最も上のもっと上

雛田

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苦しい

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 本当に二人は、よく似ている。そんなことを思って、一息つくと、歌が終わって、姫が口を開いているところだった。
「今日は、新曲を披露してくださるんですよね?」
姫の声が会場内に響くと、すごい盛り上がりを見せる人たち。
「是非。歌わせてください」
そう言って、流れ始める音楽。派手で鮮やかな音が響く。
 やっぱり、いつ聴いても上手だなと思う。しかし、歌詞が始まった途端、文字の羅列が、気になってしまう。言い回しや、字余り、音余り、そこに勝手に脳内で赤ペンが走る。
 自分が集めたメンバーだからだろうか。こうやって、バツをつけたりするのが、きっと居心地悪かったんだと思う。気づかないうちに、空気を悪くしてしまっていたのかもしれない。
 でも、それは、全て、勿体無いと思ってしまうから。この音楽は、最高なのに、こっちにした方が良いのに。もっと良くなるのに。そうやって、理想を描いてしまう。
 そら、すかい、くう。片足、一本足、案山子。一番、合う音を、言葉を探し始める。もう、それが染み付いてしまっているのだ。やっぱり、俺の中では、まだ、俺のバンドだから。
 隣にいる、いろはくんがポツリと問いかけた。
「ねえ、がっくん。やっぱり、がっくんの詞が要るんじゃない?」
「俺も、そう思ったけど、あれで良いんでしょ」
あのバンドには、あれが良いのかもしれないから。
「そっか。でも、俺、がっくんの詞の方が好きだな」
「ありがとう」
その言葉のおかげで、逃げずに済んだ。そして、曲を最後まで聴く。終わった瞬間、回場内に拍手が鳴り響く。
 拍手の合間に、ボーカルがマイクを通して言葉を届ける。
「えー、実は、僕たち、このバンドでデビューする際に、色々ありまして、メンバーが一人辞めてるんです。そして、それが、作詞してるメンバーだったこともあり、新曲のペースが下がって来ているのが現状でして。本当、何で、このタイミングでって感じだったんですけど。それで、この後、もし、よろしければ、あと一曲聴いていただきたいです。良いですか?良ければ、みなさん、拍手でお答えください」
その言葉を受けて、拍手の音が会場を包む。俺は、正直、気が気ではなかった。さも、俺が望んで辞めたみたいに言うんだな。
 俺が居るなんて思わないから。でも、居なければ言ってもいいって訳じゃないと思う。そんな俺の気持ちを無視して、冷める俺の気持ちと反比例するかのように熱い拍手の音が大きくなる。

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