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五章
172.監禁
目が覚めると、ふかふかのベッドの上に転がされていた。
両手は背に回された状態で縛られていて、足首にはそれぞれ枷が付けられ、ベッドの柵に鎖で繋がれている。何というか、いかにも“監禁されてます!”って感じの雰囲気だ。
あまりにもテンプレすぎる監禁状況に、思わず恐怖よりも感激の方が勝ってしまった。これが例の監禁なるものか、ふむふむ。思っていたより余裕で怖くて泣いちゃいそうだぞ。
「むん……どういうことだってばよ……」
なんだなんだと困惑しながらもとりあえず気合で起き上がる。
何はともあれ、まずは状況を把握するところからだ。こういう場に陥って一番マズイのは冷静さを欠くことだって、昔からアンドレアやロキにガミガミと伝えられていたからよく分かる。
手首の拘束も足首に嵌められた枷も、俺一人の力では外すことが出来ないみたい。
鎖で繋げられている以上、ベッドから下りることもムリそうだし……動ける範囲は、完全にベッドの上だけに制限されているようだ。
そんでもって、こんなことになってしまった経緯だが……えぇっと、俺はばたんと倒れる前に、何をしていたんだっけ?
「ふーむ、ふむ……夜会にいって、プリンたべて、クッキーもぐもぐしてぇ……」
いや、この辺は飛ばしてもいい回想か。もぐもぐタイムをシュピッと早送りして、それらしき場面へと記憶を進ませる。
やがて辿り着いた“発端”の場面を思い返し、俺は思わずふーむ……と眉尻を下げた。
「なんてこったい」
ぐぬぬと呻く。まず間違いなく、俺がばたんと倒れてしまった原因はあのジュースだ。
そう、ハオランからどうぞともらったあのジュース。あの中に、たぶん何かしらのアレが混入されていたのだ。その、あの、アレだ、何かしらの、悪者が使うようなアレが。
つまり俺は、ハオランにまんまと嵌められてしまったってこと。優しそうな三つ編みお兄さんだからって油断しちゃったぞ。
優しそうな顔して実はサイコパスだというロキの前例があったというのに、俺ってやつは……。
「どうしたもんかのぅ……」
冷静に状況把握を済ませたところで、ごろりんちょ、とベッドに転がった。
いや、正直、ぶっちゃけあんまり慌ててはいない。なんたって、ここまでの流れは全て夜会で起こったものだから。
あれだけの人数が参加する夜会で、二大ファミリーの子息である俺が姿を消した。それくらいは、たぶん誰かしらがすぐに気が付くはず。ロキか、アンドレア辺りがすぐに察知するだろう。
そしてもう一つ。気を失う前に見たけれど、護衛らしき構成員たちが、恐らく敵さんによってみんな倒されていた。誰か一人くらい目覚めてアンドレアに報告でも何でもすれば、俺の異常事態はなるはやでみんなに伝わるはず。
とか色々あって、あんまり焦る必要性がないと判断した。
こうして目覚めるまでにも時間が経っているだろうし、なんならそろそろお助けが来るんじゃないか?そんな悠長なことをのほほんと考えるくらいには、ぶっちゃけ油断していた。
「そういえば、いま、何時だろ」
おたすけまだかなーなんてぽけっとしながら、ふと気になって首を傾げた。
今は一体何時なのか、そしてここはどこなのか。今更すぎる疑問が湧き上がり、それを解決すべく辺りをきょろきょろと見渡す。
考えごとばかりしていて、部屋の状況を確認するのを忘れていた。
ベッドを覆うようにして四方を囲んでいるレースのカーテン。それを、頭を突き出してなんとか少しだけぺらりと捲り、部屋の様子を確認してみる。
天蓋付きベッドがあるくらいだから広さはかなりのものだろうと思っていたけれど、やっぱり思った通りみたいだ。内装はいかにもって感じがする貴族の部屋っぽい。
だとすると、ここはやっぱりどこかしらの貴族の邸って可能性が高いだろうか。
一番怪しいのは、今のところガースパレ家だ。なんたって俺を罠に嵌めた張本人がハオランなのだから。となると、やっぱり黒幕はガースパレ家ってことになる。
「ハオランが、くろまく……」
なんとなく呟いて、じわりと湧き上がった違和感に首を傾げた。
この違和感、ハオランの表情を目にする度に抱いていたけれど、一体何に対する違和感なのだろう。
うーむと唸り始めた直後、ふいにガチャッと扉の開く音が聞こえて硬直した。
スタスタと足音が近付いてきて、途端に湧き上がる不安を纏うように縮こまる。涙目になりながら身体を強張らせた瞬間、天蓋のレースカーテンが静かに開かれた。
現れた人物を見て、思わずむんっと息を呑んだ。
「は、はおら」
「しーっ。静かに」
おいてめーこら!くらい言ってやろうと開いた口は、すぐに大きな手によって塞がれてしまった。
まるで周囲を警戒するみたいな、その仕草に眉を寄せる。ハオランは黒幕のはずなのに、どうしてこの場で周囲を警戒する必要があるのだろう。
むぐむぐ、と抵抗する俺を赤子にするみたいによーしよしとあやしながら、ハオランは申し訳なさそうに眉尻を下げつつ囁いた。
「ごめんなさいルカ。拷問も罵声も、終わった後に全て受け入れますから……今はどうか、大人しくしていて。言う通りに。そうすれば、痛いことはされないはずですから」
早口で紡がれる切実そうな声音に目を見開く。
なんとなく、ハオランが今、俺のことを心配してくれていることは確かだと察した。本能的に、ハオランは敵じゃないと頭が認識したのだ。
それなら、一体ハオランは何なんだ?俺を騙してここまで連れ去ったのはハオランのはずなのに……もしかして、ハオランを駒にしている黒幕でもいるのだろうか。
冷静に考えながら、切実に諭される願いにこくっと頷いた。
とりあえず、今は敵じゃなさそうなハオランの言う通りにしておこう。俺だって、痛いことをされるのは嫌だし……。
「すぐに助けが来るはずですから、どうかそれまで耐えてください」
そう言って、ハオランは俺の口を塞いだ手をとって離れていってしまった。
耐えてというのは、単純にこの監禁された状況で冷静に待っていて、という意味だと思っていたけれど……。
ハオランの苦悶の表情を見て、この先の展開が単なる救出劇だけではないのだということを、俺は何となく悟った。
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