上 下
4 / 34
漫画家とアイドル

質問タイム

しおりを挟む
「じゃあ、伊永くんには、先生への質問をお願いしましょか」
 早速、私に向き直るメンバーたち。
「え、待って、じゃあ、一つ目、先生、好きなアイドルが居るって聞いたんですけど、ずばり、誰なんですか?」
うわ、めっちゃ情報もりもりな感じで核心ついてくるじゃん。
「えと、あの、斉藤くんです」
「あー、斉藤くんは、もうね、やばいんですよね、まじ、わかります」
そう激しく同意をしてくれる伊永くんは、このメンバー内で唯一、斉藤くんとの共演経験がある。
「斉藤くんになりたい」
小さな声で紡がれた伊永くんの言葉に少しだけ体温が上がった。
 それは宙を舞い、空気中で霧散したかのようにも見えた。そして、進藤くんが口を開く。
「次の質問どうぞ」
「じゃあ、えっと、先生、俺らの中なら、誰が一番好きですか?あ、待って、これ最後が良いかも、え?ちょっと待って、俺やなかったら、しんどい。あ、先生、何歳?ちゃう、聞いたら、あかんよな、じゃあ」
「ちょいちょい、待ち。伊永くん落ち着いて?どれかだけやし、パンクして長台詞なりまくってるから。深呼吸して、ちょっと考えましょ」
 確かに。進藤くんの言うように、私も心配になるくらいの情報量だった。
「決めた、このメンバーだったら、誰が一番」
その質問は、伊永くんの質問を聞きながら、あー、結局、好きなメンバーにしたのかな。そう思った私の想像の斜め上をいく。
「背が高いと思いますか?」
え?他のメンバーも同じ一音が口から溢れていた。
「背ですか?」
「はい」
「伊永くん、だと思います」
「はい!そうです、俺です」
キラキラのアイドルスマイル。嵌められた。分かっていても、許してしまうのは、本当にこの人が可愛くてかっこいいから。
「あー!伊永、絶対、自分の名前言ってもらうためにそんな質問したんやろ!」
「作戦勝ちやで」
 ずっと、嬉しそうに笑っている伊永くん。本当に可愛い人だと思う。
「最後の質問どうぞ」
「先生、何で、先生は、蘇雨ってつけたんですか?」
最後の質問が、それで良かったのだろうか。そう思いながらも、私のくだらない話を始めた。
「字面が良いかなっていうのと、蘇って蘇るって読むでしょ?雨は降るものの例えとかで使われるし、蘇る雨、何となく、嫌なものでも好きなものになれないかなって、魔法的意味のあるものになったら、ファンタジーさで雨好きになる人いるかなとか、あ、すみません、語りすぎました。あんまり答えにもなってないかな」
「いえ、全然、好きです。耳が喜んでます」
多分、伊永くんの、このカットは使われない。だって、アイドルからの好き貰ったなんて、怖すぎるし、使えるわけがない。
 突如、伊永くんは、また、言葉を放つ。
「そんな意味があるんですね、凄いな、俺も雨好きになれそうです」
コメントが悪かったことに、すぐ気づいて撮り直し用のコメントを発する。やっぱりできたアイドルだとは思う。
「え、ちょっと、俺も聞いてみたいことあるんやけど!」
「はい?」
急に口を開いた白鳥くん。
「あの、何で、斉藤くんが好きなん?」
「何でって何でですか?」
「全部とか言うんかなって」
 その言葉に、私のオタクスイッチが完全にオンになる。気がついても止められないほどの気持ちが溢れ出す。
「全部?そりゃあ、全部ですけど、全部なんて簡単な感じに形容できないくらいなんですよ。大体、形容詞を重ねに重ねても、その魅力を余すことなく伝えることなんて不可能なのに、そもそも好きになるのに、理由なんてなくない?強いて言うならのレベルしか思いつかないし、何でって、そんなの、斉藤くんが自分を顧みないくらいメンバーのために、ファンのために、人のために頑張れる人だから、そんな素敵な人だから、ついて行こうって決めたしかないじゃん。てか、あとのことなんて全部後付けの理由でしかないし、たまたまイケメンで高身長で完璧な人間で、でも抜けてるとこあって、ちょっとドジなとこ可愛いなとか、ギャップ萌えじゃんとか、控えめに言っても最大限伝えようと思っても語彙力皆無になるくらいの存在って話じゃんって、すみません、キモかったですね」
ここまで一息、オタクオブオタクの語り方をしてしまった。
しおりを挟む

処理中です...