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五章
146.どろだんごとクールなお城
「いや、待て!花嫁よ、君は何も知らないからそんなことを言えるのだ!まずは話を」
「その耳は飾りですか?ルカちゃんは俺と結婚すると言ったんです。話もクソもありません」
ルンルン気分で俺を抱っこしたロキが立ち上がると、呆然としていた王太子がふいにガタッと立ち上がった。
強者っぽい余裕気な雰囲気から一気にポンの空気を纏い始める流れ、ポンコツパパンとポンコツおじちゃんに完全一致でもはや苦笑ものである。ロキと対等に話していたくらいだから王太子は一線を画すのかな?と思っていたけれど、どうやらそんなことはなかったらしい。
淡々と客間を出ていこうとするロキに王太子が背後からしがみつく。なんというかもう、王族の威厳もプライドもかなぐり捨てたみたいで見ているこっちがはわわっとなりそうだ。
「待て!待ってくれ!ロキ、お前は分かるだろう?危うい王家の現状が!今均衡を崩されては、私は愚かな父諸共破滅してしまう……!」
「勝手にすればいい。王家が没落したら今度は俺が王になってルカちゃんの為の国を作ります。王太子殿下、貴方の愛する国の未来はどちらにせよ明るいのでご安心を」
ろきぃぃ!と情けなく響き渡る王太子の声。さっきまでの俺様っぽい雰囲気はどこへやら……。
みっともなく地面に伏せてロキの足元に縋りつく王太子……こんなの民に見られたら大スクープどころの騒ぎじゃないぞ、とちょっぴり憐れに思えてきた。
王太子ってば、顔自体は本当に精霊みたいに神秘的な美女だから、こういう姿を見せられると心が揺らいじゃうんだよなぁ……。
だってさ、男なら、綺麗なお姉さんの涙なんて見たくないじゃんか。なぁ?
というわけで、憐みに耐え切れなくなった俺はロキにお願いをすることにした。
ツンツンと突っつくとすぐに向けられる蕩けるような甘い笑み。それに俺もニコッと笑顔を返しつつお願いをする。こらこれ「にこにこルカちゃん可愛いッ……!」とか言って悶絶してないでちゃんと聞くんだぞ。
「なんか、王子さまかわいそうだぞ。やっぱりお話くらいは聞いてあげないか?」
「えぇー、お話聞いてあげるの?ルカちゃんったら、ほんと優しい子なんだから……ま、そういうところも好きだけどっ。ちゅっ」
「んむっ!きゅうにちゅーするなっ!びっくりするんだじょっ!」
突然のむちゅっとしたチューを唇に受けてぷんすかする。今はちゅーするところじゃないぞ。
ぷくーっとほっぺを膨らませてぱたぱた抵抗する。抱っこからすぽっと抜け出し、芋虫みたいに丸まってズーン……と絶望のオーラを纏う王太子のもとへとことこ。
背後から聞こえた「ちゅーするの自体はオッケーなんだ……」という歓喜と執着に満ちた声は知らないフリだ。おれはなにも聞いていない、いいね?
「王子さま、王子さま。お話きいてあげるから、元気だすんだぞ。さっきは、ひどいこと言ってごめんなさいだぞ。めんしゃ、めんなさ、ごめんなさい」
「ごめんなさいできてえらい!」
ごめんなさいのお辞儀をすると、背後から掛け声みたいにロキのキャッキャとした声が届いた。
ロキのキャッキャウフフな言動は今に始まったことじゃないので普通にスルーだ。ごめんなさいの姿勢から戻って王太子をじっと見下ろすと、やがて彼はそろーりと顔を上げた。
さっきまでの余裕たっぷり俺様顔はどこへやら。子犬みたいなきゅうんとした涙目と、どこか庇護欲をそそられる情けない表情……もはやさっきとは別人である。
この人が未来の王様かぁと考えると、何やら漠然とした不安が湧き上がってきたけれど……それについてはとりあえず置いておくことにした。
ま、まぁ、こう見えて意外とお仕事は出来る系の人なのかもしれないしな、うむ。
「ほんとうに?本当に、私の話を聞いてくれるのか?我が花嫁よ……」
「あっ、その花嫁ってのはやめるんだぞ。つぎいったら、もうお話きかないからな」
「すまない。話を聞いてくれてありがとう。ロキの花嫁よ」
それもちょっぴりちがうが……と困惑しながらも、まぁいっかととりあえずは許すことにした。
背後でロキが「えへへルカちゃんが俺の花嫁ぐへへ」と一人妄想に耽っている気配がするが、それも華麗にスルーだ。言っとくけど、別にロキの花嫁発言を認めたわけでもないからな。
「よし、そうときまれば王子さまも来るんだぞ。いっしょにあそぼう、すなあそび」
「すっ、砂遊びっ?」
「うむ。お城つくるんだぞ。いっしょにな、お城つくろう。つくりながら、お話きいてやるからな」
真ん丸に蹲っていた王太子の手を取って立ち上がらせる。
困惑気味な王太子を半ば強引に連れて、ロキと三人で庭へと駆け出した。
***
「いいか王子さま。コツをおしえてやる。コツはな、土をちょっぴりお水でぬらすんだぞ」
「そうすると土が少し固くなって、形を作りやすくなるんだよね。ルカ先生」
「うむうむ。そうでござるぞロキくんよ。さすが、いつもおれとお城をつくっているだけあるでござるな、ロキくんよ。ふぉっふぉ」
俺がヴァレンティノ家の庭で遊ぶようになってから作られた、俺専用の砂場。
庭石で区切られた広い砂場の中心で、ロキと王太子と三人で丸くなってしゃがみこむ。
王太子は砂に触れることを躊躇しているみたいだが、ロキは手慣れた様子で泥団子を続々と増やしていた。そうそう、まず初めに泥団子を量産するんだよな。ロキってば物覚えがよくてよきよき。
俺とロキの手でたくさん作られていく泥団子を見てあたふたする王太子。砂に触れることすら躊躇っているのを見る限り、こういう遊びはあんまり得意じゃないのだろうかと尋ねてみた。
「王子さま、すなあそびはきらいか?どろだんご、つくるのいやか?」
「は、あぁ、いや……この手の遊びは汚くて下品だからと、幼少期から禁じられていたものでな……。どうしても、少し抵抗感があるんだ。土に直接触れるなど、考えたこともなかった……」
汚くて下品、抵抗感がある。そう言いながらも、王太子の瞳にはどこか期待の滲んだ色が見える。
そういえばアンドレアやロキも、最初の頃はそんなことを言っていた気がする……汚いだとか何だとか。でも、俺と一緒に砂遊びをしていくうちに慣れていって、今では積極的に泥団子を作って泥だるままで完成させるようになった。
きっと王太子だって、本当はやってみたい!楽しみたい!って思うものに次第に慣れて、楽しく遊べるようになるはずだ。
「ほれ、王子さま。とにかくやってみるのがいいぞ。いやだったら、おれが王子さまのどろだんごもつくってやるから心配するな」
むっふーっと笑顔を向けて言うと、王太子はそわそわしながらもこくっと頷いた。
恐る恐る土に手を伸ばして一掬い。俺やロキの手の動きを見よう見まねでぎゅっぎゅっと土を固めていく。上から水をちょろちょろーっとかけてやると、土はたちまち泥になって、王太子の綺麗な手を泥でねちゃあっと汚してしまった。
けれど、王太子がムカッと怒る様子はない。むしろ新たな感覚をとっても楽しんでいるみたいだ。
「わ、わっ!おいロキ、泥がねちゃっとしているぞ……!これは良いのか?このまま固めて良いのか?ねちゃっとしているが、構わないのか……!?」
「やかましい。泥はねちゃっとしているものですよ。ガキですかまったく」
子供みたいに瞳を輝かせながら騒ぐ王太子と、光の速さで泥団子を量産するロキ。
対照的な二人の様子をニコニコ見守りながら俺もせっせと泥団子を増やしていく。やがてちょうどいい数の泥団子をみんなで作り終えたところで、楽しそうに泥団子を量産していた王太子がふいにハッと息を呑んだ。
「はっ!そういえば花嫁よ、私の話の件はどうなったんだ?話しても良いのか?良いか?」
「う?うむ。もちろんいいぞ。お城つくりながらたのむな。おれがかべ、ロキがやね、王太子は土台だぞ、わかったか?」
「うむ分かった。ちなみに、土台というのはこういう感じで良いのか?もっと厚くするか?」
「むーん、もうちょいあつくていいぞ。ムラができないように、しっかり泥をのばすんだぞ」
「あいわかった」
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