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本編
30.どこへだって
「雲雀?どうしたの、今日学校…だよね…?」
「早退した。帰れって先生に言われた。湊さん休みって聞いてたから来ちゃった」
「まぁ、あんなことあったしそりゃ気遣われるわな」
「神楽くんまで…」
「あ、俺はサボりっす」となんてこと無さそうに言う神楽。突然家に来た俺達にきょとんとしている湊さんに「急に来てごめん」と頭を下げた。
例の事件から日曜日を挟んだ休日明け。
普通に学校へ行くと昇降口で神楽とばったり会い、「お前何で来てんの…?」とマジで理解不能とばかりに困惑顔を向けられた今朝の出来事。
なんか視線感じるなぁと思ってたが、どうやら例の件が既に学校中に広まってるらしかった。現代の情報網怖い。
気にせず教室へ向かおうとした俺だったが、途中で担任と鉢合わせ。
ギョッとした顔でガン見され、直ぐに職員室に呼び出しを受ける。すたすた向かった先で言われたのは、「もう少し落ち着いてから来い」というもの。
もう落ち着いてます、と答えた俺に更にギョッとする担任。何となく着いてきてくれてたらしい神楽が横に来て、「お前じゃねーよ」とツッコミ。
はて?と首を傾げる俺に、神楽が呆れたような顔で教えてくれた。
「お前はもう吹っ切れてるだろうけど、周りは今日から騒ぎ出すぞ。お前の親父、無駄に有名だったろ。早速メディアに流れてんだよ」
そう言って神楽がスマホを取り出し、何やら有名だと言うニュースサイトを開く。かなり大々的に見出しが書かれていた。
義父はあれで結構な企業の重役だったので、世間も興味津々らしい。息子への虐待に会社の不正…サイトのコメント欄は、義父への批判と哀れな息子への励ましに溢れていた。
ざっと読んだが、特に何の感情も湧かなかった。記事があまりにも大事みたいに書かれてるのを、半ば他人事のように読んでしまった。
「神楽、ちゃんと晒してくれたんだ」
「そこかよ。いや、まぁ俺もやったにはやったけど、裏で手ぇ回したのはお前の彼氏だぞ」
「…湊さんが?」
目を見開く。神楽は何故かげっそりしたような顔で頷いた。何やら「マジで怖ぇんだぞあの人…」と呟いていたが、小声過ぎて聞こえなかった。
「お前の実名と学校名、徹底的に伏せるようにって指示したらしい。けどまぁ、それでも周囲にはバレちまうもんだな…たぶんお前のことそれなりに知ってる奴が近くに居たんだろ」
「中学の時の…同級生とか…?」
そこら辺かもな、と神楽が頷く。
同級生の不幸話を会話のネタにするなんてクズだなぁ…とは思うが別に怒りとかは無い。拍子抜けするくらい、本当に何も思わなかった。
ふーんと言いながらスマホを返す。「他人事だと思ってんじゃねーだろうな」と額を小突いてくる神楽にビクッとした。そ、そんなことないよそわそわ。
「っつーわけでだ。お前は当分学校を休んだ方がいい、来ても周りに絡まれるだけだろうしな」
「それはウザイね」
「はっきり言うなぁ…まぁウザイけど。ウザイからさ、周りが落ち着くまでお前もあんま表に出ない方がいい。そういうことですよね先生」
「あ、あぁ…そういうことだ」
お前らってそんなに仲良かったか…?という担任の呟きは無視する。悪うございましたよ、ぼっちじゃなくて。人とつるんでる俺の姿は珍しいですよね、はいはい…。
すん、と真顔で落ち込む俺の肩を叩き、神楽が「分かったら帰るぞ」と言って踵を返す。担任が「え、お前も?」と驚いたように声を上げた。
神楽がそろりと振り返る。「何か文句ありますか?」という問いに、担任は「い、いや無い!気を付けて帰れよ!」と慌てたように返した。
「―――…と、いうわけなんです」
隣に座る神楽がコップをテーブルに戻した。中のコーヒーは空になっている。飲むの早いな。
説明を終えて、俺もココアを飲んだ。乾いた喉が潤っていく感覚に息を吐き出す。湊さんがなるほど、と頷いて問いかけてきた。
「それで…どうして神楽くんまで一緒に?」
「すいませんね、二人きりの時間をお邪魔しちまって」
「いやいや、大丈夫だよ」
にこやかに首を振る湊さんにほわぁと頬を染めた。そんなことないよってフォローする湊さん優しい…すき…。
すぐ見蕩れてしまう俺の頭を、神楽が慣れたようにこつんと小突いた。ハッと我に返って湊さんの問いに答える。
「あの、これから一緒に母さんに会いに行こうと思って」
「え…」
湊さんが文字通りフリーズした。ピタッと固まったかと思うと、ガタガタと小刻みに震え出す。
らしくなく顔を青ざめさせ、「ど、どどどうしよう」と慌て出す彼にきょとんと首を傾げた。神楽は何やら呆れたように溜め息を吐いている。
いよいよコーヒー零しちゃうんじゃないか?と不安になるくらい彼の震えが大きくなった頃、神楽が呆れ顔で言った。
「何か勘違いしてるみたいですけど、そういうんじゃ無いですよ。俺も行きますし」
「え、なんだ…結婚の報告に行くんじゃないのかぁ…」
「はっ…?ち、違うよ!その…まだ早いよ…っ」
「雲雀…!」
どうやら彼はとんでもない勘違いをしていたらしい。確かに俺の言い方が悪かったけど、それにしても早まり過ぎだ。
頬を染めてぼそぼそ口にした呟きに、湊さんが嬉しそうに瞳を輝かせる。「結婚してくれるんだね…!」と言ってふにゃあと笑う湊さんが可愛い。
するに決まってる、湊さんとの未来のために生きるって決めたんだから。
そわそわする俺とにこにこふにゃあとする湊さん。そんな俺達を面倒くさそうに眺めていた神楽が「いい加減にしろ」と吐き捨てた。
「人の前でイチャつかないでくださいよ。見てるこっちが恥ずいわ」
「い、いちゃついてなんか…」
「照れるな照れるな」
目を伏せてもじもじする俺に、神楽がすかさずツッコミを入れてきた。無意識に手をパシィンッとやってるのがもう本業っぽい、漫才師目指せるよ。
「てか結婚って…雲雀、海外に引っ越すのか?」
「俺そこら辺よく分かんない。湊さんはどう思う?」
「将来的には移住したいよね。雲雀が良ければ…だけど」
もちろん良いよ、と即答する俺に湊さんは嬉しそうに笑う。湊さんの為なら海外だろうと何処へでも行く。地獄にも行く。
でも困ったな、海外で暮らすなら英語を学ばなきゃいけないが、英語の知識は中学で止まってるから中々キツい。苦手なんだよなぁ…英語…。
まぁ最悪引きこもっても湊さんなら許してくれるはず。最近の彼の様子から考えるに、何なら引きこもった方が喜ばれそうなまである。
また無意識にぐるぐる考え事していたことに気付きハッとする。視線を感じて隣を向くと、何やら不満そうな顔をした神楽が頬を小さく膨らませていた。
そのまま溜め息を吐いて、神楽はボソッと呟く。
「…俺も行こっかなぁ」
「……は?」
「神楽も一緒!楽しそう!」
湊さんと神楽と俺、三人で海外生活…わくわく!と胸を高鳴らせる。ところが二人は、そんな俺とは全く異なる反応をしていた。
神楽はうーむ…と真剣に悩み込んでいるし、湊さんは何故か神楽をじっと睨み付けている。この短時間で一体何があったんだ。
にこっと笑顔を浮かべた湊さんだが、頬がピクピクと引き攣っている。発した声も、トーンこそ明るいが何処と無く震えていた。
「神楽くん?まさか着いてくるなんて言わないよね?」
「え?着いていく気満々っすけど」
湊さんの額に青筋が浮かんだ。表情自体は笑顔だから違和感が半端ない。
彼がどうして怒ってるのか俺にはよく分からなかったが、神楽には理解出来たらしい。神楽は「あっ」と何かを察したように固まって、慌てた様子で首を振った。
「いやいや、別に何も一緒に住むわけじゃないですよ。あ、でも家建てたら教えてください、隣に俺の家建てるんで」
「実質一緒に暮らしてるようなもんだね!」
「………」
そわそわ、わくわくと話に割り込んでしまった。いや、だって嬉しくて…。
湊さんと結婚出来て一緒に住めて、更には隣に神楽も住んでる。こんなに楽しい未来、他に想像出来ないだろう。
移住すること自体に不満は無い。湊さんと神楽が近くにいるなら、俺にとっては何も変わらない最高の環境だ。
俺にとって、大切で必要だと感じるのは二人だけだから。
「ってあれ。湊さん、大丈夫?」
「……うん…まぁ…雲雀が喜ぶなら…何でもいいや」
顔を両手で覆って項垂れていた湊さん。
慌てて声を掛けると、彼は「はは…はっ…」と乾いた声で笑った。
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