だけど……僕にとっては唯一無二の主なんだ。無礼なこと言わないでよ?」


 じゃじゃ、じゃっくぅ!と思わず涙をぽろぽろさせながらキラキラ視線を向けてしまった。
 超アホの子っていうのは余計だけれど、それ以外はすっごく嬉しいセリフだ。ジャックが俺のことをそんなに強く慕ってくれていたなんて。


「私も、貴方と同じですよ」


 感動でそわそわしているところにふと響いた狐獣人の声。
 はっと視線を移し、息を呑む。狐獣人は気絶させたらしいチェレスを肩に抱えて、何の色も籠っていなかった無表情にほんの微かな苦しげな笑みを浮かべていた。


「破滅に堕ちようとする愚かな小心者でも、私にとっては唯一無二の主君なのです」


 そのセリフを最後に、彼はふと内ポケットから取り出した紙切れのようなものを足元に落とした。
 その紙に書かれたものがチラッと見えて瞬く。あれってまさか……“魔法陣”?
 呑気にぱちくりする俺をよそに、アンドレアとダグラスは同時に目を見開いた。狐獣人と対峙するジャックも同様に。


「あの野郎、魔術師だったのか……ッ!」


 ダグラスが手のひらに炎を生み出し、それを勢いよく放つ。同時にジャックも鋭利なナイフを投げ込んだ。
 けれど、攻撃はどれも見えない盾のようなものによって遮られ、ついにその魔法陣が展開されてしまう。視界が真っ白になるくらいの強い光が二人包み込み、そのあまりの輝きに耐え切れず、俺は思わず目を閉じた。


「“それ”はお返し致します。片腕を失った欠陥品でも再利用が利くというなら、どうぞご自由に」


 最後にムカッとするセリフが聞こえて、なんだとこら!と言い返す為に目を開くと……そこにはもう、チェレスと狐獣人はいなかった。
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