クローゼット

友人

「これは、私の友人の話なんだがね…」

老婆はまた話し始めた。

「その友人の祖母は、いつも不平不満ばかり垂れている人だったらしいんだよ。年を重ねる毎に心を病んでしまったらしくてね、酒浸りの毎日。その子供、つまり友人の母親は、ろくに子育てしてもらえず、愛情をほとんど受けずに大人になったそうだよ。愛を知らない友人の母親もまた、自分の母親と同じような道を辿ったらしくてね…友人はとても苦労したと聞いてる。」

「それは…ご友人はとても辛い思いをされたんですね…。」

私がそう言うと、老婆は寂しそうな顔をしながら笑顔を作った。

「そのご友人は、今どうされてるんですか？」

「友人はね、表面上ではわからなくしているけど、今も本当は心は闇の中のままさ。もしも、友人の祖母が少しでも違っていたら、何か変わったかもしれない。そう思っているんだよ」

老婆は、急に姿勢を正してこちらを真剣に見た。

「お嬢さんも、そうなってからでは遅いんだよ。どうか、何もない日常を楽しんでおくれ。もしも何もないのが嫌だって言うのなら、楽しい事を自分で探すんだ。それは、誰かが見付けてくれるわけじゃない。自分にしか見付けられないんだよ。」

それから老婆は、今にも泣きそうな表情を浮かべながら、私に色んな話をしてくれた。