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すべては、生きようとする本能
しおりを挟むそれは、始まりの記憶だった。
胎児のようにうずくまっていた私は、一縷の露が頬を濡らす冷たさに、この世で初めて目を開けた。
その瞬間、巨大な鳥が黒羽を広げて空を暗黒に染めた。
そう思ったのは錯覚だったのかもしれない。
木々に囲まれた場所だった。清々しい空気。私は、大木の洞の中にうずくまっていたのだ。生まれたばかりの雛がするように、私はすがれるものを探していたのかもしれない。
見上げて映る、曇天を支配する巨大な鈍色の正体は雲だった。だがそうとわかってもまだその雲が、まるで意思を持った鳥のように私には見えていた。輪郭を持った黒雲が、急激な風に流されていく。遠ざかるその暗黒の塊が、いつまでも私には後ろ向きに飛ぶ鳥のように見えていたのだ。
一瞬見たその光景だけが、取り零した三界の記憶の断片であったかのように思う。
それも今は不明瞭な軌跡の中に埋没してしまっている。
私は十二歳の時、大木から生まれ出た。
それより前の記憶は、何もない。
その何もないものを探したくて、私の足はその大木のあった故郷へと向いていたのかもしれない。
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